代用Ⅷ
アンディはティターニアへと詰め寄った。
「ティターニア殿。クレア様の様子はおわかりになりますか?」
「それは……」
大妖精として妖精庭園の中はある程度把握できている。即ち、クレアに何があったかも把握できるということ。アンディはそのことをしっかりと覚えていた。
鬼気迫る様子にティターニアは僅かに躊躇った後、クレアの様子を口にした。
「私が最後に確認できたのは、クレアさんの背後からハシシが腹を貫く様子でした」
「――――それで、クレア様は!?」
「申し訳ありません。今、それを把握したいのですが、魔力を使い過ぎてしまったみたいで」
ユーキのガンドに魔力を注ぎ込み過ぎた結果、いくら大妖精と言えども一時的に力が制限されているようだ。具体的に言うと、遠くにいる妖精との交信ができない状態にある。
焦った表情でアンディはしばし考え込むと目を見開いた。
「では妖精を何人かお借りできませんか。元いた場所へと案内をお願いしたいのです。私が走っていきます」
「そ、それは構いませんが……」
「私も行きましょう。あなただけでは治療はできないでしょう?」
メリッサも同行することを告げるとアンディは頷いた。
「フェイ、君はマリー様の近くにいてやってください。クレア様は私たちが必ず――――」
アンディが表情を強張らせたままフェイに命令を下していると、遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おーい!」
「あれは……!?」
「そんな……あり得ない……」
振り返って、その声の持ち主を確認するとアンディもティターニアも絶句した。
そこには手を振って駆け寄ってくるクレアと騎士たちがいたからだ。
「確かに彼女は腹部を貫かれたはず。血も噴き出していましたし、間違いありません」
困惑するティターニアたちを前にクレアは苦笑いしながら並んだ。
「ごめん。あいつ逃がしちまったんだけど……この様子だとここでケリをつけたみたいだね」
「ク、クレア様。本当にお体は大丈夫なのですか?」
「あ、あぁ、もしかして、あたしがやられたこと知ってるのか? いや、それがさ。確かに腹をぶち抜かれたはずなのに、気付けば何の傷も残ってないのさ。それでみんなに起こされて、とりあえず妖精に呼びかけて、ここまで案内してもらったってわけ」
そこまで聞いてフェイはある共通点に気付く。
視線は寝転がっているクロウへと注がれた。ハシシが現れる前に腹部から出血。指が脱臼するほどの威力を更に数倍にして放った後、右腕から出血。どちらも本人が負うはずの怪我を何故かクロウが負っており、本人が無傷という状況だ。
「まさか、身代わりの魔法……?」
思い当たる節があるとするならば、クロウが作っていた土人形。もし、あれが囮として使うのが目的ではなく、自分が相手の身代わりになる魔法の簡易的な依り代だったのならば――――再生能力を持つクロウが全てを受けた挙句、妖精を惑わす策にも使える。
サクラが自分の姿を式神擬きに投影したのとは逆に、それぞれの人間の怪我を自分へと負う一種の身代わり。理解することはできても、実際にやるというのは別だ。少なくともフェイ自身ができるかとと問われたら間違いなくノーである。
「はっ。ひでぇ顔で見てくれるな。別に善意じゃない。俺の、個人的で、身勝手な信条だ」
ゆっくりとその身を引き起こし、おぼつかない足取りで立ち上がる。
腹部の出血は治まっているが、右腕は変な形に捻じれ、折れ曲がり、見ているだけでも痛々しい。
「再生能力とはいえ、他人の傷を受けるとそれが俺の体に固定されるまでは再生できない。逆に言えば、それが終わればすぐに直せる。これくらい、どうってことないさ」
「お前……」
本来、自分の受けるべきだった怪我を身に引き受ける姿に、ユーキは目の前にいるクロウが敵なのか味方なのかわからなくなってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます