第二十四話︎ 任務終えてダラダラ

「お兄さんいっぱい血をくれてありがとう」


 まだ路地裏から離れてないからいいが、これを道路でやったら終わりだ。この子はどうやら本当に魔族のようで、俺の血をある程度吸っているとみるみるうちに体の傷が消えて肌のツヤが戻り、髪もくしゃくしゃから伸び伸びとしたロングヘアになり、色も白よりの灰色になっていた。



「吸血鬼ってこんなに回復力高いのか」

「そりゃあ、もちろん魔族だから」

 ちょっと驚いた。一度魔族に関する本を読んだことはあったが、そこにあったのは常人離れした性能をしている者が多い生物と書かれていた。



 しかし、ここまで常人離れしているのかよ。



「お兄さん、私はサンゲーノって名前。これからよろしくね」

「おう。しばらく血を吸ってなかったのか?」

「うん」


 ある程度吸い終えるとサンゲーノは口を離して、まだ自分自身の口元にあった俺の血を残さないように舐めていた。



「すごく血がいいね。栄養があって、征服者の素質がある。かなりいい感じだよ」

「な、なんだそれ?血液型占いか?」

「気にしないで。血なんて久しぶりだから美味しかった」

 まだ血が欲しそうに彼女はわざとらしく俺の腕に抱きついてきた。



「お兄さぁ〜ん。もっとちょうだぁい?」

「変な子を餌付けしてしまったかもしれない」

「変な子じゃないから安心して、みんなこんな感じだよ」

「絶対違う」

 一瞬興奮したのはしたが、この子はテンションがちょっと怖いのですぐに気持ちは冷めてしまった。やっぱり魔族でも個体差があるのだろう。



「ほらほら、お兄さんのことが好きだから私にいっぱい血をちょうだい」

「いやまず、ここは人気の少ない場所だからまだそれを言っててもいいが、街でそんな事言ってたらすぐに異端者扱いされるぞ」

 迫られて彼女のいい感じに膨らんだ胸を押し付けられる。恐らくわざとされてるんだろうけど、悪い気はしない。



「いいの、私たちはもう体を重ね合わせた仲でしょ」

「めちゃくちゃ誤解されそうな言い方だな。いいか?俺はお前が魔族だから仲間にしようとしただけであって、別にお前を育てるために買ったわけじゃない」

 まだ路地裏から離れてないからいいが、これを人目のある場所でやったらいよいよ終わりだ。そう思いながら彼女に警告する。



「へぇ……魔族が好きなんて物好き!みんな嫌いなのに!もっと血ちょうだい!」

「お前隙あらばそれは……」

 仕方なく俺は腕を差し出して噛ませる。彼女の吸い方がうまいのかチクリとするだけで意外と強い痛みはなかった。



「いいか?今から次の領地に向かうために歩く。つまりその間はその角を隠しておけ」

 サンゲーノの上にある角を指さして隠すように言う。いくらイザベルの魔導具のおかげで関所を簡単に突破できるとしても角があると違う人に警戒されて無理がある。



「わかった。消してあげる」

 角の上を覆うように手を角の上でふーっと動かすと、瞬く間に角はきれいに消えた。



「え?それができるなら最初から消しなよ」

 それができるなら角を隠せばいじめられる必要ないよねってちょっと思った。



「違う、私二年間血飲んでなかったから能力が使えなくなってただけ」

「なんでそんなことしたんだよ」

「に、人間になりたかったから」

 恥ずかしそうに手で俺の体を揺らす。



「そうか……なら俺は魔族になってみたいと思ってたんだ」

「じゃあ、一緒だね」

「一緒か?内容が違う気がする」

「変わりたい気持ちが一緒ってことだよ〜」

 よくわからない会話を交わして俺たちは次の領地にいった。




   ◇  ◇  ◇




「吸わせてよ~」

「だめ!あれ一回きりだ」

 領地をうまく抜けることに成功したが、サンゲーノはずっと俺に後ろから抱きついたまま離れなかった。傍から見れば熱愛中のカップルにしか見えない姿で俺は気まずかった。



「なあ、俺はまだ任務を終えてないのにこんなに抱きつかないでくれ。この街もあの街も来たには理由がある」

