共闘Ⅲ

「ユーキ君!」

「アンディさん!? それにみんなも!?」


 後ろから駆けてきていたのは、アンディ率いる騎士団とクレアやマリーたちだった。

 長い距離を歩いていたようで、額には汗の玉が浮かんでいる。


「とりあえず、状況を説明してください。この惨状は一体!?」

「わかりません。とりあえず、俺を連れてきた女性と月の八咫烏。それと何をしても何度も立ち上がってくる人の形をした何かが戦ってるんです。あいつ、以前に聖女を襲撃した男で――――」


 蜂に集られたまま進んでくる男の姿に、女性陣が顔を引き攣らせた。


「うわっ、まじかよ。あたしだったら発狂モノだぜ」

「発狂する前に、痛みと毒でのたうちまわりそう……」


 アイリスですらも後退りして、距離を取ろうとする。


「あまり話している時間はありません。ここを離脱しましょう。ここでは我々は武器を使うことができないのです」

「どういうことですか!?」

「ユーキさん。ここは妖精が作った異世界なの。ここで武器を抜くと作った妖精のリーダーが怒って攻撃してくるんだって」


 サクラの説明に、ユーキはティターニアを見る。植物も蜂も効かないのでは、手の打ちようがないとでも言いた気に呆然と立ち尽くしている。

 魔眼で見るとその姿ははっきりと見えるのに、魔眼でないとゆらゆらと空間が歪んでいるだけだ。

 再び、魔眼に戻すとティターニアと目が合った。


「お願いです。どうにかして、その男を止めてください」

「うおっ!? なんだアノ人、急に現れた、ぞ……」


 いきなり届いた声に驚くマリーだったが、その女性がかつて自分が幽霊と勘違いした相手だとわかったらしく、言葉を失う。


「ここで武器を使えば大妖精の怒りに触れると聞いています。申し訳ありませんが――――」

「ならば、大妖精である私が許可をします。その男を排除するために武器を取ってくれませんか?」


 アンディの言葉にティターニアは即座に返事をした。

 呆気にとられるアンディだったが、言質は得たとばかりに他の騎士やクレアたちに力強く頷いた。全員が一斉に剣と杖を引き抜く。


「ローレンス伯騎士団として、聖女に仇為した不届き者を野放しにはできません。みなさん、可能ならば森には傷をつけないようにお願いします」


 ここで背を向けてユーキを連れて行くことも可能だっただろう。

 しかし、聖女アルトを襲撃した主犯が目の前にいるとなれば話は別だ。魔王に対抗するために勇者を見つける。その重大な使命をもつ聖女を失えば世界が滅びかねない。

 今後の憂いの芽は断ち切っておく必要がある。その判断はユーキ以外の全員が共通の認識として理解していた。


「問題はあちらがどう動くか、ですね」


 その視線の先には月の八咫烏。

 アンディは報告だけしか聞いていないが、自分の主である伯爵ともやりあって無傷で生還した強敵である。数的有利はあるが、伯爵クラスの相手だと考えると勝ち目があるかを考えることすら烏滸がましい。

 その視線に気付いたのか、月の八咫烏は仮面の奥から絞り出すような声を出す。


「ふん。呑気な、奴らだ。お前らを殺すタイミングなんて、いつでもあったというのに……」

「では、我々と共闘するとでも?」

「フェイ?」


 急に前に出てきたフェイにアンディは首を傾げる。


「スイマセン。実はここに来る前に僕は彼と接触していました。僕はユーキを取り戻したい。同じく彼も妖精庭園から取り戻そうとしているものがある。――――僕たちを案内していたチャドは彼の変装です」

「先に言っておくが、共闘を申し出たのはこちらからだ。ま、彼に断る方法があったとは思えないがな」

「なるほど、都合よく話が進んだと思っていましたが、そういうことですか」


 エルフは人間と関わることを嫌う者が多い。そんな中にも、旅を重ねる中で人間にも心を開いてくれるタイプもいるが、限りなく少ないと言えるだろう。ましてや妖精庭園の侵入を手伝うなど、種族が異なるとはいえ、同じ森を居とする者に行うとは到底考えられまい。

 そういう意味ではアンディはチャドという存在を疑っていたらしい。


「その様子を見ると随分優秀な隊長のようだ。しかし、目の前にいるそいつは手こずるぞ。確実に殺したかったら、それこそ近衛騎士団長クラスを連れてきてくれ」

「ははは、なかなか無茶を仰る」


 何か通じ合うものがあったのか、互いに短く笑う。

 その間にも男は歩を進め。すぐ目の前にまで迫っていた。


「そいつの馬鹿力は面倒な上、早さもそこそこある。攻撃は死ぬ気で避けろ」

「だ、そうです。みなさん気を引き締めていきますよ。クレア様たちは援護をお願いします。大妖精殿。私の合図で蜂をどけていただきたい!」

「わ、わかりました」


 アンディの目が細くなる。

 剣を握る手に自然と力が入ってしまうのを防ぐように軽く手を開いた。深呼吸を大きく一度すると、ハンドサインで後ろの騎士たちに合図を送り、一気に駆け出す。そのまま進み、剣が届く後一歩の所で、腹から声を轟かせた。


「今ですっ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る