第八話 やっときた初戦闘とやってきた増援

「私たちの国にある奴隷市場とは様子が違いますわね」

「だよね。全然作り方も雰囲気も違う」

「へえ、ここはこんな風になっていたんですね」


 今俺たちは宿を離れ、四人は変装用の服に着替えて目的である奴隷市場を歩いていた。



「コジマさんは何かいい仲間を探せるあてはあるのですか?」

「ない。ここにある店をしらみ潰しに探すしかない」

「それってほぼあてじゃないじゃないですか」

「でもきっと何とかなる!」

「そうですか……」


 今まで俺がどれだけ適当に生きてことか、そんな過去を思い出してここはポジティブにいこうと俺はすべてを天に任せることにした。神様、俺に最強でコントロールのできないようなすごい近接のできる奴隷を見つけさせてくださいと祈り、ひとまず檻にある宣伝文句の書かれた紙をそれぞれ確認しながら奴隷市場を回った。



「うーん、特になにもないな」


 しばらく奴隷市場を回ったが俺の祈りは神に届かなかったみたいで、その近接のすごそうな奴は見つからず、ここにいたのは基本的に犯罪者だったものや、元格闘家だったけど借金あって奴隷になったというのが多かった。



「ふむ、困りましたわ」

「ひとまずみんなつかれてるだろうし、近くにあるお店に行って一度休憩しようか」


 俺は適当なお店を見つけて、その店にある甘味を味わいながらそこにある椅子に座ってもう一度会議をすることにした。



「やっぱりこれは、兵士とかを助けて仲間にするのが無難なのか?それにしても魔法と違って本当に見つからないな」


「ネーヴェみたいな子を見つけれた事自体すごい気がするけど、まあ魔法と違って武芸には鍛錬の必要があるからね。」


「じゃあつまり未だに火球しか打てない俺ってダメ人間なのか?」


「そういうこと言ってるわけじゃないの!どんな技術でも鍛錬する必要はあるけど、魔法は何も知らなくても人を殺せるから」


「ああ、まあそうだな……この世界では銃の代替品が魔法だもんな」

「銃……?」


 銃という言葉に困惑しているレアの傍で俺は何となく合点がいった。剣は人を切るためにも技術が必要だが、銃は引き金を打てば敵を殺せるもんな。魔法もきっと似たようなものだ。



「いやーしかしそれにても、剣術ができる人って本当にどう探すんだ?」

「結局しらみ潰しでも見つかってないですもんね……まずは弱くてもいいので、適当に一人でも買ったらどうですか?」


「うーん、奴隷って実質終身雇用だからそれは嫌だなあ……」

「ええ、それもそれで今後に困りますもの」

「やはりそうなりますよね」

「まあ、みんな食い終わったらもう一度回ろう、見逃しただけで本当はいるかもしてないから」


 その甘味を食い終えた俺は立ち上がり、しばらくしてみんなと一緒に奴隷市場に戻った。



「助けて、人殺しよ!!」


 食べている間、奴隷市場に新たなトラブルが発生していた。鎖がついたままの約五メートルかそれ以上あるガタイの良い男が完全に狼の姿と化した獣になっており、その男の全身が血にまみれていた。



「な、なんだありゃ」


 その男の大きさに少し俺は驚愕する。ここが異世界だからこういうことができるのだろうと理解はできるのだが、それにしても大きかった。



「ウオオォォオオオッッッッッ!!奴隷市場の責任者はどこだああぁあぁ!!ぶっ殺してやるぞオォォォォ!!」


 男は大声を発しながら力任せに辺りにあった奴隷商人の建物を破壊しまわり、あたりはがれきの山まみれで人がうまく歩けないほどの悲惨な状況を呈していた。



「あれ、止めた方がいいよな。どうしたらいいんだ」


「そうですわね。ここは目立たないように小嶋が戦ってみたほうがいいのではないでしょうか?」


「ん?俺か?お前らじゃないのか」


「ええ、私たちがここで出れば過度な注目を集めることになりますわ。そこで、ここは小嶋に戦闘を任せば注目を集めすぎずに鎮圧できると思いますの」


「そうか。まあ確かに戦うなら俺がやるのは妥当な選択だ。しかし俺はまだ中級もかじってない初心者だから大したことはできないぞ」



 注目は集めたくないならレアでも良くないかとは一度思ったけど、俺が実戦を経験していないことを考えるとここは俺が練習がてら戦闘をした方がいいよな。



「そこは私の指導を信じてくださいませ。それにあの男も感情で動いていますので、初心者だとしても冷静なあなたの方が上ですわ。なので、これは実質初心者同士の戦いに変わりませんわ。」


