第二十話 私のつまらない過去[ネーヴェ目線]

「では、この街のどこに行きましょうか」

 イザベルのいた屋敷から離れて俺とネーヴェは二人で街を回ることになった。


「ネーヴェと一緒に街を歩くのってなにげに初めてじゃないか?」


「ですよね。今まではレアさんやシリエルさんのどちらかが必ずいましたね」


「だよなー、ってもしかして二人ともいないからここで俺を殺したりとかしないよな?今の俺だとお前に全く勝てないよ」


「流石にしませんよ。あのとき言ったのはあくまで脅し文句で、私も一般人を殺すような悪い人じゃないので安心してください」


 ふと初めてあったときの言葉を思い出し、俺は少しだけ怯えながら聞いてみた。ネーヴェはどうともない顔で返事をする。よかった、殺されないんだ。



 この街はどこにでもあるような街みたいで、パサイセンやマーヤマにあるヨーロッパ風の町並みと何も変わらない、本当に平凡な街らしい。こうなると他の八大官の街も気になるが、まあそれは破壊工作のこともあるし、後々行くことになるだろう。



「それで、ネーヴェって何が好きなんだ?ほらいつもは適当な飯で済ませてるから、俺は君の好みがよくわかってないんだ」


「ああ、それは辛いものですね。寒いところでも熱く感じれるので好きです」


 ふーん、ネーヴェの好みって辛いものなんだ。なら、辛い料理が多い中華料理――って、この異世界に中華料理なんてものはあるのか?いやでも、なんかありそうな気がするな。



「そうか、そういえば君の住んでるところって寒い場所だったのか?」

「はい、氷属性魔法使いが寒いところに住むって何か皮肉めいたものを感じますよね……」


 気分が落ち込んだような顔をしてネーヴェはこちらに寄り添うように歩く。



「……聞かないほうがよかったのか?」


「いえいえ、どんどん聞いてください。私にとって愚痴みたいなものですし」


「そうか、なら君の住んでたところで何が起きて奴隷になったんだ?そっちが話してるのをあまり聞かないから聞きたいんだ」


 ネーヴェの出自は地味に気になることだ。そしてどうして奴隷になったのも、彼女のスキルとかも色々。



「ああ、それはですね――」




   ◇ ◇ ◇




 すでに滅んだとある地域にあった国家にて



「お母様、お父様が面会した人に刺されたのは事実なのですか?」


 私は居ても立っても居られなかった。なぜなら数日前に私の尊敬する、いや国民全員が尊敬していた王であり、私のお父様でもあったタトゥヌ・マークスが面会した魔族にやられたそうだ。



その現実を全く受け止めれなかった私は、お母様が今仕事している執務室に訪ねてまで質問を投げかけた。



「ええ、どうやらお父様の大親友という方が偽装されていた魔王の末裔を語る魔族だったの」


 お母様は慌ただしい様子で国王の執務室でいろんな仕事をこなしていた。それもそうだろう、これはお父様が今までやってた内容だ。



「どういうことですか?いくら私たちが弱小国家でもこれはおかしいです!お母様、くわしく話してください!」

「静かにしなさい!おしゃべりがしたいならいつもあなたの世話をしている執事にでも聞いてきなさい!私は今仕事で忙しいの!」



 お母様はお父様の急な死で動揺しているようで、震えた手でペンを持ちながら私にヒステリックな態度で怒鳴り散らかす。ああ、お母様も怖いのですね。



「ごめんなさい……お邪魔しました」

 私は申し訳無さそうに部屋から離れ、執事のもとに向かう。



   ◇ ◇ ◇



「ほう、つまりお嬢様はあの日、ここで何が起きたか知りたいんですね?」

 私は食堂にて執事から出された紅茶を飲みながらうなずく。



「そうです。いくら私たちは中小国だとしても、魔族にいきなり殺されるなんておかしいはずです。だって、周りの国家も魔族に乗っ取りされるんじゃなくて攻められて負けたんですよ」



 最近、私の住む小さな国が集うルメイトリ地帯は古来魔族の土地だったらしく、それにより魔力が大地に含まれてるので、魔族が頻出する地域だった。



 しかし最近は魔族が力をつけたのか、色んな国が偶発的に発生した魔族に攻められて、数日後には魔族の国に化すことが多発していた。



 しかしそれでも王がいきなり魔族に殺されるようなことは起きなかった。なぜなら王宮というのは国家の中で一番警備の厳しい場所であり、いくら卑怯な魔族でもなかなか入ってこれない場所だった。



