第二十三話 設置と奇妙な出会い

 そして次の日。


 効率重視のために三人に別れることになり、祭りの日再集合することになった。そして俺は爆破魔法が放出できる魔導具を、イザベルの魔眼のおかげで無理やり他の領地に持って入ることに成功した。爆弾を置くだけであとは勝手にしてくれるということらしいが、こんな単純な方法でいいのか? と少し思う。



(こんな簡単な方法でいいなら嬉しいことこの上ないが……)



 そう考えながら俺は一人でイザベルの領地のすぐ横にあるダーフィット・アユークベンという男が統治する土地に来た。狙うのはこの地域にある学園とダーフィットの軍隊が生活している寮? みたいな場所だ。



 正直この国のことをほとんど知らないのでイザベルに聞いてみた所、領地のことは王が八大官に一任しており、そこにはその八大官ごとの兵士や学校、商店などという外は同じだけど中身は違う、そういう色んな違いがあるらしい。簡単に言えば昔の大名みたいなものだ。



「ねえ聞いた?ラフォーレさんの領土で謎の爆発が起きたらしいよ。幸い狙われたのは人がいるような場所ではなく学園や練兵場という場所らしいわ」


「ええ?怖いわね。うちのお子さんはラフォーレのとこで住んでいるから心配だね」


「ええ、最近は過激派たちが国を作り替えようと色んな運動をしているから恐ろしいわね。聞いた話によればこの前取り締まろうとしていた警官が過激派の怒りに触れてボコボコにされたんでしょ?」


「こら、そういうことこんな場所で言ってはいけないわ。買い物を済ませたし早く帰りましょう!」


 街行く婦人の会話がふと耳に入る。流石にあれをしたら話題にはなるな。と思いながら目的地へ向かう。



 確かここからあと街を一つ経て目的地につくんだっけな。そう思いながら俺は道端にある串を買って食べながら目的地に向かっていた。



 持っているものは設置して魔力を込めれば遅延して起動する粘着性のある魔導具。ほぼ現実世界にある爆弾と変わらない気がするが、これはきっとイザベルの長年の鍛錬による賜物なのだろう。



 一人になったし、せっかくだから俺について振り返ってみようか。



 魔法自体は、シリエルのおかげで中級かじりたて程度の魔法使いになれた。つまり一般の兵士とは戦って勝てるクラスだ。ただ、彼女いわく魔王を倒すためには上級まで習得しないといけないそうで、習うとしても今のペースだと四、五ヶ月後だそうだ。しかし魔王がくるのは数ヶ月後だったよな。今のペースより早く来ないといいが……



 当時は「いやいや、俺は悪役をしながら魔法使いにならないといけないのかよ」と思っていたが、今はなるべく早く上位習得しないといけないという課題だ。



 毎日一応時間を割いて魔力の出し入れなどの基礎練や火属性魔法の訓練をしているがまだ中級が分かりきるほど上手く行っていない。



 それより問題としてあったのが短い時間の内に色々トラブルに遭遇しすぎって話だ。



 俺が積極的にトラブルに遭遇してるのかもしれないが、さすがにリレイネークに行って元クラスメイトに直談判でもしようと考えていたところに、山賊と遭遇してしかも外に出れなかったから対処出来ずに洞窟に落ちてそのままいざこざの手伝いに巻き込まれてしまった。



 今からでもいいから逃げれないかな……



 とふと、考えちゃうぐらい理不尽が重なっている。



 まあ、ネーヴェがいるんだからいきなり夜逃げするのも失礼な話だな。やめておこう。一応一緒に悪役になるんだから。




   ◇  ◇  ◇




 ぼーっとしてるうちに学園と軍隊寮に近くに潜入できた。学園と軍隊寮には頑張れば登れそうなそんなフェンスがあったが、俺は花火のような要領で中にその魔導具をうまく打ち込んだ。



 音でバレないといいようにと願いながら、俺は難なく爆破予定地のに魔導具を置くことに成功してその場を離れた。



 マジで暇だ。やることもないし爆弾もすぐに配置できた。そうやって俺は残った時間を潰すように街を歩くことにした。



 レアたちの行方もよく分からないし、俺は意外と今窮地かもしれない。



 路地裏の方から声がする。



「ごめんなさい、殴らないで」



「何だ?」



 あまり見かけない――というよりあまり分からないが、アフロのように長い黒に近い灰色の髪が頭の上でクルクルと混ざるようにしてくしゃくしゃになり、その中から少し角のようなものが見える。胸はちょうどいいサイズで体つきもよく、頑張れば追い払えそうなのに、どうしてこんなとこでいじめられているのか不思議だ。



