第二十五話 宿でダラダラ

 借りた部屋を一度見渡してみる。



 ここには特に気になるようなものは置いてなく、ただ普通の宿らしくベットと棚が置いてあって、ザ・宿泊施設のような見た目だった。



 そこに入ってきたサンゲーノは部屋を不思議そうに見渡して、色んなものを開けては閉じ、ここに変なものが置いていないかを探していた。



「何してんだよ……」

「ここに暗器がないか確認してる」


 彼女はそれからシーツの下、ベットの下とこの部屋の至る所にある隙間すべてを覗いて確認をしていた。



「そんなもん普通の宿に置かれてるわけないよ」

「君は悪役だから誰かに命を狙われてないかちゃんと気をつけないと」

「そうか?まだ名前すらない俺を狙うわけないと思うが」

 俺は荷物を置いてダラダラとベットの上に横になる。ここの居心地は特に特徴のない、至って普通のベットだ。



「え?まだ君は悪役として活動してないの?あんな物騒なものいっぱい置いてよくそんなこと言えるね」

「ちがうよ、まだ有名な人じゃないからそんな人狙わないって話」

「そっか、じゃあ私はそんな甘い君のかわりに確認するよ」


 荷物を部屋にある机にドサッとおいてベットの上でだらーっと横になる。そしてイザベルの図書館から少し持ってきた本でも読むことにした。



「ねえ、これから一緒に寝ない?」

「まだ夜にすらなっていし、他のベットがあるだろ」

 ペットの上で仰向けになった俺の上にサンゲーノはまたがってその顔を近づけた。



 窓からみえる外側はそろそろ夜、という感じで寝るにはまだ少し早かった。



「あと、かなり顔が近い」

「近い?そりゃあ君の血を今から吸うから近くてもいいでしょ。吸っていいよね?」

「……吸っていいよ」


 俺は少し嫌そうな顔をして腕を伸ばすと彼女は親に嫌なことをして喜ぶ子供のようにニコニコしながら血を吸い始めた。



 てか俺、このまま帰ったらまずいよな? こういうふうな外のことをあんま良くわかってない魔族を屋敷に連れて帰ったら少なくともネーヴェに怒られるし、同じような思想のイザベルには理解されると思うが――レアとかシリエルにはどう思われるんだろう……



 俺は適当に仲間になったサンゲーノを吸われてない方の手で頭を撫でながら考えていた。



「美味しかった〜」


 しばらくして吸い終え、サンゲーノは口についた血を舐めておすわりさせられている子犬のように、俺の体の上で伏せて体を伸ばしていた。



「てか、血を吸われすぎると変なことに巻き込まれるとかないよな?」

「う、う……私は大丈夫だけど、明日には君を服従させちゃうかも」



 この世界の本によれば魔族は人を服従させる魔法を持ち、奴隷などに使われている魔法は基本的にそれを模した魔法だそうで、クオリティは魔族のものより低いそうだ。まあ、じゃないとあのレベルの魔法を使えるネーヴェをコントロールできるもんな。でもネーヴェはネーヴェで魔法が効かない理由は違いそうだが……



 いや待てよ?それじゃあ服従できるスキル持ちの俺は魔族だと思われないか?それならよく今まで俺は無事に生きてこれたな。とはいっても街にいる人とはほとんど関わってきてないし、仲間が優しかっただけか。



「わからないって、どういうことだよ」

「聞いた話だと一定の人の血を吸いすぎると服従できるようになるみたいな話はあるけど、私今まであんま吸ったことないからどうなるのかわからなくて……」

 俺の体の上で自分の首を触って気まずそうにするサンゲーノ。気まずいのはこっちだよ、どうして人の体にそんな平気な顔で座れるんだよ。



「で、でも安心して!君は恩人だから間違って服従させたとしてもすぐ解除するよ!」

 一呼吸おいてそう話す。



「そうか……まあ俺も人を服従できるし頑張って相殺するから安心してくれ。今のところまだうまく他人を服従できないんだけどな」

「服従?え?本当に服従できるスキル持ってたの?」


 前から知ってたかのような顔をする。え? サンゲーノと会ったのは今日で初めてだよな?