だったんだ。



「しかし、お嬢様。考えていなかったのですか?最初からここは魔族に乗っ取られていたってことを」

「ん?執事さん今日の口調、いつもと違いますよ。魔族とかに乗っ取られたりしました?」

 執事の顔はいつも通り老いを感じるしおれた顔だったけど、何か気配が違った。どこか、血の匂いがするような……そう思った私は冗談程度にジョークを言った。



「流石お嬢様。どうやら私めの変装程度じゃさすがに竜の血筋を持つ王族を騙せなさそうですね」

 そう言うと執事は持っていたティーポットとカップをパッと離して一歩下がる。



「ちょ、ちょっと!それ高いものですよ!」



 壊れた高いティーポットを惜しむ暇もなく、執事は魔族の翼であるコウモリの翼を大きく広げ、体が魔族のような紫色を帯びた肌に変化して、執事だったものは「魔球」と叫んで魔族特有の属性である闇属性魔法を即座に打ち込む。



「氷の精霊よ、わが道に現れる妨害に立ちふさがれ。氷盾」

 詠唱と同時に手をおろして氷魔法の壁を即座に繰り出し、攻撃を防ぐ。



「どうして執事を乗っ取ったんですか……」

 ゆっくりと距離を取りながら男に尋ねる。



「ほう、親しい人が魔族でも動揺しないのですね。はは、やはりこの国の姫様は他の国と比べて強く、大魔導師になれる素質があるといわれる噂が伝わるわけだ」



 私はお父様の考えにより小さい頃から勉学より戦闘を重視して育ってきた。それにより若くしてこの国一の魔導師と呼ばれるようになり、そして私がいることで他国は恐れるようになり、小国だらけのルメイトリの中でも強国として認められるようになった。



「私の質問に答えてください」

 執事だった魔族と互いの魔法を打ち合いながら突き放すように指摘する。



「私たちはただ魔王の復活に向け、数年をかけてかつての配下たちが入念に調査をして、君たちの王国に侵入しただけですよ。王もまさか長年付き添った親友が魔族だったとは思わなかったようですね」



「つまり、君たちはお父様を騙して王宮に侵入したってことですか?」



「ええ、なのでここで、我々がじっくり育てた君を研究に使わせてもらいますよ。クフフ、君のスキルはたしか氷竜ですよね?竜の力を持つ人間なんてほぼ見ないので楽しませてもらいますよ。あなたの母親も残念ながら乗っ取らせてもらいました」



「チッ、どこでそれを……」

 私のスキルは王族でも最上位しかしらないはず。いや、お父様の親友ならお父様から知ったのだろう。まさかこの家がまんまと魔族に騙されていたなんて思ってもいなかった。



「ふふ、抵抗するのはよくないですよ。お嬢様、あなたの母親や父親は天国できっと悲しんでいるでしょう」

「あなたのような卑怯な種族がよくそう呼べますね……」

 私との戦闘を楽しんでいるこの魔物をギロリとにらみながら罵倒する。



「消し去るが良い、如法暗夜にょほうあんや

「もう一度です。氷の精霊よ、わが道に現れる妨害に立ちふさがれ。氷盾」

 あたりが暗闇に包まれ、それを見て私は急いで周りにバリケードとして大量の氷の壁を召喚する。



「そして氷の精霊よ、当たりに広がる水を徐々に固め給え、冷却大釘アイススパイク

 すると部屋中にある水の入った入れ物は全て破裂して付近の空気は徐々に寒くなっていく。そしてしばらくすると氷の突起が多数あたりに出現した。



「流石お嬢様だ。環境に影響の出るほどの魔法を使えるとは、すでに大魔導師の領域に入ってるのではないか?」

「だ、か、ら、君のような無礼者がお嬢様と呼ばないでください」

 暗闇の中からなんども接近して剣を振ってそれを私が体を氷化して受け止める。この男、さっきは私の両親が天国にいるなんて言ってたけど、もしかして私の家族はとっくに死んでたり……いや、変なことを考えてはだめだ。もっとイライラしてきた。



「氷の割には硬いですね。さすがお嬢様だ」

「だまらっしゃい、氷の精霊に竜の祈りを掲げ、燃え上がる炎のように氷を辺りに巻き散らせ。竜乃氷吹りゅうのこおりぶき

 拳をぐっと握って辺りに息を吐いて近寄らせないよう周りを全て固める。



「氷化に続いて、竜化も進んでますぞ、お嬢様のような可愛い顔に似合わない竜の顔になり始めております」

「黙れよ。お前」

 なんとなく体をうまくコントロールできなくなってきた。痛い。



 そして男が攻め込むと同時に私は手を振り息を吐いて男の攻撃を阻止し、そして大きな傷を負わせる。



「痛い……痛い」

 私は怒りに身を任せ、全てを切り裂いた。王宮にいた魔族たちを、そして国民すらも。




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