第十一話 遭遇と新たな解決策

「ちょっと!コジー早く起きて!遅刻だよ!」


 何か体がすごく重たい……そう思ってまだ起ききっていない腕を動かしてがんばって目を擦ると、そこには寝ている俺の腹の上に跨って座っていたレアがいた。



「う、うーん。うん?」

「おーきて!おきて!お!き!て!」


 なんでレアが上に跨っているんだ?これは夢か?と思いながら俺はもう一度寝付こうとする。するとレアはそれを見て俺の胸をトントンと何回か叩き、その痛みで完全に目が覚めた。



「い、いてぇ。わかった。ちゃんと起きるから叩かないでくれ」

「早くしてね。コジーの考え通りに彼らはもう宮殿や駐屯所を占拠しに動いてるから」

「ま、まじか?俺完全に寝過ごしちゃったのかよ」

「うん、だから一番使い物にならない私が起こしに来たの。ネーヴェとシリエルは先に行かせてる」

「そうか、お前は別に強いけどな……ってか、アイツらが先に行ってるなら俺はまだ寝てていいか?俺居なくても勝てるだろうし」

「ダメ。あ、でも君がその代償として何かを提示するならずっと寝ててもいいよ」


 レアは突如恍惚とした表情を浮かべ、俺の首元をじっくりとさする。



「……命の危険を感じたからやっぱり行きます」


 俺は体を起こしてレアをどかすように立ち上がる。



「仮面もつけるか……」


 昨日はつけ忘れたけど今度こそちゃんとつけないといけないな。と思い仮面を顔につけ、変装用の服装を身にまとう。


「ごちそうさまでした……」

「そんなこと言ってないで早く行こうよ」


 急いで朝食を済ませ、レアに焦らされるように俺は服を着て目的地に向かった。




 ◇  ◇  ◇




 俺とレアは集合地点についた。



「ネーヴェとシリエルは……ああ、もう戦ってるのか」

「うん、その証拠に辺りにはたくさん氷の残骸や何かが燃えた跡があるね」

「しかし、疑問があるんだけど、レア――いや、レアちゃんは何が出来るんだ?正直レアちゃんの技は謎の衝撃波と首絞め以外見たことないな」


 レアと言いそうになったがレアちゃんと呼びなさいと言われたことを思い出して、レアちゃん呼びに変える。



「それは、その技が一番効率がいいからだよ。他の技は使いすぎても下手に正体がバレるから肝心な時以外使わないの」


 レアは何かを誤魔化すように手でピースをつくる。



「正体って……不思議な言い方だな」

「はは、親しい人でも見たことないものだからね」

「そうか……まあそうじゃないと幽霊姫なんて呼ばれないよな」

「うんうん、勘が鋭くていいね」


 レアは頭を撫でてきた。昨日のこともあるから彼女にはわざと嫌がらせされてるような気もする。



 ガシャァン!



 と大きな音が鳴ると近くにあった王宮の壁が壊れ、そこから大きな斧のようで剣でもある変わった風貌の武器を持った女が、シリエルの火属性攻撃を受けて滑るように後ろに下がる。



「クッ、お前たちは何者だ!どうしてこんな場所にいる!」

「それを名乗る必要なんてありませんわ」


 仮面を被ったシリエルとおそらくクラスメイトの誰かであろう女が技を打ち合い、目の前で戦いあっていた。



「あれに加勢するか?なんか勝ちそうだけど」

「勝ちそうだとしてもはやくいこう」


 俺は魔力を手に込めてレアと共にその女に向いて歩いていく。



火球連弾ファイヤボール

「なんだ?――ああ増援か。仕方ない、私の最後の切り札を出すしかないようだ。いくぞ、狂暴化ベルセルク!」


 こちらを見た女は、俺の放った火球を受けて彼女の手を振ってそれを打ち消す。



 そしてそのまま自分の手首にある皮膚を勢いよく噛みちぎり、彼女の体は三メートル程のサイズに巨大化して、髪が逆立ち、そしてステゴサウルスのような長く伸びた骨が背骨があったであろう部分から現れる。そして持っていた武器もそれに従って二メートルもありそうなサイズになる。



