第二十二話 初日の軽い破壊
「二人共よく寝れましたか?」
「うん、おかげでよく寝れた」
「俺もよく寝れました」
もう一度昨日集った場所である会議室に集った。ネーヴェはまだ起きたばかりなのか、タオルを持って濡れ濡れの髪をくしゃくしゃにしながら部屋に入ってくる。
「ん?ネーヴェお前って風呂とか入るような人だったのか?」
彼女が風呂に入ったことを目撃できたのは少し意外だった。誰でも風呂は入るだろって言われたらこの話はそれまでだが、今まで彼女は入るとしてもバレないように俺とかがいない時間帯に入ってるか、そもそも本当に風呂に入ってるのかわからないような感じだった。まあ、匂いはしないので風呂は入ってると思っていたけど。
「失礼ですね。あなたがいないときにこっそり入ってますよ」
風呂を終えたネーヴェが近くにやってくると、俺の袖を引っ張りながら呆れた目で俺を見る。なんか昨日色々話してからか、距離感がかなり近くなったような気がするな。やっとネーヴェと仲良くなれた!
「いや、今まで君が風呂に入るところなんて一度も見たことなかったから、そう思っただけで入ってるならよかったよ」
「はは、もしかして風呂はいること見てないから今まで臭くて話しかけない方がいいとか思ってましたか?」
髪を拭きながらネーヴェは嫌味ったらしく返す。仲良くなったかと思ったけど全然なってなかった! ごめん、これは俺が自信過剰すぎた!
「いやいや!そんなことはないって、ほら俺たちは今までそんなに話してなかったけれど機会に恵まれなかっただけで風呂に入ってないだけでネーヴェを臭いとかあんま思ってなかったよ」
「あんま?」
「ごめん、あんまじゃなくて全くだ」
「……ちょっと好感度あったんですけど台無しです」
「本当にごめん。許してくれ」
墓穴を掘ってしまった。やっぱりネーヴェと仲良くなるのは難しい。レアとかシリエルは彼女とよく話してるけどどうやって仲良くなってんだ……
「あなた達ってそんなに仲良かったんだね。羨ましい」
そばで見ていたイザベルは微笑ましく俺たちの会話を見ていた。皮肉かよ! どう見ても全く仲良くないだろ!
「ああ、長く話しすぎた、待たせたな。さっそく作戦について話してくれ。待たせた分だけ早く行動するよ」
「いやコジマ、そこは世間話をしないといけないですよ」
「え?そうなのか?」
「どう考えてもそうじゃないですか。さあ、ほら話しましょう」
「わかった。任せてくれ!俺の長年積み重ねたトークスキルを披露しよう」
てっきり遠回しの注意かとおもっていたが、ネーヴェによればどうやら文字通りの意味だったみたいだ。よし、ここは俺の長年ソロだったときの会話スキルを披露してみよう。
「イザベル、よく食べる好きな食べ物ってなんだ?」
「言う割には質問が普通すぎませんか……」
困惑した顔をしたネーヴェをよそに俺はイザベルに質問をする。
「わ、私はケーキとかですかね?いつも食べてます」
イザベルは緊張しながら口をもごつかせながら話す。でも、さすが八大官だ。正直まだ八大官どういう職業なのか俺は理解できないが、イザベルの今までの説明的にこの職業は、おそらくこの国で一番地位の高い貴族なのだろう。
「金持ちすぎるな。ケーキなんて滅多に買わないぞ」
「私も昔食べた覚えがあるだけで今は全く食べてませんね」
貴族との差をを実感した俺らはイザベルから離れるようにそそくさと席に座る。
「ちょ、引かないで!ケーキってそこまで高価じゃないよ!パンと同じくどこでも買えるものですよね!」
「いやいいっていいって、厨二病に加えて世間知らずは貴族としてどうして国を覆そうって思うんだよ」
「イザベルさん、ケーキってパンよりかなり高いんですよ?」
ケーキは前の世界にいたときから誕生日以外食べたこと無いし、むしろこの世界だと素材とか作り方とかによって前の世界と比べてもっとケーキの価値が高い気がするよな。
「それとこれは別です!わかりますか!?別にケーキ何個も食うの自体はおかしくないよね?」
