掘り出し物Ⅷ

 メリッサの報告で、無事にガラス細工の持ち主を見つけることができたらしい。

 曰く、金貨一枚もらえるなら喜んで差し上げる、とのことだった。

 家の主は元冒険者の老人で夫婦そろって、ここに住んでいるらしく、今回の事件を受けて息子夫婦のいる街に引っ越しを考えていたようだ。少しでも資金が欲しいと考えていた中での、申し出だったので喜んで頷いてくれたとのことだ。


「そういうことなので、ユーキ様。こちらがその品になります。金貨は先にクレア様から預かっていましたので、お返しになる時は私かクレア様へ直接お願いします」

「わかりました。お忙しい中、ありがとうございます」


 メリッサに差し出された目的の物を受け取ろうと手を出すと、ガラス細工がほんの少しだけ光を帯びたように見えた。

 目を擦るが、掌に乗ったそれをよく見てもあまり変化は見られなかった。

 ビクトリアの警告アドバイスのせいで過敏に反応してしまったのだろうと自分を納得させて、ポケットへと仕舞う。


「そういえば、朝は堪能していただけましたか?」

「へ……? いや、朝はちょっと色々あって、ご飯は食べてないんです」


 急に言われたことに理解が追い付かず、朝食のことだろうと返事をしたが、メリッサは不思議そうな顔で見つめていた。

 そのような顔をされてはユーキも不安になる。他に堪能できるものなどあったかと考えていると、とんでもない言葉が耳に飛び込んで来た。


「そうではなく。お風呂で、という意味ですが?」

「ごっふ!? 何故……それを!?」


 見えないナイフに胸を突き刺されたような感覚に襲われたユーキは思わず床に両手をつく。

 思い返せば風呂に案内したのはメリッサだ。もし、彼女の管轄であれば、風呂で起きた出来事も知っている可能性が高い。サクラたちの誰かから言われて対処するように言われたのかもしれない。

 知らない所で自分の不幸な事故による罪が広まっていると思うと心臓に悪い、というか現在進行形で痛い。ネット上における炎上とかを想像すると、このような気分なのだろうと考えていると、もう一発爆弾が投下される。


「せっかくご用意したのですから、今後の参考のために感想を聞いておかないと、と思いまして」

「――――ちょっと待って」


 そこまで聞いてユーキは冷静になる。

 用意した、とは流石に聞き捨てならない。まるで、サクラたちが風呂に入る状況をメリッサが作り上げたように聞こえる。


「はい。ユーキ様とサクラ様は親密な中なので、しっかり仲を取り持つようにとマリー様から指令を承っております」

「あいつ……! 実家に帰ってきて大人しくなったと思ってたけど、そんなことは全然なかったか!?」


 もう少しで社会的死も免れないと覚悟していた心境を味合わせてやりたい、という気持ちが殺意と共に浮かんでくる。


「サクラ様、アイリス様、フラン様にも同様の質問をしたところ、次回からは辞めてほしいとの意見があったので、今後は安心してお風呂に入っていただいてよいかと」

「当たり前だよ。もうちょっとで俺が覗き魔になるところだっただろ!?」

「でも、覗いてみたいという気持ちはあったでしょう?」


 屈託のない満面の笑みで問いかけられる。

 ユーキはここでメリッサに対して、一つの確信を得た。


「(この人。マリーと同じタイプだ。しかも、自分がやったと悟らせない分、質が悪い!)」


 ジト目で睨んでいても悪気を一切感じていないようだ。

 ため息をつきたくなる感情を抑えて、ユーキは立ち上がった。


「じゃあ俺からも二度としない様に、ってことで。そういうのは……なんかこう、違うから」

「………………ヘタレ、ですね」

「ん? 何?」

「いえ、お気になさらず」


 ぼそりとメリッサが呟いた言葉はユーキの耳には届かなかった。

 この後、ユーキは一度部屋を経由して、食堂へと案内されるのだが、その間もメリッサは何度かユーキを揶揄うような言動が見られた。


「早く……俺に平穏を……」

「何があったかあえて聞かないけど……頑張れ」


 途中ですれ違ったフェイになぜか励まされた。もしかするとユーキに話を聞いた時から、予想がついていたのかもしれない。

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