四つ巴Ⅷ
「弁慶の泣き所だ。どんなに鍛えても、痛いだろ」
痛みで集中できなかったが、それでも悶絶させるだけの威力は出すことができた。脛を抱える男に更にガンドを連射する。
一、二、三発。そのほとんどが男の腹か胸へと突き刺さった。最初の一撃であばらが折れて、肺に刺さっていたのもあり、口から追加で血が蛇口をひねったかのように噴き出す。
地面が鮮血に染まる中、男はそれでも笑っていた。
「こいつ、まだ笑って……!?」
「いやぁ、楽しいねぇ。痛みは生を実感させてくれる。俺を俺と認識させてくれる」
ユーキ以上にダメージを負っているはずなのに、どこにも異常がない動きで立ち上がる。抱えていた右足にもしっかり体重がかかり、まるで痛みを感じていないようだった。
思わず後ずさるユーキに男は手を伸ばした。
「お前にも、それを体験させてやろう」
ユーキの脳裏にトマトのように頭を潰される光景が過ぎる。呼吸が止まり、ガンドを放とうとするがそこで致命的なことに気付く。
「(――――
ティターニアを助けるのに一発。接近から逃げる時に一発。脛に当てて一発。そして、追撃に三発。痛みと恐怖に急かされて、肝心の残弾管理を怠ってしまった。
大きな手を避けることもできず、ユーキの頭を再び痛みが襲う。
「い゛っ……!!」
「どうだ。痛いか、苦しいか、それが生きてるってことだ」
その言葉と共に頬に軽く痛みが走り、じわじわと熱くなっていく。
指の隙間から男が血の付いたナイフを見せつけてきていた。ゆっくりと料理してやるとでも言いたげな表情に何とかして抜け出そうともがく。
「おいおい、暴れるなよ。手元が狂っちまう、だろ!」
必死で頭を掴む手を外そうと両手で指を掴むが、ビクともしない。そうしてる内に掴んでいる手にナイフが突き立てられた。
「がぁっ!?」
「いい声だ。人間相手にも呪いは効く。だんだんと死が近付く足音を全身で感じられるんだ。ツイてるなぁ」
「こ、の……!」
横目でティターニアの方を窺うと、既に呪いの効果が出ているのか苦しそうに蹲っている。彼女の助けが期待できない以上、自分が何とかしなければ二人とも死んでしまうという状況が火事場の馬鹿力を発揮させた。
両手でこめかみに刺さる男の節くれだった小指を掴み、思いきり真下へと力をかける。本来、曲がるはずのない方向へと関節から九十度に折れた。
流石の男も小指が脱臼した痛みには怯んで、ユーキを解放してしまう。
「てめぇっ!」
「うるさい黙ってろ!」
小指を自分で元の位置に戻しながら吠える男にユーキは土を掴んで顔面に投げつけた。たかが土とはいえ、眼に入るのを人は恐れる。両腕で庇いながら目を細めている内に、ユーキの右手に魔力が宿った。
「吹き飛べっ!」
命の危機を感じていたせいか、後先考えず再装填したガンドを六発全て撃ち放つ。顔を庇っていたので、一発目をやや下に向けて放つと偶然にも股間に直撃した。
思わず両手で抑えた所に反動で跳ね上がった勢いを利用して、丹田、鳩尾、喉、口、鼻と残りの五発が突き刺さっていく。
最後の一発で盛大に鼻血の噴水を見せたまま、男は倒れていく。ほっと息をつくが、足元から強い衝撃を受けて目の前を見る。
「まじ、か」
最早、目の前の状況を言い表すことがユーキにはできなかった。
あれだけの猛攻を食らったのにもかかわらず、男は最後に踏ん張り、倒れることなく体勢を立て直したのだ。
「舐めんじゃねぇぞ。こんちくしょー!!」
怒りの咆哮が空気を震わせ、ただでさえ呪いに蝕まれたユーキの意識を奪っていく。視界が回り、吐き気がこみ上げてきていた。
それでもユーキもまた、男と同じように足を踏ん張って対峙し続けていた。その様子に血まみれの顔を歪ませて、男は八重歯を覗かせる。
「残念だったな。俺の、勝ちだ」
動けないユーキへと逆手に握ったナイフが振り下ろされた。
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