失踪Ⅴ
フェイはすまなそうな顔をして、クロウを見る。
「君を救うためとはいえ、あいつと手を組んだのが今でも良かったかどうかはわからない。アイツの狙いが、どさくさに紛れてウンディーネを奪ったり、殺すことだったりしたら……」
「いや、それは無いな」
ユーキはフェイの言葉を一蹴する。
二人の間にすっと風が吹き通って髪を揺らした。フェイは一瞬考えた後、どうにも納得がいかないという様子だ。
「考えてみろよ。あいつがウンディーネを奪うことができるんだったら、とっくにそれができる場面があっただろ?」
「……路地裏の時か!」
「そうだよ。前に俺が一人でアイツと勝負した時、ウンディーネの攻撃をあいつは受けてる。でも、ウンディーネには興味を示さなかった。やったことと言えば一時的な口封じの契約……? とりあえず、そんな魔法をかけたことくらいだろ?」
ユーキの考えに納得がいったようで、フェイの目線はティターニアへと向く。
「そうなると怪しいのは、あの大妖精になるけど……」
「……フェイたちが来たタイミングにもよると思うけど、俺を攫った後はずっと近くにいたんじゃないかな? さっきも俺の後をずっとついて来てたみたいな感じだったし」
そうでもしなければ、ユーキが逃げ出した時に着いて来れるはずがない。
しかし、これを今度はフェイが否定する。
「いや、僕たちが入ってきたことを彼女は把握していた。つまり、この妖精庭園の中で起こったことの大半を知覚できている可能性が高い」
「おいおい。それじゃあ、下手すると俺たちの会話も筒抜けってことにならないか?」
「大丈夫。その心配はない。理由は言えないけどね」
自信たっぷりにフェイはそれを言い切った。
ユーキは不安になってティターニアの方に目線を向けるが、自分たちとではなくアンディたちと会話をしているようで、特にこちらの疑いの眼差しを咎める様な様子は見られなかった。
「いずれにせよ。僕たちは一刻も早くここを出たいわけだけれども、ウンディーネがここに残っていることも考えると迂闊に動くこともできない。彼女に話を聞かれて機嫌を悪くされても面倒だから、あまり他の人とは話をしない方がいいかもな」
「いや、それは無理があるんじゃないか?」
相談しなければ、作戦も立てようがないだろうとユーキは不満を示す。
しかし、どこかフェイは自信をもって言い切った。
「大丈夫。そこのところは任せてほしい。どうしても、この話をしたい時には僕を呼んでくれ。例え、クレアやマリーたちであっても、我慢してほしい」
「――――彼女に話を聞かれない方法があるってことだな?」
含みのある言葉に何かを感じ取ったユーキはフェイに問いかけた。
どうやら、当たりだったようで静かに頷く。頼もしいと思う反面、大妖精という存在は珍しいはずなのに、何故対抗策など用意できるのかと不思議に思うユーキであったが、フェイはすぐに立ち上がると会話を打ち切ってしまった。
「さぁ、とりあえず、他のみんなの様子も見ておこう。もしかすると、魔力を使い過ぎて気分が悪くなっているかもしれないからね」
「そうだな。大分、みんな無茶して魔法使ってたみたいだしな。特にマリーとサクラは心配だ」
戦闘の最中、二人の放った魔法には普段とは比べ物にならないほどの魔力が宿っていた。一撃に込める魔力を自身の限界までやったのだろう。その分の反動はそれなりにあって当然だ。
「魔力とかを限界まで使うと本当に酷い目に――――」
そこまで言いかけて、ユーキの動きが止まった。フェイが何も聞こえなくなったユーキの声に気付いて振り返る。
「どうしたんだ?」
「――――いや、何でもない。魔力を使い過ぎると大変なんだよなって思っただけだ」
「……本当にそれだけか?」
「あ、あぁ、気持ち悪くなったり、頭痛がしたりで大変だから、もっと早く心配してあげた方が良かったなって」
「そうだね。早く二人の所へ急ごうか」
「あぁ」
困ったような笑みを浮かべながら駆けていくユーキ。その横顔をクロウがじっと仮面の奥から見つめていた。
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