失踪Ⅳ

 ティターニアが案内した場所に着くと、そこはユーキが目覚めた場所だった。


「なんだ。俺がいた所、っていうか……もしかして、あそこに辿り着くまで回り道してたのか?」

「はい。あっちにいったり、こっちにいったり。後ろから見ていて飽きませんでした」

「しかも、最初から見られてるし……!」


 膝をついて、割とガチで落ち込む。もし、これがスパイ映画だったならば、気付かない内に後ろからズドンッと撃たれて死んでいたところだ。

 窪地になっているところまではいかず、各々が大きな木の根の上に腰を下ろし、一息つく。


「何とか辿り着いたな」


 アンディもいつ目覚めるとも知れない化け物を見張っていたので、短時間とはいえ精神的に辛いものがあっただろう。大きく息を吐いて、額の汗を拭っていた。


「……ユーキ」

「おう、どうした?」

「どうした、じゃない。君、体に異変はないか?」


 かなり焦った様子でフェイがユーキに問いかける。

 その様子にユーキ自身も不安になり、両手で腕や足を触って確認するが、別段変わった様子はないし、感じなかった。それを伝えるとフェイは目を細める。


「身体強化や魔眼を使った時は?」

「いつもと変わらなかった、かな」


 念押ししてくるフェイに頷くと、ようやくフェイは掴んでいたユーキの肩を離した。


「そうか。じゃあ、大丈夫だな」

「何かあったのか?」

「いや、大したことはないんだ。万が一、君の調子が悪かった場合、僕たちも同じようになる可能性があったからね。一応、聞いてみただけさ」


 まるで毒見係のような扱いに、ユーキは不貞腐れて手を顎に当てる。


「ひでぇ扱いだな。俺なんて、いつの間にか攫われて、知らぬ間に化け物と戦わされる羽目になったって言うのに」

「まぁまぁ、こうして助けに来たんだ。感謝されこそすれ、文句言われる筋合いはないだろ」

「――――ありがとな。さっきサクラと話をしたんだけど、外じゃかなり大騒ぎだったみたいだし」


 実際、自分一人だったら、ここを抜け出せるかどうかに自信がなかった。例え上手く抜け出せたとしても、その道程は酷く苦しいものになっていただろう。


「さて、ここで一つ問題が発生したんだ。君にしかわからないことなんだけど」

「何だ? ティターニアがヤバいとかじゃないよな?」

「あぁ、そうじゃない。ウンディーネが反応しないんだ。最初は大妖精を警戒しているのかとも思ったが、様子がおかしい。君の魔眼ならば、精霊石を見て判断できるだろうと思って話したんだけど……」

「わかった。誰が持ってるんだ?」


 フェイに案内されてマリーの所へ行く。

 精霊石の話をフェイがすると、マリーはポケットからそれを差し出した。既に魔眼を開いていたユーキは、それを見て息を飲む。

 その精霊石からは確かに青い光が立ち上り、水の魔力を纏っていることが伺えた。だが、その光量は僅かに過ぎず、魔力を蓄えたウンディーネがいるとは到底考えられなかった。


「……どうした?」

「いや、何でもない。ちょっと、それはマリーがもう少し持っててもらってもいいかな?」

「お、おう。良いけど……」


 すぐにその場を離れたユーキは、動揺を隠そうと平静を装い。上手く表情を取り繕うことができたと思っていた。

 しかし、ウンディーネの話を振ったフェイはそうではない。当然ながら、魔眼の結果について尋ねて来た。


「中に……ウンディーネがいるようには見えなかった」

「そうか。だとしたら、どこに?」


 ユーキが連れ去られた後、精霊石だけが馬車の中に残されていた。

 その後も、何度か精霊石を通してウンディーネと会話することもあったのだ。少なくとも、フェイは記憶の限り、妖精庭園に侵入する前日、宿にいた頃にはまだいたことを覚えているという。

 それまでに起きた出来事で怪しい点を抜粋すると、クロウに出会ったことと妖精庭園に侵入したことが考えられた。

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