消えぬ怒りⅠ
修復作業が始まって三日目。
緊急で手配された冒険者たちの手もあり、城壁の修復は一気に進み始めていた。人数が増えた程度で城壁が修復できるのか、という問題だが、便利なことに魔法という存在がある。身体強化だけでなく多種多様な魔法で物を運び、積んでいく作業を行うことができる。
特に重宝されたのはゴーレム使いで、巨大なゴーレムを形成した後はあっという間に積まれていた資材が消えていった。
「あたしたちの仕事もほとんど終わり。あとはあそこの周辺の比較的無事な家をチェックして終了だ」
「意外と早く終わりますね」
「うん、これなら早く王都に帰れるかも」
「それはそれで寂しいかも……」
作業も終わりを迎えることが分かって、精神的にも楽になったのか全員の表情にも余裕を見て取れる。
そんな中でユーキも今日の作業は苦労せずに終えられそうだと気楽に構えていたのだが、目的の家屋の前に来た瞬間、サクラと思わず顔を見合わせた。
先日、通りがかった時に睨んできていた人の店だった。
「確か。野菜とか果物を扱ってる店に見えたけど……。前に見た時よりは片付いてるな」
「何だ餓鬼ども。閉店中だ。見せもんじゃねえんだから、さっさと散りやがれ」
白髪混じりの壮年の男性が物音に気付いたのか、奥から出てきた。目の下には隈が浮かび、顎髭も伸びている。片付けやら何やらで自分の身だしなみにまで気が回っていないように見受けられた。どうやらの店の店主らしい。
ユーキを始め、サクラやフランたちが若干引いていく中、クレアが進み出た。不機嫌そうな顔をする店主に、明るい顔で声をかける。
「クレアだけど、疲れてるとこ悪いね。とりあえず家の被害を何とか把握したいのと、城壁の石があるなら回収したいんだ。いいかな?」
「何だ。伯爵の所の嬢ちゃんか。あぁ、入っていいぜ。できれば、もう少し早く来てほしかったんだけどな」
「ごめんごめん。こっちも色々とあって崩れそうな家とかから回らなきゃいけなかったんだ」
クレアの様子に店主の声が柔らかくなった。
険悪な雰囲気だったのが、本当に八百屋の店先で話しているような感覚になる。
「クレアもマリーもこういう場の雰囲気を変える力があるけど、こうやって見ると凄いことだよな」
「うん。私だったら、怖くて帰っちゃうかも」
二人が怯えるのにも理由がある。
よく見ると店主の右目から口元まで一本の長い線が入っているからだ。普通の生活をしていて、そのような傷がつくはずがない。
大抵の場合、こういう顔の人間は元冒険者で引退している人間が多い、とユーキもギルドでも話を聞いていた。その原因は二つに分けられ、一つは魔物との戦闘での負傷。もう一つは、対人戦闘での負傷だ。
前者はそれほど問題はないが、後者になると話は変わってくる。正当防衛で戦ったのならば問題はないのだが、いわゆる痴情のもつれなどの人間関係や金銭関係で問題になり、私闘を行う輩が一定数いる。
端的に言うならば、柄の悪い人間が多いということだ。
「――――とっととやってもらいたいが、そこの黒髪の二人は遠慮してもらうぞ」
「「えっ?」」
クレアと話していた店主の矛先が自分たちに向いたので、間抜けな声が出てしまう。
「どうして、ここにいるのかは知らんが、あっちの国と関わり合いのある連中がいるのは気に食わん。こいつらがいなけりゃ、こんなことにはならなかったんだからな」
呆然とするユーキとサクラの後ろからフランが囁いた。
「もしかして、あのおじ様。ユーキさんたちを帝国の人間と勘違いしてません? 前に通った時もサクラさんが言ってましたよね。髪の色が同じで勘違いされるって」
言われて数日前にサクラが話していたことをユーキもやっと思い出した。
ただ、自分たちの出身国は和の国であることを考えると酷い言いがかりになる。理解はできるが納得はできない、といった所だろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます