第九話 やってきた増援の撃退
「逃げるな!小嶋ァッ!恥ずかしくないのか!」
背後から山本は剣を持って大きなステップを踏みながらこちらに駆け抜けてくる。
俺のスキルと魔法が戦闘に向いてなさすぎるから逃げるしかないだろ!と思いながら彼女らがいるだろう場所に戻ろうとする。
「君は俺から逃げられない!光の精霊よ、我が剣に光の力を渡し給え。
山本は足を一度止め、剣に光属性を付与する。
(俺はハナから戦うつもりはないのに魔法の付与か。一体何をするつもりなのだろう)
詠唱を聞いて俺は一度後ろを確認する。正直、俺はシリエルのおかげで火属性が少しずつ使えるようになったが、火属性魔法以外のことはほとんど知らない。
「光の精霊よ、我が剣を導く光となれ。
次の瞬間、俺と山本の距離を縮められ、俺は背中を強く切られた。幸い走っていたので傷は深くなく急所は外れれている。
まじか......こいつ遠距離攻撃もできるのか。と切られた傷を抑えながら、もう一度走り出そうとした。
が、山本は間髪入れずに前に現れ、息つく間もなく俺に蹴りを食らわせ、その攻撃をもろに受けてよろけた俺の腕を掴んで、床に俺を叩きつけた。
(こいつ柔道経験者だったな)
その技を受けて相手が柔道もできることを忘れていた俺は大きなミスを犯したと感じた。そんな後悔をする間もなく床に倒れ込んだあと、山本はそのまま俺の手を縄で縛った。
「よお、小嶋。随分可哀想なやられ方をしたな」
縄を縛った山本は俺を見て煽ろうと笑う。
「ふん。俺一人を捕まえるのに我慢できずに詠唱して攻撃だなんて、剣聖なんてかっつけた名前の割には雑魚一人狩るのに大苦労とは、パサイセン王国も大したことないな」
彼らにとっての悪役になるため、俺はすかさず反撃に出る。
「いやいや、俺は君のほうに驚いてるよ。仲谷を気絶させるような奴がまさか俺を見て尻尾巻いて逃げるとは思いもしなかった。」
「ああ?俺は気絶させてねえぞ」
何か認識の違いがあるな。
「死ぬのが怖くなったから今更言い訳か?あいつによればやったのは君だそうだ。奴隷にトラップを仕掛けて盗まれないような卑怯な手を使ってまでクラスのリーダーを狙って殺そうとな。残念ながらその目論見は失敗だ小嶋、今から君は俺の手によって処刑される」
「そうか、あれは単にあいつが勝手に地雷踏んで爆発しただけだ。俺にはなんの責任もないしお前らに興味もない」
わざとらしく顎をあげて床に座ったまま山本を見下すように話す。
「は、とことん気持ち悪いやつだな。よし決めた、他の仲間がいる場所で殺そうとしたが、お前のような野郎はここで殺してやるよ」
案の定山本は苛立ちを見せ、そばにおいていた大剣を掲げる。
「いや、それをする必要はない。残念ながらお前はここで死ぬことになる」
俺は山本を鼻で笑い、首を傾ける。
「ああ?どういうことだ?」
「会話に付き合ってくれてありがとう。時間稼ぎは十分できた。」
「ああ、自爆でもするつもりか?そうはいかない、なぜなら俺には加護があるからどちらにしろお前はここで――」
山本が剣を振り切ろうとした同時に首を幽霊に締められ、そのまま大剣を床に落とした。
「違う、俺に増援が来たと言いたい。殺すつもりならもっと早いうちにすべきだったな」
俺は立ち上がり、ゴミを見る目で上からその死にゆく者を見下した。
「コジー大丈夫だった?」
「レア、助けてくれてマジでありがとう!とりあえずこの縄をはやくほどいてくれないか!」
瓦礫の奥から現れたレアの姿をみて俺はホッとして彼女に声をかける。助けにくるのを信じて時間稼ぎをしたのがうまくいってよかった。
「んー、なんか今すごいかっこつけたこと言ってなかった?」
レアは俺の縄を解こうとする同時にジト目で俺を見つめた。
「あ、あんま気にしないでくれ」
「はあ、でもまさか横槍が入るとは思わなかったよ。あの速さからして街で暴れてた獣人もパサイセンの兵士なのかな」
「わからない、それにしてもシリエルとネーヴェを見かけないのだが、あいつらはどうしたんだ?」
「ああ、君が獣人を倒したころにおそらくこの男の仲間だと思われる人たちと遭遇して今戦闘中なの」
「ならよくここまで来れたな。俺はけっこう奥まで行ってたんだぞ」
