第十八話 仮面の裏にて
「合格、君たち私に協力してくれない?」
イザベルは男を無視して、意味深な言葉を発しながら前に現れた。正体はわからないけれど、声の雰囲気からしてクールで歳を重ねた美しさがあった。
「ん?あなたは何者なんですか?」
行動の意図が読めず、俺は攻撃を警戒しやすいようネーヴェとの距離を縮めて、イザベルの一挙手一投足を見つめる。
「そう警戒しなくてよい。妾の支配地域でまさか、実力のある使えそうな実力者を見つかるとは思わなくてさ」
敵意を示さないように手をこちらに見せながら彼女は歩いてくる。
「どういうことだ?何がしたい?」
彼女が歩いてくるのを見てネーヴェと一緒に後ろへ下がる。
「協力だよ。一時的な協力関係でもいい、妾の仲間になれ」
イザベルは声を徐々にあげて冷たく、そしてこちらを威圧するような口調で語る。
「仲間になってほしいならまず理由を言ってほしい」
仮面をつけた彼女から顔は見えないので、その言葉の意図をうまく理解できない。だがこの状況を打開すべく俺は彼女に向けて話しかける。
「おお、君は物分りがいいね。君と比べて、この前ここへ来た人はただ暴力的でつまらないものだったよ。まあ、そんな奴も今、ちょうどここにいた君たちに燃やされてしまったが」
イザベルはさきほど俺たちの攻撃を食らって気絶したロングコートを指さして、もう一度手を広げて話す。
「君は、権力という力について興味はないか?」
「は?」
唐突すぎる話題に俺は少し固まる。
「聞こえなかったのか?権力だ。権力が欲しくないか?」
「いや、悪役なるんでいらないっす」
「私たち悪役ですので権力とは程遠い存在です」
いらないことを示すために
「悪役。それでもよいな、とりあえず妾の盟友にでもならないか?君たちはリレイネークに行く予定だったと聞いてるな?あそこは転移者や実力者でもない限りよほどの理由がないと入れない場所だ。そこで、妾を経由して入るべきだと思うぞ」
「え?どうしてそれを知ってるんですか?」
「確かに、私たちは偶然ここに落ちただけですし……」
軽く不思議に思う。なぜイザベラは俺たちの目的を知ってるのだろう。
「偶然、知ってただけだ。そこでだ。君らには妾の配下になり、他の八大官を倒す手助けをしてほしい」
「悪役が権力闘争に協力なんてするか?」
「しない気がします」
それを聞いたイザベルはこちらに歩み寄る。
「いや、君たちはそうすれば王にとっての悪役になるだろう。そしてゆくゆくは民衆にとっての悪役になりうるだろう」
「でも今の話を聞く限りあなたにしかメリットがありません、そこについてはどうお考えですか?」
「たしかに俺らがついていく理由がないな」
そうは言われてもメリットがないし、ついていく理由もないよな。
「協力しないなら魔眼で屈服させても良いが、実はちゃんとある、実は私の勢力の戦闘員だと妾以外の戦闘員に大した戦闘力はない。そこで、君らにはそのパワーバランスを壊してほしいと考えたの。もちろんその間の衣食住などの金は全てこちらから出すよ」
「ほう、それはいいな」
「衣食住保証ならいいですね」
彼女の口から物騒な話が聞こえた気がするが、ここにいる期間の衣食住を保証をしてくれるならひとまずそれでいいか。
「理解してくれたようだね。じゃあ本題に入ろうか、君たちには今度、国内で開かれる国王祭を襲撃してほしい。ここには八大官全員揃う重要な場所だから、そこを襲撃して彼らをあっと言わせてほしいんだ」
イザベルはどこかホッとしたようで、こちらに手伸ばす。
「あと、これは協力するための握手だ」
よろしく、というようにこちらの手を取って握手をする。
「しかし、疑問がある。そこまで君たちの襲撃に必要性はあるか?俺には君らが襲撃する理由が見えない」
「それはね。手短にいうのなら、リレイネークの八大官の起源、いやリレイネークが強い
イザベルはため息をはいて気分転換をするためにあたりを散策する。
「そうか、なら信用する証として顔を見せてほしい。ほら、顔が見えないと信頼できないだろ?」