 彼女の姿は――いわゆる巨人化した原始人のような変わった姿をした化け物に変わった。



「おいおい、なんだあれ。出会ってきた奴らの中でもかなり毛色が違うぞ」

「そうだね、君のほかの元仲間と比べてかなり自分のスキルを使いこなしている。あれは強いよ」


 レアと俺は軽い冷や汗をかいて、少し恐怖を覚えていた。なぜならこのチームには近接戦闘ができないため、あの武器で切りかかってくればひとたまりもない。



「ヴォア゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛」

 その化け物になった女は突如大きく吠え始める。



「あ、レアさんとコジマ。来てたんですね」

「無事来れて良かったですわ。さて、あの珍しい狂戦士バーサーカーとはどう戦いましょうか?」


 その隙にネーヴェとシリエルは宮殿から離れ、急いで合流してきた。



「この方たちも小嶋の元お仲間かしら?」

「おそらくそうなんだが、何故かこの人は勇者職の人たちよりも強そうな気がするな」

「それはそうよ、勇者には慣れが必要だけど、狂戦士バーサーカーというのは怒りに任せるものだから、練度なくてもある程度大暴れできるからさ」

「なるほど、そういうことなんだ」


 俺は見境なく暴れる敵ならどう抑えるべきかを考え始める。



「目の前から消え失せろ。精神一到せいしんいっとう


 その狂戦士バーサーカーの咆哮が終わると

 彼女はすぐさま攻撃を始める。まずは縦に斧と剣が複合した武器を何度か薙ぎ払い、地面が断裂しそうな勢いでこちらに攻撃する。



「氷の精霊よ、我に万物を守る壁を与え給え。氷壁」


 ズザザとすぐに壁が前に広がり、狂戦士バーサーカーの斬撃を受けると敵を隔てる壁となった氷は一度耐えるものの、二度目ですぐに砕かれた。



「強い……あの壁はすぐ壊れるようなものじゃないのに」

「火の精霊よ、私の前に立つ塞がる障壁を全てを焼き尽くしたまえ。火炎放射ファイヤスロワー!」


 シリエルが狂戦士バーサーカーに接近させないよう続いて魔法を打ち込む。



「みんなまずどうにか戦ってくれ。その間に俺が策を練る」

「わかった。レアさんはしっかりコジマを守っておいてください」

「うん。やることないから守っておくよ」

「意外と近接なくても何とかなってるな」


 目の前を見ると、ネーヴェとシリエルの氷と火のコンビネーションにより近くに立ち寄らせないよううまく進路を塞いでいた。



「それは相手をうまく対応出来てるだけだよ。熟練の魔術師ほど近接攻撃を警戒するから近寄らせてないだけであって、君とかほら、元仲間の剣聖に一技で接近されたでしょ」

「あ、それはそうだ。俺も阻止する魔法を鍛えないといけないな……」



 山本に一撃で接近されたことを思い出して冷や汗をかく。近接なんていなくても勝てる!と一瞬でも舐めたこと考えていたが確かにレアの言う通りだな。



「じゃあ考えてみるか」


 今シリエルとネーヴェのおかげで接近はさせられてないものの、長引けば負けると思うほど彼女の狂戦士バーサーカーとしての実力は強かった。



 氷を生み出しても、数発ですぐに砕かれ



 炎は斬撃波によって生んだ風が消し去る。



「すごく強いな……」

 これは攻撃する前にこっちがやられてしまうぞ。



「狂戦士・ベルセルクトゥ

 そう声をあげると、剣と斧の複合品のような武器はもう一個増えて、彼女の腕は四本に増える。



精神一到せいしんいっとう勇猛無比ゆうもうむひ

 武器から出る斬撃波は力強く、まるで神は彼女の味方をしてるかのように、全ての技を無視して進んでくる。



「なんかやばくなってない?」

「ああ……やばいな」

 武器を増やしたので明らかに攻撃の威力も上がり、氷は一撃で破壊され、炎はほとんど意味はなさなくなった。



 その狂戦士バーサーカーは徐々に徐々に距離を詰めてくる。



 どうしたらこの巨人を倒せるのだろうか……俺は脳内にある情報で何とかできないと必死に張りめぐる。



 勇者を潰したネーヴェの技、一人で何とか倒した謎の獣人、剣聖を絞め殺した技、そしてあとで聞いたネーヴェとシリエルの戦闘。



 どこに使える情報はないのかと考え、そして思いついた。あれをやればいいんだ。



「レア、倒し方を閃いた」

「お、何かいい方法を思いついた?」

「普通に戦っても勝ち目がないなら、三人の合わせ技で倒せるか試してみよう。」



 思いついた方法とはできることを全て合わせてあの巨人にぶつけることだ。幸い的はでかいし避けられることもないだろう。この技にある唯一の欠点は、俺が居なくても成り立ってしまうことだけどな。



「おーい、みんな一度下がって俺の策を聞いてくれ。勝ち方を考えた!」

「何か思いつきましたか?」

「早く教えてくださいませ。あの狂戦士バーサーカーが走ってきておりますわ」


 シリエルとネーヴェに下がるように指示すると、それを見た狂戦士バーサーカーも逃げられないように走って追いかけてくる。



「時間がないから手短に伝える。あのでかいやつに氷で身動きさせなくしたら、油を撒いて着火しよう。そして最後に幽霊で首を絞めれば勝てる!名付けてコンビネーションだ!」



「こ、コンビネーションですか……」

「ほかの名前はないのかしら?」

「名前にセンスがないね」

「う、うるさいな!早くやれ!」


 そして俺たちは狂戦士バーサーカーを止めるべくもう一度接近し始めた。



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