「お、おう。ネーヴェ、これはどうおもうんだ?これって普通か?」
「権力争いを止めようとしてるのにこの贅沢癖は恐ろしいですね」
俺は理解できないので一応ネーヴェに聞いてみたが、彼女にとってもその価値観は理解できないみたいだ。
「も、もういいです!いつものようにからかわないでください!あなた達が正しいことはわかりましたから!!」
イザベルは真面目に言った話をからかわれて顔を赤くして拳を握りながら怒る。
「まあ、本題に入ろうよ。今日はどこに攻めるんだ?」
「今日はまず練習としてここにある建物を壊しましょう。そして明日は別の領地にいこう」
「でも、俺とネーヴェのできることはそこまで破壊に向いてないから今後他の領地で破壊してる時はうまくいかずに困ると思うんだが、そこはどうするんだ?」
よく考えて見れば俺は火属性中級者、ネーヴェは氷属性のプロ、どちらも建物を破壊するのには向いていない。この街を見る限り木製の建物なんてここでは殆どないようにみえる。
「そこは私に任せてほしい」
「イザベルが直々に来るのか!?」
「そうではないけど、私は爆破魔法が使えるからその魔力がこもった魔導具で爆破してもらうの」
イザベルは得意げに手に魔力を宿して見せる。魔導具で爆破させるのはいい案だ。でも、爆破魔法って特徴的だから使用者バレそうな気がするんだよな。
「ちょ、爆破魔法はここで使うなよ」
「私をなんだと思ってるんですか!ここでは流石に使わないですよ」
「まるで外だったらしてたみたいな言い草ですね」
「それも違う!ひとまず、私が用意した仮面とロングコートを着ておいてね」
俺とネーヴェにからかわれながらネーヴェは床においていた箱を取り出して、服を見せる。これらは前マーヤマで購入した服装と違い、こちらの服は材質がしっかりしており、これを触れば貴族のようなものに使われるような高級品が使われていることがわかる。
「すごい材質がいいですね」
「ああ、汚すのが勿体ないくらいだ」
仮面には身元が分からず、特徴のないよう真っ白に塗られており、視界を確保するための二つの穴だけがあった。ちょっとかっこいいかもしれない。
「それで今から行くのか?」
「いや、夜になってから行きましょう」
◇ ◇ ◇
イザベルと一緒にイザベルの領土の中で重要な練兵場と学園のあるやや町外れに来た。
夜なので通りには人がおらず、俺たちの足音だけがあたりに響いていた。
「教会とかは壊さないのか?」
「勿体ないから壊したくないのと、こっちを壊した方が宣戦布告の証になりやすい」
「まあそうだよな、俺とネーヴェはなにすればいいんだ?全てイザベル一人でも行えそうだから俺たちいらないんじゃないか?」
「いや、必要だよ。君たちには破壊工作間あたりの警戒をしてもらいたい。何かがあれば私に教えてね」
イザベルは当たりを指でさし示して警戒させる。
「でもここは私の領地だから今回はいらないよ。どう使ってるか見せたいし、私についてきてね」
「わかりました」
「了解!」
先を進むイザベルのあとを追う。すると少し進んだ見通しのいいところを見つけると彼女は足を止めて言う。
「あ、でもこの距離ならついてこなくてもいいかも。少し待って詠唱する」
「遠距離爆破でもするのか?」
「そう。滅亡せよ、崩壊せよ、爆破の霊に命ずる。
大きな杖をイザベルは練兵場と学園に向け、そのまま唱え終えると一瞬赤い糸が杖の先から出た同時にパチパチと鳴る。
「溜めて、打ち込め!」
パチパチ音がゴーンと大きな爆音が鳴り響くと
奥に見える練兵場と学園の建物はきれいにガラガラと崩れ去る。
「おいおい、やりすぎじゃないか?」
「いや、全然やりすぎじゃないよ。今日はこんな感じだね。明日は他の領地に向かうことになるからみんなに任せたよ」
少し俺は困惑したが、でもこの威力なら建物をいっぱつで破壊できると考え、ひとまず任せて準備することにした。
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