「たしかにな。ああ決めた、俺が行く。あとシリエル、俺のこの本に燃えやすい油を放つ魔法陣を埋め込んでくれ。これって術者以外でも使えるよな」


「ええ、もちろん。魔法陣を埋め込みますのでしばしお待ちくださいませ」



 俺は洞窟で彼女が魔法陣を使って魔法を打っていたことを思い出して、彼女の油スキルを借りてみることにした。魔法が埋め込めれるようでよかったと安心しながら彼女が魔法陣を埋め込んだノートを手に取る。



「あとこれはどうやって使うんだ?」

「普通に魔力を込めれば放出できますわ」

「了解、じゃあ行ってくるわ!」


「頑張れ〜」

「何があったら私たちが助けますよ」


 彼女らの応援を背に俺は本を持ったまま暴走している獣人の元に走って向かった。



「火の精霊よ、火を形成して多数発射したまえ。火球連弾ファイヤボールレイン



 夢中で建物を破壊している獣人に向けて注意を引き付けようと練習した魔法である火球連弾を打ち込む。



「ああ、なんだぁ?」



 獣人に火球は見事にすべて命中したが、獣人はびくともせずにその燃やされた背中を一度仰向けに倒れてゴロゴロと転がって火を消した。



「おい、狼!怒りに任せた破壊活動をやめろ!」



 やべえほとんど効かなかった。そう思って俺は捨て台詞を吐いて一度まだ壊されていない建物の中に入り、そしてその中にある裏口を見つけて抜ける。



「なんだぁてめぇ」



 逃げた俺を追うようにして俺が入っていた建物を勢いよく破壊した。



「これで終わりか……変な虫がついたなぁ」



 獣人は完全に倒したと思ったようだが、俺はその建物だったモノの上に登ってもう一度彼の注意を引く詠唱をする。



「火の精霊よ、火を形成して多数発射したまえ。火球連弾ファイヤレインボール

「そんなもんは、効かねぇ!」



 火球が到着するまえに獣人は俺の攻撃に気づいてその火球群を全て手でなぎ払い、そして向かってくる。



「どうするべきか……」

「諦めろ!諦めろ!」



 俺は今度、色んな建物だったモノが集うもっと瓦礫の多いところに入って行った。



 それを見た獣人は見失なったのか、眼の前に立ちふさがる大量の瓦礫を何度も何度も爪でかき分ける。



 俺は奇跡的に瓦礫が連なり、それらがトンネルのようになった場所を見つけ、瓦礫が崩れてこないかという恐怖とともにシリエルのスキルが入ったノートを構えていながら獣人を待っていた。



「やっと見つけたぞ」



 匂いを辿ったのか、しばらくして獣人は俺の場所を見つけて、その獣はまず顔と腕をこの中に入れて、俺を取り出そうと手を伸ばす。



「ふっ、くらえ!シリエルの水!」


 ノートに魔力を込めて適当に考えた技名を言い、油を狼に勢いよく注ぎ込む。



「くっ、こんな水なんて効かねぇよ!!」



 そう言って獣人はイライラしたのか油を無視して、ここにある瓦礫の天井を破壊し、立ち上がるとそのままノートを持っていた俺に向けて両拳を振り下ろす。



「ああ、効かないのはわかってる。だが、俺がやりたいのはそれじゃない。火の精霊よ、火を形成して多数発射したまえ。火球連弾ファイヤボールレイン



 油すら避けずに攻撃してくる獣人に向けて、火球群をぶちこむ。もちろん手を振りかざしていた途中の獣人は避けれることもなくすべて命中した。



「うわああああ!消えねぇ!」



 獣人は手や前腕が火球を受けて勢いよく燃え上がった。それを何度も先程と同じように払おうとするが、もちろんただの火球ではないので消えなかった。



「技名で嘘をついてしまったな、それは水じゃなくて油だ」


 火だるまになった獣人はそのまま床に転がりうろたえるが、俺は彼の姿に目をくれず、すぐにレアたちがいる方向に走っていった。



「よっしゃ、なんとか勝ったぞ」


 俺は瓦礫と化した街から急いで出ていき、仲間の元へ戻ろうとした時。



 後ろから声がした。


「おい、お前小嶋だろ?あんな豪勢な火属性魔法を放つような魔導師だとは思いもしなかった。おまえが仲谷を傷つけてなかったら呼び戻そうとでも思うぐらいだな」



 そこにいたのはクラスの山本。立派な大剣を握ったまま俺から距離をとって様子をうかがっていた。



「はあ、結局俺の予想通りだったか。しかし開戦前に会いに来るとは意外だったぞ。じゃあ、ここでかたをつけよう」



 俺は山本に対峙することになった。持ち前のハッタリをかましながら、シリエルの魔法陣が刻まれたノートを構える。さっき思いっきり使ったからほとんど油が残っていないけどな。



「いざ、尋常に参る!」

「だが、戦うのは俺じゃねぇ!」


 もちろん、今の俺には勝ち目がないので、彼に背を向けて一目残に仲間のもとに逃げる。



 早く彼女らのいる場所に戻らねば。

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