第六話 仲間を購入してみたと例の人に再会

 今、俺たちは出発の準備を終え、馬車に乗ってマーヤマ王国へ向かっていた。戦争が始まるまで二日しかないので、早いうちに出発することにした。



「集合、そして出発!」


 レアが街で雇った馬車に乗って出発する。彼女が今までこなしてきた任務の報酬のおかげで俺たちの財布事情はかなりよく、そして動きやすい。



「昨日の料理は不味かったねぇ」


 レアは欠伸をしたあと飴を口に頬張る。



「甘いものを入れないだけでそのような言い様とは酷いですわね。あなたは甘くないと生きてられないのかしら?」


「お前らいつまでイチャついてんだよ……俺の身にもなってくれ」


 馬車の上での彼女らはいつも通りにくだらないことで争っていた。ここまで一緒に過ごして気づいたことだが、レアはかなりの甘いもの好きだ。小さな甘い飴を常に持ち運んおり、暇さえあれば食っている。




   ◇ ◇ ◇




 そして馬車のって約数時間、俺たちはようやくマーヤマ王国の首都に着いた。ここは山岳に囲まれており、中央には特徴的な大樹が一つ目立つように生えていた。戦争が始まるためか兵士が入口の前で警備をしておりやるべき手続きにやや苦労したが、手荷物検査されたあと、どうにか首都に入ることに成功した。



「では私たちは偽装用の服を買ってくるから、コジーは人材を探すために奴隷市場にでも行っておいて」


「おう、わかった。」



 出発前に実は街に出るときに使う変装する服を決めていた。ロングコートにフード付き、いわゆるザ・悪役の服装を買うことにして、その品の入手は彼女らに任せた。レアには金貨五枚を渡され、俺は奴隷市場に向かうことになった。



 奴隷市場には色んな奴隷が売られ、みんなそれぞれ奴隷の宣伝文句と簡単な説明を書かれた紙が貼られた檻のついた小さな小屋の中に入れられており、そこにいる店員の監視の元に商売が行われていた。



【あの王都十人失踪事件の主犯!スキルスモークのエルフ、金貨一枚】


【剣闘士経験あり!スキル筋力強化の獣人ウルフ、銀貨十枚】


【借金まみれの元格闘家!スキル俊足のドワーフ、銀貨五枚】



 一部の宣伝文句にはちょっと物騒な紹介が書かれてるような気がするが、少なくとも俺が思っているようなコントロールのできなさそうなやばい紹介ではないため、スルーすることにした。



 そして何軒か奴隷販売店を周ると、ついに只者じゃない奴隷を見つけることになった。



【国を滅ぼされ、奴隷となった亡国の雪姫。今まで手に渡った人は全て死亡しており、死亡した場合の責任はとりません】



 囚人服のような薄い服に目隠しと布を口に含ませられ、耳栓をつけられて、手に手錠を掛けられていた。その子は長く伸びた銀髪を持ち、まだまだ若いと感じ取れる体型を持った少女だった。念入りに施された拘束から彼女の異質性を感じとれる。



 こ、これだ……俺はその子の説明を確認する。



名前はネーヴェ・マークス、スキルは堅氷乃竜、適性職は冷凍貯蔵家。



そして本来なら金貨十枚だったのが金貨一枚に値下げされてるようだ。



レアから渡されたのは金貨五枚であり、この子なら買えるだろう。って冷凍貯蔵家はなんだよ。魔法で冷蔵庫みたいな仕事をするのか?



「て、店員さん!この子、買います!」



 金貨を一枚取り出して見せる。



「おう、小僧。そいつは乱暴でかなりの曲者だ、うまく扱えなきゃすぐに殺される。あてはあるのか?」



「もちろん!もし何があったら自己責任ですので」



 受付で本を読んでいた店長らしき人物は立ち上がって金貨を受け取る。



「そうか、その心意気だ。なら、この魔法陣に手をつけて契約をしてくれ。気休め程度だが君の意思で彼女を縛れる。あとは頑張れよ」


 ポーチのようなものを俺に渡して、手を魔法陣にかざさせ、その後小屋の中からネーヴェを引っ張り出した。



 彼女についた鎖を握りながら近くにあった空き地でポーチの中身を確認する。中には説明書が一個入っていただけだった。そこに書いてあったのは宣伝文句とちょっとした説明、そして注意事項だった。



 注意事項を少し読み進めると、もし完全に拘束を解く場合、安全を確保できる場所で彼女に話しかけるべきと書かれていた。



 どうやらレアやシリエルが立ち会いの元で彼女に話しかけないといけないようだ。




「なんて汚らしい場所だ」




 空き地でこの子をどうしようか悩んでいると、馴染み深い声が聞こえてきた。ふと、見ればそこに居たのは最初の日俺を馬鹿にしてきた、目立たない服に着替えている仲谷だった。ここにいるってことは、二日に向けてここに潜伏しているってことなのだろう。一度俺は彼にばれないように今の着ている服の襟をあげる。



「ん、お前なんか見覚えがあるな?おい、顔を見せろ」


 襟を上げた意味はなかったようで、簡単に彼に気づかれたようだ。はたから見た俺は拘束を施された少女を鎖で引っ張っている。彼に俺の姿は奴隷を売ってる途中の商人だと必ずそう思われるだろう。仕方ない、このまま振り切ろう。