 少し風呂に長い間入ってないような匂いがしたが、多分獣人だと思う人間が街の子供に石を投げられ、棒で叩かれて虐められていた。



「くせえぞ!あくま!はやくでていけ!」

「いえのまえをあるくなっておかあさんいってるだろ!」

「どろぼうめ!ころしてやる」



 中くらいの身長をした女性を子供が寄ってたがっていじめている。まあ暇なのと可哀想だから人助けでもしておこう。



「おい子供たち暴れてんじゃないぞ」

「なんだおめえ!このあくまのみかたか!」

「こいつあくまだからたいじしてるんだ」

「しねしね!」



 蹴りや棒で殴られて彼女は見るにも無惨な傷だらけの体だった。顔は腫れて肌にはいろんなかすり傷、いいものだったであろう服は破れて元の形を持たなかった。



「そう、実はお兄さん悪魔の味方なんだ。ほら、口から火が吐けるんだよ。手炎」


 顎に手首をつけて魔法を使って本当に火を吐くようなふりをする。



「おばけだー!」

「あくまだにげろ!」

「おかあさーん」


 どうやら効果抜群のようで、子供たちはそれを見て焦って逃げ出した。



「子供からかうのが一番面白いな」

「お、お兄さんありがとうございます」

「どういたしまして。別に感謝するほどでもない」


 憧れるような顔で獣人っぽい子は目を光らせて俺を見ていた。嬉しなかった俺は思わずかっこつけ、人助けをする気持ちよさを思う存分俺は感じていた。



「そういえば、どうして子供たちにいじめられてたの?」

 ちょっと疑問に思ったことを聞いてみる。



 すると彼女の口から思いもしなかった言葉が出た。




「私は奴隷、買って?」




「ごめん。金ない」


 唐突過ぎて一瞬理解できなかったが、面倒事はごめんだ。金がないことを手を払うことで示して彼女を説得しようとしてみる。



 すると彼女はどこで覚えたのか手で作った輪っかに舌を入れるような動きをした。どこか魅惑的な雰囲気があり、少し奥に鋭く尖った八重歯が見える。



「これ、するよ」



「いや大丈夫っす」



 俺は童貞だ。彼女イコール年齢という典型的な男だ。ただそれでも俺にはプライドがある。そう、バージンプライドっていうやつだ。



 夢は理想の女性と添い遂げそこで初めてを注ぎ込む――ほんとうにくだらないが俺としては理想的な夢だ。



 もちろん悪役というのは女を侍らすものだから多ければ多いほどいいだろ!という話もありそうだが、それはそれだ。あくまで悪役にも種類がある。俺は正義執行するような悪役になる。



 今はちょうど人材がかなり揃って来たからね。悪役として名を轟かせれるようになるのももうすぐなのだろう。きっと。



「だめ?ぼーっとしないで」

「君はどうしてここにいるんだ?」

「親いないから、ゴミ漁ってる。ご飯ないから、もらおうとした」

「でもどうしていじめられてたんだ?」


 それだといじめられてることがおかしい気がする。いくら子供でも奴隷を見下したりはしないはずだ。



「ほら、角」

 その子は髪の中から見え隠れする角を抑えて見せた。その牛の角には不吉を象徴するよう黒色を持っていた。



「何も変わりのない角な気がするんだが」

「みんなこれをまぞくって、呼んでる」

「まぞくか……まて、まぞくって吸血鬼とか悪魔みたいなものなのか?」


「う、うん。そうだよ?」

「ああ、もしかしてカタコトなのも魔族だから?」


 この子は子供と言えるほど身長は低くなく、本当にただの一般女性と言えるような背丈をしていた。最初見た時は違和感あったけど、魔族というのなら説明がつく。よく魔族は嫌われ者として扱われているからな。



 え、ちょっと待て!この子ってサキュバスとかそういう系統の魔族なのか!?うおおおお、上がってきた。ちょっと興味湧いてきたぞ。さっきはなんか変な理想語ってたけどそんなの無視しよう!



 彼女の設定――いや、異世界なんだからきっと本当だろうがその設定は俺の今まで眠っていた、ではなく封印した厨二心を少しづつ目覚めさせようとしていた。



 イザベルは仲間だったが、ここの世界の住人はどうして厨二心を抑えきれているのか理解できない。普通、こういう凄そうなものを見ると血湧き肉躍るだろ!!



「お兄さん、私買うー?」


 魔族の話題には詳しくないのかこの子は返事をしなかった。そしてもう一度さっきのポーズをとって俺を誘惑する。



「買います。金貨何枚?」

「お兄さんの体液で」

「……ど、どうぞ」



 理想、ごめん。ここで俺の我慢は限界になるかもしれない。他の種族はおいといて、魔族という種族に俺は耐性がない。なぜならそれは俺の眠った厨二心を目覚めさせる最強アイテムだ。



 そしたら魔族の子は俺の少しふしだらな考えとは違い、ロングコートに隠された伸ばしていた腕を引っ張ってあらわにさせ、その皮膚を強く噛んだ。



 あ、サキュバスじゃなくてヴァンパイアだったか……なんかごめん



「いてえ……ちょっと強くかみすぎじゃないか」


「ご、ごめんなさい。美味しくて」


 恥ずかしそうにどこかどろんとした顔で俺の足へ頭を預けるようにそのまますがりついた。



 変な子と出会ってしまったな。






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