「魔導具で何するの?」

「爆破だよ爆破。お兄さんには色んな計画があるんだ。ほら、あの建物に置かないといけないんだ」

 目の前にある図書館を指さす。



 今までの流れからしててっきり軍の施設でも爆破するのかと思っていたが、この領地では軍より文学が発展してるので資料の破壊をするとの話だった。



 意味があるのだろうかとも思いながら俺はやっている。まあ昔もこういった場所を破壊する話を聞いたことがあるのできっとあるのだろう。



 先程とは違うので簡単に取り付けることに成功して俺はこの変な吸血鬼を背に負って街を回ることにした。



 一応今日のノルマはここまでだからね。今後のためにも色々この国の情勢を知る必要がある。



「気をつけろ!先程アユークベンの領地で爆破事件が起きた!国境に兵力を増強させ、あたりの警戒度をあげろ!」


 繁華街に行こうとしたら多くの兵士があたりを警戒するように俺がさっきやってきた国境の方に向かって走っていった。



 その兵士が焦る姿を見た俺は設置にうまくいいったなと考えて思わず顔から不敵な笑いがこぼれていた。



「お兄さん」

「うん?」

 サンゲーノに声をかけられて振り返る。



 すると彼女は好奇心で訪ねたのかしらないが、俺の顔をみてすぐに考えを理解したのか真似するように悪い笑みを浮かべていた。



「やっぱお兄さん悪だよね」

「ああもちろん、悪役になるからな」

 俺の頬を引っ張る。やめてくれ、痛い。



「魔族みたいな考えしてて最低だよ」

「お前も血を欲しがってんじゃねーか」

「それは君が好きだから言ってるだけで違う」

 俺の後頭部をポコポコと叩く。それも痛い。



「痛いからやめてくれ、って君の考えとなにがちがうんだよ」

「ただここまで壊して喜ぶような性悪な人間がいるとは思わなかっただけ」

「べ、別にいいだろ。俺は悪役になりたいんだから」

 俺が嫌そうに手を払うと、サンゲーノもその表情を元に戻して俺の体にもう一度抱きつく。



「わかった、ひとまず俺が君に街というものを紹介するよ。ほら、そっちはほぼずっと一人で動いてたからあんまり知らないだろ?」


 先ほどはボロボロの姿で街をさまよっていたことを思い出す。事情はよく分からないがきっと彼女は魔族なので人間社会での生活が上手くいってないだろう。



 ここで先輩?として誇りを見せようかと思ってるからこう言ってみた。



「確かにそうだね。でも私は君の血だけで生きていけるよ」

 ちょっと考えて、彼女は言った。



「そうか?」

「だって結局魔族なんだから君の家に居候するだけで生きていけるもん。怖かったら私のことを首輪でも使って縛って!血さえあれば……」

 息を荒くさせながら彼女は今すぐに俺の首筋を噛みそうだった。



「ちょっ、街中でそれはやめろ」

「そういえばどこに向かってるの?」

「宿を探している。あまり検査が厳しくないやつ」

 検査というものないが、高級すぎる宿だと意外と知識人が多いので何か魔族を判定する方法があるかもしれない。そんなことはごめんだ。せっかくの魔族との出会いが台無しだ。



「宿か。この世界にやってきて一度も行ったことないな」

「ええ?どうやって生活してきたんだよ」

 思ったより人間社会に馴染めていないのか?この子。



「来てからずっと街の路地裏とかをさまよってた。君みたいな優しい人はいなかったからよく道行く人を夜中に襲ってもの奪ってた」

「それもそれで怖いな」

 詳しいことは知らないが、おそらく彼女がいた街では夜中の強盗が問題になっていたのだろう。でもそれだとどうしていじめられてたんだろうとやや気になるが。



 そして俺は今日過ごす宿を見つけて、そこで寝ることにした。街から少し離れた場所に位置する宿で、大きさもそこそこ。



 ここならいい感じに今日を過ごせるだろう。と思いチェックインを済ませ、借りた部屋に入った。


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