「私には幽霊の仲間がいるからどこにいても場所はわかるの。だからコジーくんは浮気しないでね」
レアは俺にウィンクをしてそして手につけられた縄を解いた。
「何を言ってんだよお前……」
突如としたレアのウィンクと彼女の唐突すぎる言葉に俺はやや困惑しながら縄をほどかれ、ここから離れることになった。
◇ ◇ ◇
一方、シリエルネーヴェ側
「小嶋の救出はレアに任せるとして、相手の仲間は私たちが食い止めることにしましょう」
「わかりました。シリエルさんこれからどうしますか?」
「相手には剣士、黒魔道士、弓使いがいるから火力的にはこちらが勝ってるわ。このまま押し切れば勝てますの」
今、火と氷の魔法が大雑把にあたりへと打ち込まれ、相手はその火と氷の攻略に少し手間取っていた。
「長町、あの二人の魔法をどうにか弱くできないの?私の弓じゃあ全然貫通しないし届かないの!」
クラスでの情報を司り、彼女から流れる噂は嘘でも本当になるという陽キャ女子の相川。
「しらねーよ、俺の術にも限界があるんだ。あいつら普通に技のスケールがでかすぎて魔法をかけても大した威力削減はできねえ」
「はあ!?黒魔道士失格じゃんそれ!」
黒魔道士である長町は相川に苛つきながら必死に彼の使える妨害魔法を打ち込む。
「みなさん、仲間割れをせずにがんばって彼らの氷を切りましょう!!」
メガネを掛けたもう一人の学級委員であり勇者でもある佐藤が眼の前に立ちふさがる氷を切り裂く。
「ネーヴェ、こうしましょう。あなたがあの人達を捉えて私がその捉えた場所に私の必殺技を打ち込みますわ」
「わかった。がんばって誘導する。氷柱、私を高いところへ連れてって」
ネーヴェの足元に氷柱が現れ、突き抜けるように上にあがる。
「あ、相手が現れたよ!」
「気をつけろ!」
突然あらわれたネーヴェに三人は警戒する。
「三人に告ぐ、君たちはコジマに会うことはできない。なぜならここで死ぬから」
ネーヴェは一度深呼吸をして、詠唱をする。
「氷の精霊よ、我の前にいる反逆者、其れ等を捉え給え。そして朽ちる事の無い、突き抜ける痛みを与えよ。
ネーヴェは詠唱して足場の氷柱を砕き、そしてあたりにあった大きな氷の山も消し去った。そして同時にあたりに大きな吹雪を吹き荒れ、一帯は真っ白に染まり切る。いわばホワイトアウトのような状態になった。
「ネーヴェ、あなた私の話聞いていらっしゃるかしら?このレベルの技ならあなただけで十分じゃないですの」
上から落ちて床に積もった雪に埋まって顔だけ出しているネーヴェにシリエルは手に小さな火を召喚して呆れた顔で見ていた。
「いや、この技は術者にも効くから火属性魔法を使えるあなたがいないと私も死んじゃう」
「……それではほとんど意味ないじゃないですの」
シリエルは呆れながらネーヴェを引っ張り上げる。
「あと、これはフィールド魔法です。彼らがどこかに現れるかもしれません。私はつかれたのであとは頼みます」
「どうしてそんな身勝手な魔法を……はあ、私はそこで倒せばいいのですね、わかりましたわ」
ネーヴェは床に倒れてくたくたになっていた。
「見つけました!喰らいなさい!勇者切り!」
佐藤は後ろから現れ、シリエルに斬りかかる。
「近距離戦闘ができないと思わないでくださいませ。
後ろから腕を大きく振り上げて切りかかった佐藤の肘にシリエルは拳をぶつけ、その勢いで手から火を吐いてそのまま一度に彼女を燃やしきる。
「あなたのスキルは強いですが、それを扱うには経験が足りておりませんわ」
シリエルは手を払ってあたりを見渡す。するとうっすら他の二人の姿が見える。
「……これを見てまだ来るのかしら」
そう
「ちょっと長町こっからどうするの?」
「わからねぇ。ひとまず逃げろ!」
「逃げさせませんわ。全てを焼き払うよう、勢いよく消し去ってくださいませ。
その二人は避けることもできず、あっさりとシリエルの技で倒されるのであった。
「さて、はやく小嶋とレアに会わねばなりませんわね」
髪をふわっと浮かぶようにたくしあげ、そして彼女はネーヴェを背負ってその場から離れるのであった。
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