失踪Ⅵ

「どうかされましたか?」

「いや、構わない。続けてくれ」


 ティターニアに話し掛けられ、クロウはユーキから視線を外す。

 一瞬、アンディは目を細めてクロウの様子を窺ったが、追及できるほどの理由があったわけでもないので、すぐに会話の続きを再開した。


「では、外にいる我々の仲間には連絡していただけると?」

「はい。既に返事もいただいております。『了解いたしました。宿の残りの部隊にも連絡を送り、このまま待機します』とのことでした」

「ありがとうございます。部下にも、だいぶ心配をかけてしまったので安心しました」


 わざとらしく感じるほど、アンディは胸を撫で下ろす素振りを見せた。

 別に他意はないのだが、あえて言うならばティターニアに対するアピールだ。自分たちは侵入者側であり、いくら恩人とはいえ、それは結果論。差し出せるものもない以上、機嫌だけは損ねたくなかった。

 何とか上手く話が進んだおかげで、明朝にはユーキたちを連れて帰ることができることも決まった。被害も負傷者二名で抑えられたのは僥倖だろう。


「しかし、ユーキ君を返しても本当に大丈夫なんですか?」

「えぇ、そのための明朝出立です。それまでに、彼と少し話をしないといけません」


 ティターニアがユーキを返す条件として提示したのは一つ。ユーキと対話することのみだった。

 それ故に最初アンディは訝しんだものの、頷くことを決めたのだ。近くで話を聞いていたクレアも、小さく頷いて許可を出した。


「(少なくとも、彼女はあたしたちに危害を加える様子はない。それならば会話程度で済むに越したことはないし、万が一何らかの洗脳状態にされても、心構えさえしておけば対抗策はある。それよりも、問題は――――)」


 クレアの視線がクロウへと向く。


「(こいつの目的が未だにわかっていないこと。和の国を裏切ってでも行動する何かがあるのか。それとも、和の国の追手から逃げるために何かを探しているのか。目的次第で危険度が変わってくるから、厄介極まりない)」


 万が一、追手から逃げることが目的なら口封じに殺されかねない。そんな危険をクレアは犯したくなかったが、その可能性はほとんどないと確信していた。

 もしそうならば、王都内でフランの父親を攫うなどといった行動に出るはずがない。息を潜め、誰にも気づかれないようにひっそりと活動するはずだ。

 故にクロウの目的は本当に何かを探していて、妖精庭園を訪れた可能性が高い。加えて、クレアたちを置いてティターニアを救いに駆け付けたことを考えれば、妖精庭園を維持しているティターニアに死なれては都合が悪いとも捉えることができる。

 不安を顔に出さないで考え込んでいると、クロウが口を開いた。


「確認をしておきたいんだが、このハシシが来た目的に心当たりはあるか? こいつを何とかしても、また別の刺客が送られてくる可能性が高い」

「……そうですね。恐らく彼の狙いは、この妖精庭園で保護している少女を狙ってきたようです」

「あいつ以外にも、まださらわ――――保護されている人間が?」


 失言しそうになりながらもクレアはティターニアの言葉に反応する。

 他にも子供が攫われているのならば、ホットスプリングスの村で他にも子供が失踪している可能性が高くなる。王国内で不審な失踪事件が起こっているとなると、そこを外交で突かれることも後々考えられる。可能ならば、子供を攫うのをやめさせて、親の下に返すのが一番の解決策なのは明らかだ。問題なのは、目の前の主犯がどうやら親切心で行っている節があること。

 話の切り出し方によっては最悪の展開すら考えなくてはいけなくなってしまう。クレアは助けを求めるようにアンディに目配せするが、彼自身も小さく首を横に振るばかりだった。

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