共闘Ⅱ
流石のティターニアも、不敵な笑みを浮かべる男を最優先に排除するべきと判断したのだろう。再び、無数の緑の刃が降り注ぐ。それも、ここら一帯の木の葉を全て落としたのかと疑う程の量だ。
真下以外の全ての方向から迫りくるそれは明らかに避けきれない。そんな光景を前に男は笑顔のまま前へと足を踏み出した。
――――ザッ!!
傍目から見れば大量の羽虫に襲われたかのように姿が見えなくなる。緑色に染まった空間には人の影を見つけることはできず、魔眼にすらその姿を捉えるのは不可能だった。
「これで……後は外に追い出せばっ!」
何をしでかすかわからない男でも妖精庭園から生きて放り出そうとする。その認識からしてティターニアは間違っていた。
「ふひひっ!」
まるで霧の中を抜けるかのように、緑の刃をかき分けて唐突に男が姿を現した。
それもただ現れたのではない。体中から噴き出していた血が止まり、傷が塞がっている。
「……回復魔法? いや、まさか――――」
幾つかの刃が男の肌を切り裂く。血が流れたと思ったのも束の間、傷口が瞬く間に閉じて最初から何もなかったかのように傷跡すらない肌に変わっていた。
「再生能力!? なぜ人間がそんな力を!?」
ティターニアが驚くのも無理はない。一般的な知識では、その能力が持つのは強大な魔力を持つ極一部の生き物。吸血鬼や人狼くらいだろう。
故に、そのどちらでもない男に起こっている現象を認めることができない。
「くっ、こうなったら……!」
意を決した顔で両手を前に翳すとどこからともなく、低い振動音が聞こえてきた。
ユーキはその音を聞いて、本能が危険信号を発する。思わず腰を低くして頭を下げると、その上を蜂の大軍が通過していった。
「こんな大量の蜂なんかに刺されたらヤバいなんてもんじゃないぞ!?」
「再生しても毒が体内に残れば、活動にも支障が出るでしょう。これならば、動きを封じられるはず!」
ティターニアが使役していたのは妖精庭園内のみに生息する蜂で、その特殊な生息域からフェアリービーと名付けられている。未だに生態は解明されていないが、偶然、その種を捕獲した研究者の調査で一つ分かっていることがある。それは強力な『麻痺毒』を持つということだ。
彼らは普段、妖精庭園内の花の蜜を吸い、受粉の手助けをしている。その一方で妖精庭園に侵入者が出たとき、大妖精の命を受けて獲物を麻痺させる警備部隊の役割もあるのだ。
一匹一匹が大人の親指サイズを超え、その分、毒針も太く長い。一匹に刺されるだけで毒など関係なしに悲鳴を上げること間違いなしである。
四方八方から押し寄せるそれが、男の全身へと取り付いていく。
ティターニアが魔力を蜂に送っているのか。その体は緑色に光り、毒針からは紫電と見紛うばかりの光が放たれている。
あの鋭い針に刺されることを想像して、思わずユーキは頭を振った。
流石に男もこれには堪らず体を捩り、張り付いてくる蜂たちを追い払おうと腕を振り回す。
「うおおおおおおっ!」
声が空気を震わせるが、蜂たちは怯むことなく殺到し、毒針を容赦なく突き刺していった。
振り払うよりも早く蜂が張り付き、最後には全身を蜂が覆いつくしていく。何層にも渡って重なり合った蜂のせいで、人とは思えない蠢く塊が生まれた。
その光景に呆気に取られていると、いつの間にか月の八咫烏が立ち上がっていた。
「無駄だ……そいつには、毒が効かないっ!」
その言葉によく見ると、人とは思えぬ状態のまま、ゆっくりと確実にユーキの方へと足を踏み出していた。
「くっ……」
強力な打撃もガンドも効かねば、毒すらも効かない。こんなバケモノ相手にどうすればいいのかと絶望に吞まれかけたとき、ユーキの背後から声が届いた。
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