「え?知ってたのか?」

「だって血を吸えばある程度の能力わかるから」


 笑みを浮かべながら彼女は俺の首筋を触る。ぞくっとするから触らないでくれ。



「ちょ、人の首を触りまくるんじゃねぇ。ってか、人の血で能力がわかるのは、もしかして俺が最初もらったステータスの魔法って魔族由来なのか?」


 首からサンゲーノの手をどかして少し気になったことを彼女に尋ねる。この世界で不思議に思ったステータスの仕組みももしかすると魔族由来の魔法かもしれない。



「わからないけど、そういう魔法があるならそうじゃない?」


 一度考えて彼女は答えをだした。含みがありそうだが、一応そういうことなのだろうと俺は思った。



「そういえば、魔族について教えてくれないか?何があるとかさ」


 体の上に乗っていたサンゲーノをどかせてベットの上に座った。



「魔族はただ単に人が嫌がることがすきな種族だよ、色んな物を壊していったり、人間を絶滅寸前に追い込んじゃったから地上ではほとんど見かけなくなったんだ」

「へえ、じゃあそれは今だと魔族は主に地下にいるっていう意味か?」

「簡単に言えばそうなるね。数少ない魔王の寵愛を受けたような強力な魔族が地上にいるぐらい」


 彼女は同じようにベットに座り、横にやってきた。



「じゃあサンゲーノはそういう感じの寵愛を受けたのか?」

「そうだね。むしろ魔王の子供みたいなものかも!」


 サンゲーノは人がいないのを確かめて、わざと魔族の特徴であるコウモリのようなはね、赤く染まって光りだす目と黒く染まった牛のような角、矢印のような細く伸びた尻尾を顕現けんげんさせて目の前で翅を大きく広げた。



「いきなりどうした」

 俺はその姿をみてもしかすると攻撃をしてくるかもしれないと思いながら服従スキルを打ち込もうとベットから立ち上がる。



「意味はないけど君に私の魔族としての姿を見せたかっただけだよ」

 それを聞いてほっとした俺はベットにもう一度座った。



「そうか。ならもう一つ質問がある。魔族の能力ってさっき言ったような服従と鑑定のようなスキル以外にもないのか?魔族にちょっと憧れてるから聞いてみたくてさ」


「憧れてることが変な気がするけど、教えてあげる!まず最初は闇属性魔法、これは魔族の基本技で人間でこれを使える人はほとんどいない。でもほんとうに稀にいるから闇属性を使ってたら悪魔とは決まらないよ」


 そういって彼女は手から黒寄りの紫色をした魔法を放出して、部屋を一瞬だけ真っ黒に染める。



「ほう、そんな魔法があるのか、悪役だし使ってみたいな」

「どういう意味よ。悪役と悪魔には悪という類似点しかないじゃないの」

「はは、気にしないで続けてくれ」


 むりやり関連付けをしてみようと思ったけどやっぱり無理があるよな。と思いながら俺は自分の発言に笑った。



「他には幽霊や毒、さっき言ったような服従する魔法とかあるよ。どれも頑張れば習得できる内容だからあまり明確な判断基準にはならないけどね。でも明らかに魔族だとわかるのはやっぱりこの角と翅と尻尾だね」

「それはだれでもわかるな、しかしその魔法――」


 サンゲーノは言い終えたあと、出していた角と翅と尻尾を隠した。



「よし、色々教えたから一緒に寝よう。ほら、外も暗くなってきた」

「ああ……いつの間に」


 外を見ると気づけば真っ暗になっており、俺はそろそろ寝ないといけないことに気づいた。明日のこともあるし、休むことにするか。



「じゃあ一緒にねよう」

「いやだ」

「何で?これは魔族に関する秘密を教えた代金だよ、ほら寝よう」

「それなら仕方ないか……」


 俺は仕方なく一緒に寝ることになった。明日も無事にいけば成功するだろう。イザベルとネーヴェのほうがどうなのか気になるがきっとうまく行ってるはずだ。

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