第三話 ちょっとした噂話をしよう
「ここが金庫、ここが図書館、ここが風呂場、ここが私の寝室」
レアにこの屋敷の隅々まで案内される。ほとんど何も置かれていない空き部屋が多く、もう数年経っている屋敷だから使われてないのだなとわかる。
俺たちは昔応接室として使われた部屋の椅子の上に座って一度休憩することになった。
「どう?もし興味があるなら私の寝室で寝てもいいよ」
レアはニコッとしながら、暑くもないのにわざとらしく自分の服をつまみ、胸元をあおぐ。
「いや、緊張して眠れなさそうだからやめておきます」
「そっか、なら仕方ないや。それで疑問に思わなかった?どうして奴隷街に大きな屋敷があるって」
「それは、そうだな。入る時に少し思ったよ」
ニヤッと微笑み、彼女は立ち上がって説明する。
「そう。実はここ、昔まで貴族の敷地だったの。でも百年前に有りもしないクーデター疑惑をでっち上げられ、その貴族の家族を殺して子供を奴隷にしたら、その子が後々暴走して、国民の半分を呪殺したとされたらしいの。そしてその時の国王がその子を恐れて、それを鎮圧するために色んな犯罪者をここに送ってどうにかしようとしたからこんなスラムに屋敷があるような奇抜な場所になったの」
「へえ、ここって呪殺するような子がいるような恐ろしい場所だったのか?」
「うん、それでその呪殺をした子、私なの」
「え、うん、は???」
彼女いきなりすぎる回答で俺は思わず固まる。
どこの世界に百年生きてなおかつその生物が目の前にいるって状態になるんだよ。いやなるか、ここは異世界だもんな。
「そっか、ここは異世界だもんな」
しばらくして俺はようやく返す言葉が出た。
「あはは、時間かけて出た感想がそれなんだ。君はすごい変な子だね」
「初めて見るものばかりだからしかたないだろ」
「ふふっ、君は純粋でいいね」
彼女は俺の固まった姿を見てそれがおもしろいのか笑った。俺の身にもなって欲しいよ。
「そういえばさっき、俺の技が効かなかったのもそういうことなのか?」
「うん。私は君より強いから服従なんて技、取りに足らないよ」
「そっか……じゃあ俺はどうすればいいんだ?異世界に来たんだからせっかくの無双ライフを……」
俺は落胆した。なんで最初に出会う異世界人が大量呪殺をしたような化け物とかなんだよ。まじで。
「無双ねえ……コジーが頑張って剣術や魔術を習得しない限り、そのスキルはどちらかと言えば指揮官向きだよね」
「そうだな。しかし指揮官か、そうなると奴隷を集めて指揮とかするのか?」
「そうそう、コントロールしてうまく使うって感じ」
「なるほど。それもそれでいいな」
服従をうまく使いこなすためのアドバイスを俺にする。今後一人で戦うことになるかもしれないから剣術や魔法の勉強はいつかしておこう。
「そういえば、君は犯罪者ではないのにここに来たんだよね?」
「そうだ。まるでリセマラのようにいらない物として捨てられた」
「リセマラ……?なら一つ質問があるんだけど、君はそんなひどい国に復讐、したくない?」
「復讐か?ああ、もちろんしてみたいよ」
「そっか、私もこの国にいい思いしてないからコジーに協力するよ。」
「でも、復讐と言っても俺は乗り気じゃないな」
復讐っていうのは何も生まないという言葉がふと頭をよぎった。
「どういうこと?」
「そりゃあ、復讐は何も生まないからだよ。彼らの言い分にも納得出来るしさ」
「でも私は冤罪で貴族じゃなくなって、住む場所をスラムに変えられたんだよ」
「……それは何とも言えないな。」
「でしょ?なら変にかっこつけたことは言わない方がいいよ」
「だが、魔王が数ヶ月後降臨してこの国を攻めるみたいだから、即戦力になれない俺が追い出されるのは仕方ないよ」
「ん?それってどういうことなの?」
「いや普通に魔王がこの国を滅ぼすって話だよ」
「仮に魔王が降臨したとして、どこの国を狙うなんて魔王が言うわけないよ。だって、どこの国に軍隊すらない持ってない時期から攻める国を決める人がいるの?どう見てもそれを口実に自国を強くしたいだけでしょ」
「たしかに……」
あの時流れで信じてしまったが、よく考えてみれば確かにむちゃくちゃな論理だ。攻める国を数ヶ月前から堂々と話すわけないよな。
「じゃあ、決めた。復讐じゃなくてその上、そう。悪役になろうよ」
「悪役?それってどういうこと」
「そりゃあ、各国の動きに楯突くことをして、世界のことを守っていくことをしてみたいなって、ほら、なにか裏であやつってるみたいでいいだろ」
「うーん、それはいいと思うんだけど、君はそれをするにあたっての人材とかはどうするの?私しか戦闘員がいないと困るよ」
「……」
痛いところをつかれた。今の状態だとたしかに人が足りない、どうすればいいんだ?
