掘り出し物Ⅱ
一方、その頃のサクラたちは、別の部屋で石探しを行っていた。
ユーキたちが探している部屋と違い、瓦礫の散乱具合はかなりのものだ。窓際に置かれていたベッドは粉砕され、近くにあったクローゼットは中身も含めて地面へと散らばっている。
部屋の主人は男性だったのか、男物の服が多い。生地も少しばかり上等なものが多く、かなりの損失に持ち主は心を痛めるなんてレベルでは済んでいないだろう。
昨日の働きぶりもあってか、サクラたちを指導していた老騎士たちもこの部屋にはおらず、隣の部屋で作業をしている。その為か、昨日とは違って作業中に思わず話してしまうのは女子の性か。
「あのー、サクラさん」
「何? フランさん」
「まだ、今朝のこと怒ってるんですか?」
その言葉に瓦礫を纏めていたサクラの手が急に止まった。
しばらく、屈んだ姿勢のまま動かないでいるとアイリスも心配したのか動きを止めてサクラを見る。
「……怒って、ないよ」
「でも、ユーキさんとここに来るまで全然話さないから……」
伯爵邸からここに来るまでの間、フランは何とか重い空気を払拭しようと明るくみんなに話し掛けていた。アイリスは元々口数が多い方ではないため、必然的にフランはユーキとサクラに何度も話し掛けることになる。
だが、あくまでフランとユーキ、フランとサクラという会話のラインしか作れず、本命のユーキとサクラの間には一言も会話がなかった。
フランも何度か二人の顔を見たがサクラは前を向いたままで、ユーキは首を横に振るばかりだったので、どうすることもできなかった。
「サクラさん。確かに……そのお風呂で見られたことはショックだったかもしれませんが、ユーキさんに非があるわけではないのは、わかってもらえますよね」
「――――違う」
そこで唐突にアイリスがフランの後ろから声をかけた。
「違う? アイリスさんも言ってたじゃないですか、確認するのを怠ったって」
「そうじゃない。サクラは、本当に怒って、ない」
「え?」
不思議に思っているフランの横を通り過ぎて、アイリスはサクラの横まで来て屈む。
サクラが顔を向けると、ちょうどアイリスの綺麗な瞳が自分を映し出していた。
「な、なに?」
思わず表情が固まるサクラにアイリスは無言で返す。
数秒ほどの見つめ合いの後にアイリスは静かにサクラへと疑問を投げかける。
「――――サクラ、お風呂にいたとき、ユーキの体をずっと見てた?」
「「――――なっ!?」」
サクラとフランの声が重なる。
アイリスの言葉にサクラの顔が熟したリンゴのように真っ赤に染まっていく。
「な、なななな、何を言ってるのかな!?」
「だって、サクラ。ユーキがお風呂から出てきた後も、ずっとユーキの体を見てから」
「そ、それは……」
サクラの脳裏には、以前、ユーキが倒れたときに魔力を注ぎ込んだことを思い出していた。
最初は手から流し込んでいたが、それすらもなかなか上手くいかず、最後は全身を使って注ぎ込むという荒業だった。
その抱き着いた時の感触と今朝のユーキのちょうどよく締まった体が結びついてしまい、更に顔が赤くなる。
「じゃ、じゃあ、サクラさんがずっと黙っていたのは、怒っているからじゃなくて……」
「うん。恥ずかしいのを誤魔化そうとしてただけ」
「ち、違うもん。そんなんじゃないもん」
若干、涙目になりながらサクラは必死に首を振って否定する。
このまま認めてしまえば、自分の中の大切な何かが崩れてしまいそうだからだ。
口をパクパクさせて、何か反論をしようとしていた時、サクラの背後から足音が聞こえた。
「あのー。サクラさん? 申し訳ないんだけど、埋まっちゃった石をとって――――」
「ぴゃあああああああああ!?」
「何でっ!?」
ユーキが申し訳なさそうに顔を出した瞬間、サクラの奇声と共に圧縮された風がユーキの顔に直撃した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます