妖精庭園Ⅵ
自分たちでユーキの故郷へと導く。
だが、世界は広く。場所によっては未開の地も残る。幸運なのは、ユーキがサクラと同じ和の国の人間であるということだろう。
島国である和の国はその全域にわたって村や街が存在し、人が踏み入れられない場所は一部を除いてほぼ皆無と言っていい。つまり、和の国に行くことができれば、ユーキの故郷も自然と見つかることになる。
ユーキが異世界から来たことを知らない二人にとっては当然の考えではあった。
少なくとも年末になれば、サクラと和の国へと帰るということも可能だろう。そう思いつきながらも、サクラ自身は心のどこかで引っ掛かりを感じていた。
「(でも、それなら、ユーキさんは何で和の国へと戻る気配がなかったんだろう)」
王都まで来て冒険者になる。路銀がない。様々な要因があるにしろ。ユーキは王都から出て行くという素振りは最初からないように見えた。記憶が亡くなっているとはいえ、サクラという存在があれば和の国への行き方の一つくらいは聞いてきてもおかしくなかったはずだ。
「(ユーキさんには、まだ何か私たちに言えないことが―――――)」
「おい、サクラ! フラン! 早くしないと置いてくぞ!」
そこまで考えて、思考はマリーの声に遮られることとなる。気付くと既に全員支度を終えて、チャドへとついて行こうとしていた。
いつまでも座って話をしている二人に、クレアも首を傾げていた。
「ご、ごめんなさい。すぐに行くね」
「あわわ、置いてかないでくださいっ」
はみ出た木の根に躓かないように二人は慌てて駆け寄る。
「何の話をしてたんだ?」
「ん-と。ユーキさんを助ける方法かな?」
「まぁ、そうだよな。じゃなきゃ、あんな顔しないもんな」
「そこまで、私の顔って深刻そうだった?」
「まぁな」
二人が来たことを確認して、全体がやっと前進を始める。
そんな中でぼそりとクレアがマリーの横に来て呟いた。
「いいねー。青春って感じで。彼女、前からもしかしてとは思ってたけど、ユーキのコレ?」
「本人達は否定するけどな。どこかで何かがしっくり来ているのは確かなんじゃないかな?」
「あはは、何? その言い方。一丁前に恋愛語ってるみたいだけど、あんた彼氏いないでしょ」
「うるさいなぁ。あたしのことより、自分の心配をしろよ―――――はっ!?」
思わず言い返してしまった後に、マリーは自分の失言に気付く。後悔先に立たず。錆びついた金属が擦れるような音が聞こえてきそうな首の動きで横を見るのと、クレアの手が肩にそっと置かれるのは同時だった。
「あたしが――――何の心配をする必要があるって?」
笑顔ではあるが、それをそのままの意味で取れる人間がいたら大物だろう。ユーキの魔眼がなくとも、マリーにはクレアから尋常じゃない魔力が体を駆け巡っているのが感じられた。
「クレア。周囲に注意。ふざけてると、危ない」
「はいはい。冗談はここまでにしてきましょうってね」
「……ぜってぇ、冗談じゃなかったよな」
何か文句でもあるか、という視線でマリーはそれ以上口を開くのをやめた。妖精庭園に殺されるか、実の姉に殺されるか。どちらも選べない以上、その選択はベストであったことは間違いない。
「(あたしに彼氏、ねぇ)」
良くも悪くも――――自分が色々とやらかしていることは置いておいて――――有名な両親の娘だ。ハッキリ言って、縁談の話が持ち上がって相手を確認したら、大抵は頬が痙攣するだろう。あの伯爵・魔女の娘か、と。
そんな下らないことを考えながら歩くマリーの耳元に微かに子供のような声が聞こえてきた。
「おい、アイリス。何か言ったか?」
「え? 何も、言ってない、よ?」
不思議そうにマリーを見つめた後、目を細めてアイリスは問いかけた。
「もしかして、妖精の声でも、聞こえた?」
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