「ひとまず君が剣術や魔術を習得できるまでの間、私が代わりになって君の敵をぶっ潰してやるよ。それで弱った隙を狙い君がスキルを使って服従させれば、君の部下もできるよね」
「そうだ、それがあった!ありがとう、レアは優しいな」
「どういたしまして。コジー、レアちゃんでもいいよ」
「なんかその呼び方は馴れ馴れしいから嫌だな……先輩に頑張ってタメ語で話してる状態でもきついのに、そこまで行ったら俺のメンタルが完全に壊れそうだよ!」
初めてバイトをしたときに似たことを言われたことを思い出した。あのとき海外では先輩に敬称なんて使わないみたいな話を聞かされて、その流れでタメ語で俺と話せみたいな変なことを言われたんだ。
「はははっ、変なやつだね。別にちゃんでもタメ語でも私は気にしないよ。ほら、レアちゃん」
「レ、レア……ちゃん」
「ふふ、ふふふっ……そんなに苦しいならやっぱりちゃんって呼ばなくていいよ」
俺の苦虫をかみつぶしたような顔をして発したちゃん付けを見て、彼女は楽しそうに笑った。
「しかし、魔術や剣術はどうやって習えばいいんだ?レアから習うのか?」
「私は魔法や剣よりスキルを使うタイプだから、それは魔法中心に使う人や剣術中心に使う人から習ったがいいよ」
「そうか、この街にはそれが出来る人はいるのか?」
「んー、ああ、火属性魔法ならいるね。じゃあ、その人を捕らえるために早速服従を使いにいこう。勇敢な第一歩を踏み出して、コジーの名を世界に轟かせよう!はい掛け声!」
「え、ええ……?と、とりあえず出発進行だあ!」
「はは、すごいマヌケな掛け声だねぇ」
また笑われた。いや、これは話の展開が急すぎるからだろ!
そう思いながら彼女について屋敷から出る。すると、俺が来た時とは違い外は暗くなっており、ポツポツと色んな家に明かりがあった。
「この王国は知らないだろうけど、こういうしがない場所でも人々は頑張って生きてるんだよ」
俺がいた現代日本では想像できない光景だ。と思いながらゆっくりと街を散策する。
「おお、幽霊姫!姫が男を連れて外を歩くなんて珍しすぎますね」
「あはは、呪殺した後全然友達作らなかったからね、仕方ないよ。お仕事頑張ってねー!」
傷だらけの見た目をした大男が家の前で店を開く準備をしながら声をかける。
「あの男は誰なんですか?」
「八十年前、敵国の宰相だった人!色々あって捕虜になり、ここに捨てられたみたい」
「だからあんなに傷があるんですね?」
「そうだね……ってなんで敬語になってるの?」
「あ、ごめん。外ではついこうなるんだ」
彼女は色んな人に話しかけながら、俺たちは街の奥へと向かう。
「そういえば、レアさんはここにいる町人に優しいですね」
「引きこもってたら人がいないと思われて敷地内に家を建てられたからね。定期的に出てきて挨拶しないと忘れられちゃうよ」
「そうですか、それは災難ですね。治安維持もレアさんがやってるんですか?」
ずっと引きこもってて久しぶりに家から出たら、家の敷地に勝手に家ができてたとかひどすぎる話だ。
「うーん、その口調はちょっと……」
「あ、ごめん。ここの治安維持とかはいつもレアがやってるの?」
「うん。細かいことは町人に任せてるけど、重大な事件とかは私が直々に出向いてる。それで色々報酬とかもらったりもしてるよ」
「だからこんなに慕われてるんだな」
「うん。慕われるとかそんなわけではないけど、そうだね。あ、ほらもうすぐでつくよ」
レアはどこか恥ずかしいみたいで照れていた。
俺らはちょっとした暗い森についた。
ここの空気はもちろん先程までいたスラムよりはいいが、何故か油のような変な匂いがした。そんなことより俺は上手く新しい師匠に出会い、魔法がわかりますようにこっそりと神に願った。
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