第七話 思いついた作戦とクラスメイトたち

「よくぞ帰ってきた!それで、新しい仲間がこの子なんだね。服従はかけた?」


俺たちは今、宿にいた。あれから俺は残ったお金を使ってネーヴェの服を買うために全て使用し、今の彼女は綺麗な青を主調とした戦闘のしやすい学生服にも見える服に着替えた。服は似合っており、知らない人が見れば彼女は国の偉い人の子供とでも思うのだろう。やっぱり金の力は偉大だ。



「いや、かけてない。やっぱり俺一人がこのスキルを使うのはまだ荷が重いよ。あとこの子は話が通じそうな雰囲気があったからかけてないっていう理由もあるし」


実際、まだ服従で雑に仲間を増やせる段階に至ってない。むしろ強い仲間を今の俺が倒せるわけないから当たり前だけど。



「へえ、それで私達についてきてくれたんだ、ありがとね」


レアはネーヴェの手をギュッと握り、ウィンクを送った。この人、仮にも百年ぐらい生きてるよな、なんでこんなに気さくなんだ。少し羨ましいくらいまである。



「ふむ、コジマさんは嘘をついていなかったようですね」


ネーヴェは部屋中を一度観察して、そう口を開いた。



「この子はどういう子かしら?」


「ああ、氷魔法がすごい強くて、自分の国が滅ぼされた時に奴隷になった子らしい。それで彼女を買った人は全員死んだようだ」


「おお、それはコジーの言う通り危ないやつだね」

「私は危ない人ではありませんよ」


話を聞いてレアとシリエルが感心するような顔をしてそれを見たネーヴェは不服そうに口を曲げる。



「魔法使い増やしても意味ない気がするけれど、遮蔽物が多い都市で近接のプロがいないことはどうするつもりなのかしら?」


「近接......まあそれは明日市場に行って探そう」


そうだった。このチームに近接要員が一人もいない!肝心なことを忘れていた。都市戦なんて特に近接戦闘が多い場所だ。なんで俺はもうひとり魔法使いを増やしてるんだよ。



「私はそこまでお金がいっぱいあるわけじゃないけど」

「そこはお願いだ!仲間がまだ必要だから金を貸してくれ!」

「近接がいないのも困りものだし、いいよ。もう一人だけ買おう」


レアは仕方なさそうに少し財布を確認したあと、許可を出した。



「そうだ、俺はこれから作戦について話したい。主にどう戦うかについてだ」

「作戦?何か考えがあるのかしら?」



「やることは簡単だ。彼らの作戦をうまく進行させないようにするだけでいい、まあ――」

「あの、話を断ち切ってすいません。この国で何が起きたんですか?」


ネーヴェ手を挙げて話に割り込む。



「んん......話が続かないなぁ。まあ、あれだ。俺たちがこの国に来たのは、元いた国であるパサイセンがここを侵攻するから、この国に来てその野望を阻止するっていう理由なんだ。新しい力を手に入れたからって調子乗ってんじゃねーぞってするためにこの国で有名になって彼らに警告したいとも思ってるんだ」



「ふむふむ、あ、さっきの話続けてください」

ネーヴェが理解したようで話に頷いた。



「うん、今はまだ机上の空論に過ぎないが、今日ネーヴェと歩いてるとパサイセンの勇者に遭遇した。新聞では出発は二日後なんて言っていたが、おそらくとっくの前に首都の情報を集めるためにこの国に来ており、戦争と同時にこの首都を占領するんじゃないかって俺は思うんだ」



「それってだいぶ無茶な考えじゃない?パサイセンは普通に軍を派遣して国境から徐々に攻めてくるだけじゃないの?」

「いやいや、それはそうだが、実力者がたくさんいたら首都に集って最初から首都を攻める方がいいだろ」



前の世界にいた時のように戦争は開戦して国境から両軍が互いに戦闘を仕掛け合うなんて俺も最初は思っていたが、よく考えてみれば銃や剣より隠蔽性の高い武器である魔法がこの世界にある時点でそれをする方が効率が悪い。



確か俺のクラスメイトは勇者や大魔導師なんていう明らかに強そうなものを貰ってるし、それならパサイセンはその実力者を集めて首都直接殴り込みなんてやりそうだ。まあ戦争が始まろうとしてるのにマーヤマ王国の警備がそこまで強くないのも気になるが。



