第十九話 新生リレイネークへ向けて

「と、とりあえず、今のことは他言厳禁ですよ?」

 クリスタル内にある椅子に座ってイザベルとともに真剣マジ討論トークをしていた。



 これは恥を晒しあった仲間ダチ友情ラブだ。



「もちろんだ。誰にも教えることはしない、イザベルの姉貴」

 中国拳法でよく見かける挨拶、抱拳礼ほうけんれいで彼女に返事リプライをする。



 イザベルはどうやら大好きな小説である、黒竜伝記という本に出てくるヒロインが大好きらしく、そのヒロインはとても傲慢な態度で話すので、彼女は憧れて口調を真似しているが、仮面をつけないと羞恥心によって持続しないため、それを維持するために仮面を常時につけてるそうだ。魔眼というものを本当に持っているらしいが、普通に効果をオンオフできるので仮面自体に意味はないそうだ。



 簡単に言えば、今までの態度は全て自分には特殊な血が流れてると考えてた俺とは違うタイプの厨二病によって引き起こされたらしい。



「でも、小説に出てくる人物になりたいなんておかしい発想だと思いますよ。普通の人はそう考えません」

「全くおかしくないです!」

「俺も同感だ!」

 何故か意気投合した俺とイザベルにネーヴェは困惑した顔を見せながら数歩距離を取る。



「でも、イザベルさん思ったより可愛い顔をしてましたね」

「か、可愛いだなんて……あはは、お世辞はやめてくださいよ」

「お世辞じゃないですよ!な、ネーヴェお前もそう思うだろ」

「ま、まあかなり可愛いですよね……私には及ばないと思うけど」

「そこで意地を張るなよ」

 ネーヴェはイザベルを可愛いと認めたくないようでちょっと不服そうに話した。



「お二方とも、そ、そんなに私に気に入られたいからこ、こう言ってるんですか?や、やめてください!私からは何も出ませ、せんよ?」

 イザベルの一旦収まった動揺がもう一度現れ、手と足をあたふたしながら返事をして、仮面をつけ直したので顔は見えないがおそらくかなり顔が赤くなっている気がする。



「も、もう落ち着いてくださいよ。私たちはもう気にしないので全然さっきの調子で話していいんですよ。ほら、立ち上がってもう一回」

「そ、そうだよ。俺も君の気持ちはわかるからどんどんやってくれても構わないから、」

「あ、憐れまないでください!私は普通の人です!本当に大丈夫です!!」

 ネーヴェが差し伸ばした手を彼女は手ではじいて必死に拒否する。



「なあ、ネーヴェこれどうするんだ?思わない形で戦闘に勝ってしまったが」

「それ戦闘に勝ったじゃなくて、ただ交渉しにきた相手に恥を欠かせただけですよ」

「そうか、まあそうだな。これからどうする?イザベルをこのままにするのか?」

「冷静になるまでこのままにしておきましょう……」

「よし、一緒に調べ物しよう。ネーヴェ」

 もう一度イザベルの方を見ると、恥ずかしさのあまりか彼女は自分を抱きしめながら一言も発さずにしゅんとしていた。


「わ、わたしを……おいてかないで」




   ◇ ◇ ◇




「と、ということで君たちには私の、チームに入ってほしい。そして一緒に国王祭を潰していこう。ど、どう思う?みんな」

 正気を取り戻したイザベルは俺らを連れてあの洞窟から脱出した。その後は彼女の領地であるカマケイドーという場所の屋敷にある会議室の中にいて、俺たちはそこの席に座っていた。



「妾はもちろん賛同しますよ。ですよね?コジマ殿」

「ああ、イザベル姉貴には義理があるからな、彼女がチームを作るなら入らない訳にはいかない」

 仮面を外しロングコートを着たままのイザベルに対し、俺たちは数年の忠実な部下のように拍手しながら話に相槌をうつ。



「ちょ、ちょっとその言い方と拍手はやめてください!!は、恥ずかしいです」

「いえいえ、イザベル姉貴は恥ずかしがらなくてもいいですよ。ほら、いつもどおりにやってください」

「そうですよ。恥ずかしがらないでほら!」

「……わかりました。やればいいんですよね!!や、れ、ば!!」

 イザベルはちょっと怒りながら仮面を被る。



「では、君たちは無事にこのリレイネークに入れたわけだが、景色についてはどうだ?綺麗か?」

「はい、綺麗でした。やはり、姉貴の領土は管理が行き届いていていいですね。森林はイザベル様の美しさを表現しており、鳥たちはイザベル様の華麗な声を象徴していますね。ああ、イザベル姉貴はなんと美しいのだ」

「ギザすぎて意味わからなくなってますよ」


 ネーヴェのツッコミをよそにイザベルは動揺したのか、とっさに近くにおいてあった本を取り出し、顔を覆う。やっぱりギザ過ぎて引かれたのか?



