代用Ⅲ
後何秒で肉塊が飛び出てくるかわからない以上、魔力を可能な限り込めるのは正しい判断だ。腕の痺れも取れ、人差し指の痛みも驚くほどに消えている。これが数時間もあれば確実に先程の威力を超える一撃が放つことができるだろう。
しかし、ユーキに残された時間は残り少ない。中指に集めた魔力も限界に近く、人差し指で集めたときの半分以下だ。使いきれない魔力が腕に溜まり、再び痛みが走り始める。
「ちっ、やはりこれが限界か……」
クロウの声にも諦めの色が混じり始める。
どんなに良い推定でも足一本を吹き飛ばせるかどうか。そのような考えが過ぎれば、ため息の一つもつきたくなるというものだ。
どんなに魔力を込めても大木を押すように反発しか感じないようになってしまった。何か他に良い案はないかと考えを巡らせようとしたとき、その大木が急に消えたような感覚に戸惑いを覚える。
「おい、何をした……!?」
「単純な話だ。中指で足りないなら他の指も使えばいいだろ」
ユーキの右手は人差し指と中指で作られた銃の形ではなく、すべての指が揃えて伸ばされていた。既にそれらすべての指から魔力が放出され、巨大な魔力の塊が渦を巻いている。その大きさは先ほどの倍とまではいかないが、確実に上回っていることだけは魔眼で確認できた。
「ば、馬鹿を言うな。人差し指で放つというガンドの概念から大きく外れれば、どんなに魔力を込めても意味がなくなる」
「あぁ、だから撃つ直前に手の形だけ元に戻す。それでダメなら、その時はその時だ」
絶句。
人を指差して呪うという形を取る以上、その形から逸脱すればするほど威力が出ないのは確かだ。儀式でも詠唱でも、準備する物が違ったり言葉が変化したりすれば、その分だけ影響が出る。
特にガンドのような単純な構造をした魔法ほど、その影響は大きくなる。故にクロウとしては、即座に止めるべきだという結論に至りかけた。
「――――いや、ガンドの威力を決める魔力は用意でき、最終的に人差し指で放つという形を取れば、
ユーキの意見を暴論だと投げ捨てかけて、それが案外筋が通ってしまっていたことに戸惑うクロウ。数秒間、ぶつぶつと独り言を呟いて自問自答しながら確認するが、それを否定できる材料が見つからない。
あえて挙げるとするならば、とある学者の提唱している威力継続比例説くらいだ。ガンドの威力は一瞬で叩き込んだ魔力量ではなく、差し続けていた時間に比例するという考えだが、ユーキを見ているとその説は気にする必要がないのは実証済みだ。
「ぶっつけ本番。一撃で決めろ」
「言われなくてもやるさ。ただ……」
急に不安げな顔でソフィの方へとユーキは顔を向けた。不思議そうな顔をするソフィに苦笑いする。
「多分、俺の指がヤバいことになると思うから、治療をお願いしてもいいかな?」
「……任せてください。千切れ飛ぶくらいなら何とかくっつけて見せます。流石に木っ端みじんに吹き飛んだら、直せるかわかりませんが」
腰に両手を当てて、ソフィが胸を張るとユーキの表情も若干和らぐ。
いつでも発射していいように左手を添えて、いつでも放てるように照準の準備に入った。
「――――変なところで小心者だな」
「うるせえ。何でも最初にやることや、怪我するってわかってるときに緊張しない奴がいてたまるか」
「はっ、それくらい話せるのなら、余裕はありそうだ。もう少し、魔力を増やしておいてやる」
「てめぇ、後で覚えてやがれ!」
ユーキが前を見ながらクロウを罵る。
その姿を見ながら、マリーはフェイに話し掛けた。
「あいつら、何か仲良さそうだよな」
「え゛っ!? どこがだい?」
「だって、ほら……あたしと姉さんの喧嘩にちょっと似てるだろ?」
「う、うーん。そ、そうかな……」
フェイは、それは君たちだけなんじゃないかな、と思ったが口に出すのだけはやめておいた。無事ここを切り抜けられたとしても、何故か酷い目に遭いそうな予感がしたからだ。
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