「それでここに地図がある。俺の考え通りなら彼らはこの国の重要な場所、つまり王のいると王宮を守る兵士がいるを狙うだろうから、戦争の始まった日はまずそこに集おう」

「なるほど。それよりあとはどうするのかしら」



「まあ、そっからあとはあれだよ、アドリブで行こう。だって俺は戦争や戦闘なんて完全に未経験の初心者だし、色々言ったけどやっぱりこういうのは体験してみないと結局分からないよ。今日色々しすぎて眠いからみんな明日に向けて寝よう!じゃあ、おつかれ!」



「ねえ、どうして一番話の信ぴょう性をなくす話を最後に持ってくるの」

「……この人一体何なのですか?」

「時々こうやって変なこと言うから仕方ありませんわ。ひとまずそれぞれの部屋に戻りましょう」


俺はそのままベットの布団に一目散に入った。それを見た三人は少しばかり呆れながらしばらくたつとそれぞれの部屋に戻った。




   ◇ ◇ ◇




一方、クラスメイト側


「仲谷が、にやられた?あいつこんな場所に来てたのか」

「追放されて以来話を聞かなかったけど、まさかマーヤマ王国で商売をしていたなんてね」


クラスメイトらはマーヤマ王国の首都の宿にて来たる二日後に向けて作戦会議をしていた。



「おいおい、仲谷に何が起きたんだ?」



「あいつが小嶋にこっぴどくやられていたんだ。俺たちはそれを小嶋がやられた報復としてやったことだと考えた。悔しい話だが、彼の目論見どおりこのクラスに勇者がいないということは、俺たちの要がいないのと同義だ。」



「ああ、仲谷はクラスの最重要人物なのに、あいつのせいで数日間安静にしていないといけなくなったな。王宮を狙うと同時に軍隊が居る駐屯所を潰して、一気にこの国の国家機能を麻痺させる作戦も練り直さないといけなくならなくなっちまった」



遅れてやってきた暗殺者の西村にクラスの剣聖、山本と黒魔導師の長町が嫌そうに返事をした。



「まあまあ、みんな落ち着きなよ。ある意味絡む必要のない奴隷商人に絡んだ仲谷が悪いんだしさ、むしろ俺たちにチャンスが回ってきたとは思えないか?」


「ん?それはどういう意味だ?西村」



「山本、考えてみろよ。仲谷は確かに俺らのクラスの要だ。しかしあいつの正義感には度が過ぎたものがある。あいつさ、娼館に行こうとする時に俺らに未成年は入ってはだめだなんて言ってたし、邪魔者が数日間再起不能になるならそれは好都合だ」



「君の考えには一部理解出来る部分はあるが、それはどう考えても言い過ぎだ。勇者にはなれる理由がある。お前が暗殺者なんて職業になったのはそういうひねくれた考えが原因なんじゃないか?」



「ハッ、俺は職業占いなんて信じない。今回は予言に魔王が復活する第一歩として奴隷たちを服従させ、すべて暴れさせるなんて話があったからついてきただけで、それ以外の時は君らに追従するつもりはない」



「はあ……」

「勝手にしろよ西村。夜も遅いんだしさっさと寝ろ」


ウンザリした長町は横槍を入れて手を振って部屋に帰らせようとする。それを聞いた西村は涼し気な顔をしながら部屋に戻った。



「本当の邪魔者が消えた。ひとまず勇者に奴隷市場を解放させる案は取り消し、俺らは王宮と駐屯所を優先的に潰し、次に奴隷市場を潰して魔王の目論見を潰そう」


「そうだ山本、お前は奴隷商人の小嶋についてどうするつもりなんだ?あのまま放置か?」

「仲谷のために明日探しだして小嶋の息の根を止めよう。みんなはどう思う?」



「おお、それはいいじゃないか。」

「小嶋は前から嫌いだったしちょうどいいね!」

「やるぞ!仲谷の仇をうて!」


山本の返事にその場にいた全員が賛同した。



「じゃあ決定事項だ。明日、戦争より前に行動することになるが、小嶋を討ち取れ!」


小嶋の知らないところで着々と彼の殺害計画が建てられていた。





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