「ん?姉貴どうしたんだ?」

「もしかして今のギザすぎる言葉が通じたってわけじゃないですよね」

 俺とネーヴェは裏に回り本を取って仮面を取ってみる。




 イザベルは泣いていた。




 え、待ってくれ、これどういうことだ?




「な、なんで泣いてるんだ」

「私もわからないです……」

 なだめるようにネーヴェと一緒に頭をなでてみる。




 すると落ち着いたのかイザベルは口を開く。




「ありがとうございます。人にあまり優しくされずに生きてきたのでちょっとうれしくて……」

「そ、そうか。いろいろあったんだな」

「何があったんですか?」

「私の両親が病弱で、それで若いうちにこの領地を管理することになったから、ほとんど同年代の子と遊んだことなくて、それでこうふざけあえるのはちょっと、嬉しかった」


 イザベルはハンカチを取り出して顔にある涙を拭き取る。




「と、ところで私はどうすればいいのかな?君たちの前だとあのキャラを演じきれないみたい」

「もうここまで来たら普通でいいよ」

「そうですね。普通で行きましょう」



 そう聞いたイザベルは一息ついてつぶやいた。

「まず、席に戻ってね。話はそれから」



 そうして俺たちはようやく本題である国王祭について話すことになった。



「コ、コホン。みんなは国王祭のことをどれぐらい知ってる?」

「俺は全然」

「私はリレイネークに存在する一番大きな祭というぐらいしかわかりません」



 そう聞いてイザベルは立ち上がって服の中から杖のようなものを取り出して、それで片方の掌を叩きながらあたりをゆっくりと歩く。



「そうか、じゃあまず起源から話すね。今話題の魔王復活の予言より前に魔王がいたの。その時を倒したのが今の国王と八大官の祖先。そして、これはそれを祝う日。つまり、魔王撃破したので祝いましょうみたいな日です!」



「おお、先生みたいだ」

「なるほど、それで作戦はどのようなものですか?」

 イザベルの話に調子を合わせる。



「そこでだね。私は君たちに襲撃させたいんだ。さっきも言ったようにこうすれば、今この国で行われるくだらない権力争いをここで断ち切れるきっかけとなれるから」

「でもそうするとイザベルさんがそれをするとバレたとき大変なのでは?」

「そうだよな。そうなったら権力争いを止めることすらできなくなってしまう」


 ふと疑問に思う、国王と全ての八大官が集まるすごい場所なら、もし作戦がバレてしまったときに、その責任は必ずイザベルに向かうはずだ。



「大丈夫。こっちは最善をつくすし、例えバレて私が処刑を受けるようなことになったら、その前に君たち直々に殺してほしいの」

「え……?」

「は?」

 歩くのをやめ、そしてこちらを向いたイザベルは目の明かりがないまま微笑む。その顔から彼女の思いが汲み取れそうな気がしたが、どうも不気味だ。いや、失敗したら殺してくれって重い願いだし、やる側も良い思いしないぞ。



「そう、殺してほしいの。私は恥を晒して公開処刑されるよりこっそり親友に殺されるのが一番いいなと思ったの」

「いやいや、俺たちはまだ出会って数時間だし、それにいくらなんでもその判断は自己勝手がすぎる」

「そうです。流石にそれは覚悟が決まりすぎです。イザベルさん、大丈夫ですか?」

 イザベルの闇が垣間見えるような不気味さに少し恐怖を覚える。この子普通の正確をした厨二病とかじゃなかったのか? 



「コホン、ちょっと重い話をしてしまいました。ひとまずこちらがなんとか策を考えます。あなたたちは私の言う通りに行動してください」

「お、おう。話してくれ」


「明日から国王祭までの一週間、あなた方には国内各地の土地にて破壊工作をしてもらいます。おもに八大官の管理する施設の破壊です。そのときに気をつけるのは民衆などの非戦闘員には手を出さないこと。出すのは戦闘意思のある人だけにしてくださいね」


「いきなり破壊工作だとは随分思い切ってますね」

「俺もそう思う」

 それにしてもかなり破天荒な命令だ。衣食住保証とはいえ少し躊躇いがある。まあ、俺は悪役だしやるしかないのか。



「まあ、明日から行動だから、今日はこの街に慣れるためにお金を渡しておくので、たくさん外出してください。はい!今日はここまで」

「姉貴、了解です」

「わかりました」

 こうして休憩のために一時解散して街に出向かうことになった。












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