再戦Ⅰ

 時間は少し巻き戻る。

 クレアたちはマリーたちを見送った後、ハシシの見張りをしながら雑談をしていた。


「マリー様。本当に大丈夫ですか? こいつが起きたら、流石の俺たちも逃げる時間を稼ぐくらいしかできませんぜ」

「まぁ、そうかもしれないね。でも、ここまで厳重に拘束してるんだ。流石の筋肉自慢と言えども、これをぶち破るには相当力がいるんじゃないか?」


 マリーはクロウが撃ち込んだ術式を思い出しながら、分析していた。

 クロウが使用したのは風の上級呪文。捕縛・拘束系の中でも難易度の高い部類に入る。それは、水や土と違い、肉体の行動を制限するだけでなく、魔力の使用自体も封じ込めることができるからだ。


「雷による身体の麻痺。それと同時に架空神経に魔力を逆流させて、一時的に使用不能にする、か。文献で読んだことはあっても、実際に見るのは初めてだ」


 クレアがそう呟くのも無理はない。効果が高い分、その使用条件には制限がある。

 屋内などの密閉空間では使えないこと。金属などを身に纏っていると効果が薄くなること。そして、当てるのが非常に難しいことだ。

 雷という特性上、その攻撃は上空から飛来するか、近距離で手から直接放つことになる。その為、天井のある場所や妖精庭園の様に木々が遮る場所では使うのは基本的に厳しいだろう。加えて、雷の発動から敵に到達するまでの時間は一瞬だ。水や土に比べ、軌道修正する時間はほとんどない。その軌道も敵の真上から降り注ぐため、落ちた後になって初めてどこに着弾したか術者自身もわかるくらいだ。

 故にこの魔法は直接触れていたり、他の魔法で足止めしている時にしか使えない、という制限が自動的に発生するので、好んで使う者が少ないのだ。


「近接格闘で戦うスタイルのクロウからしてみれば、拳と同時にこれを叩き込むこともできるってことか。詠唱なしで使われたら、装備次第では確実に一撃でやられる可能性もあるな」

「今の我々の装備では、正直厳しいでしょうな。今は金属鎧も身に着けておりませんから」

「身体強化で魔法に耐性を多少上げられるとは言え、この化け物を一撃で無力化したんだ。鎧があっても無駄だとは思うぜ、俺は」


 騎士たちが剣の不備がないかを確認しながら、マリーの話に耳を傾ける。

 人種も戦闘スタイルも何もかもが違うが、「もし、戦うのならば」を想定してしまうのは常在戦場の意識があるからだろう。

 足止めには何人必要で、どの程度止めることができるか。相手が苦手なのは左右どちらか。僅かな情報で互いに議論をして、打倒する術を考え出す。

 幸運にも、相手の戦闘する姿を見て生還できている。対策を立てないわけがない。そして、それはクロウだけでなくハシシも同様だった。


「首を落とした場合、再生するのは頭か胴体か」

「俺は頭だと思うがな。魔物でも心臓を貫かれて生きている奴は見たことがあるが、頭を失って生きてた奴は見たことがない」


 どこか自分たちの不安を紛らわせようと騎士たちは饒舌になる。

 その賑やかさが気になったのか、空間が円形に歪んだ何かが近くを飛び回っていた。


「おい、あまり騒がない方がいいみたいだ。他の妖精たちが集まって来たらしい。ここで何か悪戯されて、こいつを逃がしたら目も当てられない」


 騎士たちもクロウが作った土人形が空に吹き飛ばされている様子を見ている為、すぐに静かになる。若い騎士に至っては自分の呼吸すらも危ないのではと口に手を当てて周りを見回した。


「――――――――」

「何を言っているかわからないわね。こんな時だけ、聞こえないとかやめてほしいんだけど」


 クレアが愚痴をこぼすと同時に地面から呻き声が響く。

 それがハシシのものだと気付いた瞬間、クレアの顔から血の気が消え失せた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る