イザベルのロングコートと仮面は、全てが中性的に作られ、体型などがまったく推定できないような服装だった。悪役として生活するならこういう服を着てみたいと思う。
「ああ、これはだめだね。この目には大きな危険が孕んでいる、こちらから他の人を見ることはできるけど、敵がこの目を見るとそのまま
彼女は自分の襟を正しながらそう呟いた。ちょ、ちょっと待て。ちょっと前に異世界の強者に出会って、自信を完全に打ち砕かれたかと思えば、今度は自分の上位互換スキルに出会うのかよ。
「それ俺の完全上位互換じゃん……」
思わずこぼした一言をイザベルは見逃さずに聞き返す。
「上位互換?君も魔眼使用者なのかい?」
「いや、スキルが似てるなって思っただけで」
「そうか、妾にそのスキルを使ってみてくれない?」
「え、いいんですか?」
「うん、これが信頼を勝ち取るすべになるなら喜んでやるよ」
「分かった、やってみるよ。服従」
いつものように御札の束を腕にまとわせるように召喚して
「イザベル、この御札の元に服従しろ!」
腕にあった御札の帯がゆらゆらと動き出し、御札がミイラを作るかのようにイザベルの全身を縛り付けた。
「ま、まじか成功すんのかこれ。どんどん成功率が上がってるな」
レアに失敗した記憶があり、このスキル自体を信じていなかった俺は思わず自分両手をみて
「成功したかい?」
「イザベル、マスクを取れ」
イザベルは首を傾げて聞くのを無視して俺はクラシック音楽によくいる指揮者のように片手を強く振って命令をする。
「ほら、妾に効か――」
彼女の言葉に反して手は仮面を外そうと動いた。
イザベルは抵抗するように手を震わせながら外す。
その奥から出てきたのは、声から予想していた冷酷なお姉さんではなく、
美少女といえるレベルでかなり可愛い顔をしたピンクの髪と目を持つざっと二十歳ぐらいの少女だった。
「え?」
「あ、あわわ……」
イザベルは完全に取り乱し、まだスキルの効果時間内なので仮面を戻そうにも戻せず、しまいには顔から涙が零れ始めた。
「うわ、コジマが可愛い女の子を泣かせた」
「ご、ごめんなさい。スキル解除します」
ネーヴェに軽蔑される目で見られ、やがて俺はことの重大さに気づく。グロいとかエロいとかそういう次元ではない見てはいけないものを見てしまった。そんな罪悪感に苛まれた俺は手を合わせてお辞儀をする。
「まじでごめんなさい!気持ちはわかります!なので見なかったことにします!ほらイザベルの姉貴、俺とネーヴェに次なる命令をください!」
イザベルは返事もせずにそのまま床にうなだれた。俺は彼女の顔と姿のギャップに対してつい中学生頃の厨二病時代の記憶が脳裏によぎる。
そう、それは――
「おい、中西!俺の右目を見ろ!なんか変わってないか!?」
「あー?うん、目が赤いな。目薬ぐらいちゃんとさせよ」
今の高校に入る前の、中学生であった俺はかなり厨二病気質であった。
俺は机の上に足を載せ、片足は椅子の上に乗せる。
「ちがーう!気づかないとは愚かな!これは俺の血に流れる血竜の覚醒が行われている最中だ!」
「そうか、おーいみんな小嶋って竜の子孫らしいぞ!」
中西は小嶋にやや呆れた顔をしながらクラス中にひびきわたるほどの大声を出した。
「ほーかっこいいな!」
「へえーすごーい」
クラスメイトの雑な返事が聞こえる。
「やめろ!!お前らがこの話を伝えると、この世界の血竜を狙う先代魔王らの子孫に狙われるぞ!それでもいいのか!」
まるで演説する政治家のような気分で拳を握りしめて、中西に負けない声量で騒ぎ立てる。
「おお!さすが竜の子孫!」
「がんばれー!」
クラスメイト、いや当時は
そしてチャイムが鳴り、熱意にまみれた俺はなくなく席に戻ることになる。
「最悪だ。それは鼓舞でもなんでもねーよ」
俺も思い出したことによって同じように顔を見せないように床へしゃがみこんだ。
「どうして二人ともノックダウンしてるんですか……」
ネーヴェが引き気味に二人を見て距離を取る。
(はあ、最悪だ……)
そんな冗談に付き合ってられないほど俺の体はむず痒かった。
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