第165話 絶対格差 2

 まさか……ユニオンは魔物だけじゃないのか?

 神のユニオンもいると?

 いやそもそも、この世界に北欧神話は無いだろう?

 まぁ、そんなことはこの世界に俺が知る魔物がうじゃうじゃいる時点で愚問なのかもしれないが。


「雷神トールだと? オレは神話にゃ詳しくないが、たしかにトールという名の神がいたことは記憶している。そして過去に大精霊や神のユニオンが存在したことがあるのも事実だ。レアケース故に見落としていたが、ならそのトール神ってのがオレのユニオンだとしても不思議じゃあないな。……ま、ユニオンが神だろうが悪魔だろうがオレはオレだ! 己の信念に従い戦うまでだがな!!」

 再びギルが突進しながら、薙ぎ払うような強烈な一撃を放ってくる!


 だが俺は、地を這うように身をかがめてそれをかわす。


「ジク・ラグ・ラム・クル・クド・パーファーシグマ 散れ紅玉!」

 そして俺はすでに呪文の詠唱を始めていた。


 奴の雷砲――たしかに脅威だが、打ち出す方向はハンマーの向きに依存する。

 ならば今のように軌道を読んで避けることも、場合によっては不可能ではない。

 もっともあの速度だ、失敗すれば頭が吹き飛ぶからあまりやりたくはないが。


  『 爆 連 泡エルピス・ゼム !!』


 俺は背後に飛びながら、ギルに向けて魔法を放つ。


 宙を漂うサッカーボールサイズの複数の熱球。

 速度は遅く追尾性能も低い。

 もっとも足止め用の魔法なのでそういう仕様なのだが。


 だがギルは怯むことなく正面の熱球をハンマーで叩き割る。

 爆裂する熱球。

 だがこの魔法の威力はこれに留まらない。

 熱球の一つが破裂すると、他の熱球も連鎖的に爆発するのだ。


 誘爆により次々と巻き起こる爆炎にギルが飲み込まれる。

 多方向からの回避不可能な攻撃。


 だがこれで倒せはしないだろう。

 まずはダメージを与えて弱らせたい。

 それほどまでに、あのハンマーの連撃は脅威だからだ!


 だが俺の攻撃の効果は、想像以上に低かった。


「なんだこりゃお嬢? 花火か? ガッハハハ!!」

 爆炎に包まれたはずのギルが涼しい顔でこちらに歩いてくる。

 鎧などは部分的にすすけているものの、肝心な奴自身にダメージが入っている様子がほとんど無い。


「バカな! 効いていないだと!?」

 たしかに威力低めの魔法ではあるが、たとえレジストしたとしてもあれでほぼ無傷というのはありえん!!  

 いや……まさか!


「気付いたようだなお嬢! そう、オレが唯一使えるのが、お嬢が使っているのと同系統のこの身体強化魔法だ! 鍛え上げたこの肉体をさらに極致まで昇華させてるってわけだ! オレの全身をみなぎる魔力によって強化された筋力は暴れ馬の雷砲らいほうを操り、鋼よりも硬くなった肉体は剣も魔法も跳ね返す! ちなみにこの魔力の効果はオレの武器と防具にも及ぶ。オレのハンマーがザナドゥを砕けるのも俺の魔力が通ってるゆえだ。どうだ凄いだろう? オレを倒したくば、次はもっとドデカい花火を持ってくるんだな!!」

 ギルはムキッとボディビルダーのように己の筋肉を誇示するポーズを取る。


「クッソ、この筋肉バカめ!」

 俺はギッと歯を嚙みしめる。

 たしかに奴の雷を操る力はギフトと言っていた。

 ならば奴自身の魔力の能力は、俺が使うものと同系統の身体強化魔法だったのだ!


 自分で言うのもなんだが、俺の身体強化魔法の効果は非常に高い。

 小さな岩程度なら素手で砕けるし、部分的に魔力を集中させればライアスの高速剣をも防げる。


 だが奴の力はその遥か上を行く!

 強化された筋力でレールガンの原理で打ち出されたハンマーを操り、硬化させた筋肉で並の魔法なら無効化する。

 しかも俺の場合は筋力強化と肉体硬化を同時に高レベルで行うことはできないが、ギルの戦い方を見る限り奴は双方同時に最高レベルで発揮されているようだ。


 つまり攻撃と防御共に隙が無いということ。

 こんなのが戦場に居たんじゃ一般兵ではまともにダメージすら与えられまいよ。

 どうりで悪名が轟くわけだ。


「だがなっ! スピードなら俺が上だぜ!!」

 俺はギルの懐に向かい猛ダッシュする。


「ラーク・ローグ・バル 飢えし魔棲種ませいしゅよ あさり 餌食えばめ!」

 そして走りながら呪文を唱える。


 攻撃力も防御力もギルが上。

 だが奴はあの図体だ。

 身体強化魔法を使おうが、小回りは利かない。

 移動速度と器用さなら俺が勝る!


 ギルも俺が懐に飛び込んでくるとは思わなかったのだろう。

 慌ててハンマーを振り上げるが時すでに遅し。

 俺はギルの土手っ腹に右ストレートをブチ込む!


  『 暴 食 寄 生 獣グリゴレアス !!』


 そしてすぐさまその場から離脱する。

 もちろん鋼の肉体のギルに俺の拳は効くまい。

 だが俺の目的は、奴の体に魔法の種を植え付けることだ。


「なっ、なんだこりゃ!?」

 ギルの腹部、俺の殴った場所から暗緑色の複数の触手が急成長しギルの全身を縛り上げる。

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