「お前、小嶋か。服は前と違ってボロボロだな。奴隷商人という仕事はさぞかし大変なんだなあ。まあ人身売買の仕事なんてうまくいかねえな」


 俺の服はレアによってわざと色あせた古い服を着させられている。君の服は特徴的すぎるからっていう理由らしい。



「よお、久しぶりだな。お前らが追放したお陰様で俺の奴隷商売は万々歳だぜ。ほら見ろ、この子もこれからお偉いさんに売るんだぜ。勇者さん、他国に来たのにコソコソすることしかできなくて可哀想だなぁ?」



「ふっ、そう言ってろ。お前は奴隷商人という人道に反する職業が適性職になり、俺は勇者という職業が適性職になった。何でこうなるかわかるか?そう、神はお前が犯罪者思考にまみれたゴミと言ってるんだ」



「異世界にお前のいた世界のルールを持ち込むな馬鹿。お前の話がもし合ってるなら、それは俺がこの世界に来たのは神のミスっていうことを意味するぜ。知ってたか?この世界では神を侮辱することは犯罪だ。つまりお前のこの失礼な発言が誰かに聞こえたら逮捕ってことだよ」



「チッ、犯罪者風情が調子に乗りすぎだぞ。神を侮辱することが犯罪なら、お前のような輩はな、今ここでをぶった斬ったほうが良さそうだな」


 仲谷は即座に剣を取り出して、俺に切りかかる。



 剣の動きを見て慌てて避けようとしたが、どうやらその剣は元々俺を狙っておらず、持っていた鎖の方を断ち切った。



 そして、仲谷はネーヴェの拘束を解き始めた。



「大丈夫か?君、あの男はやばい人だから早く逃げるんだぞ」


「ま、待て。そいつの拘束は解いてはいけない!!」


「は?お前の戯言なんて誰が聞くものか」


「違う、そういうことじゃ――」


 話終える前に彼は拘束を全て解き終えた。



「うっうう……怖かった」

「そうか怖かったのか、早く逃げるんだ。」


 ネーヴェは拘束を解かれたあと、わーっと涙をこぼし、そのまま床に座り込む。



「氷の精霊よ、無のみぞ存在する、我の願いを叶え給え。一歩目を踏み出し、全てを駆除せよ。雪崩爆風ヴァランカ



 そして彼女は座ったまま早口で詠唱を始め、それが終わると同時にネーヴェの周りに雪の渦が現れ、そこから雪の混じった暴風が突き抜けるように仲谷にぶつかる。彼は反応する間もなく、そのまま吹き飛ばされて近くにあった大木に思いっきりぶつかった。



「ぐはぁっ」

「私の前から、たたた、立ち去れ!砕氷ハゼロ!!」


 雪の渦が消えていきながら、彼女が少しだけ噛みながら詠唱をすると、仲谷に霰のように分裂した氷の破片がパタパタと衝突し、抵抗できずにぶつけられた仲谷は気絶した。そして彼女は仲谷の様子を見に接近する。



「おお、すげえ。ネーヴェはすごいな」

 俺は恐る恐る彼女に近づくと、彼女はすぐこちらに振り返った。



「だれ?」

「こんにちは、俺はお前を買った人だ。」

「永遠に労働をさせられる奴隷にはならないから、怒らないうちに私の前から立ち去って」

「ごめん、こっちにも事情があるからそれは出来ない」

「なんで?」



 ネーヴェは話を聞こうと耳を少し傾け、それを見た俺は彼女を説得するためになるべくカッコつけたことを話すことにした。



「俺は君のような強力な仲間を探すために奴隷を買ってるモノだ、そこで、ただ労働させるために買ったつもりではないってことを知ってほしい」



 俺は昔minetubeで見た説得力のある話し方を思い出して、身振り手振りを加えてハキハキ喋り、なるべく説得力をもたせようとしてみる。



「……ふーん、私にはそれが嘘のように聞こえる」

「ほう、そう聞こえるのか、ならもう少し説明しよう。俺はこれから世界を裏から操っていく悪役になろうと考えている。」


「へえ、変わった考え」


 ネーヴェの反応を見て俺は話題を変える。



「君はこの国に奴隷として送られてことについて何か思ったことはないのか?例えば、君の国を破壊したものや君を奴隷にさせた人に憎い気持ちや怒りの気持ちをぶつけたくなったりさ。」

「ちょっとは思った」


 まずは彼女の話題を話してみる。するとネーヴェは少しだけこちらに体を傾ける。



「実を言うと、俺はこの世界の人ではないんだ。召喚されてすぐに仲間に見捨てられ、何もない状態で旅立った。だからその日、俺は彼らを見返す、いやそれより先を見通した、世界を守る悪役になろうとした。だから、俺の言ってることは君の同情を買うためのものではなく本当だ」


 よし、決まった!と思って俺はネーヴェの様子を見る。



「そうか、面白い人だね。君の熱意が伝わったよ、仲間になるよ。でも気をつけてね。もし気に食わなかったら殺すよ」

「それでいいよ」

 彼女は話に興味を持ったのか、一度咳払いをして語った。どうやらなんとかなったそうだ。



「なら君には仲間はいるの?」

「二人いる。俺の師匠とよくわからない金持ちだ」

「ならあなたは?」

「俺は、それを統帥してる指揮官みたいなもんだ。今のところは」



 魔法も剣術も大してできないのだからこう語ることしか出来ない。はは、スキルがもうちょっと使いやすいやつだと良かったな……



「わかった。ならまずその二人に合わせて、話はそれから」


 よし。なんとかなったぞ。うおおおおありがとうminetubeさん!



 俺とネーヴェは奴隷市場から離れることになった。











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