掘り出し物Ⅲ

 その場で仰向けになりながらユーキは目を細めた。


「なるほど、話は分かった」


 幸いにも、ユーキの周りに貼られた結界のお陰で怪我はなかったが、よろめいて倒れる程度には威力があった。もし、結界が作動していなかったら壁がもう一つ吹き飛んでいたかもしれない。

 尤も、本人は急に眼圧検査の風を全身で受けるような形になったので、心臓への負担がかなり大きく、今も鼓動は早鐘を打っている。


「ご、ごめんなさい」

「いや、あの後だし、そういう反応になるのも仕方ないよ」


 サクラも自分のしでかしたことに気付いて駆け寄ったが、当然、ユーキからは攻撃の意図を聞かれることとなる。

 結局のところ、アイリスの余計な脚色が入る前に、自身の口からユーキ本人に恥ずかしくて話せなかったと説明することになってしまった。


「むしろ良かった。嫌われたんじゃないかと思って心配だったから」

「そ、そんなことあるわけないよ。だって……」

「だって?」


 途中で口を噤んでしまったサクラを促すようにユーキも言葉を繰り返すが、目を丸くして口をパクパクさせるだけだ。

 いつの間にかアイリスとフランが真顔でサクラを両側から覗き込んでいるのが原因だった。


「どうぞ、私たちには気にせずにどうぞ続きを言ってください」

「サクラ、気になるから、早く」


 しどろもどろになるサクラにユーキは苦笑いする。


「いいよ。まだ、時間も経ってないし無理に俺と話そうとしなくてもさ。サクラが怒ってないってだけで俺には十分だ。それに、ここで話してばかりいたら、フェイや騎士のおじさんたちに怒られちゃうし―――って、痛っ!?」


 ユーキが立ち上がって、傍の柱に手を置くと鋭い痛みが走った。慌てて、掌を見ると幸いにも傷はなかった。

 反対の手の指で擦りながら痛みの原因を見ると、欠けた柱の中から半透明の突起物が飛び出ていた。


「……何ですか?これ。どう見ても木とは違いますけど」

「ガラスみたいだけど……どちらかというと、宝石に近い、かも」


 丁度、トランプのダイヤのマークをそのまま持って来たような形をした八面体。その半分が数センチほど覗いている。

 ユーキが指を切らない様にそっと両側から持って引いてみると、意外にも力を入れることなく綺麗に抜けてしまった。

 掌に乗せて色々な角度から見ると、窓から差し込んだ陽の光を鏡のように反射する。どうやらかなり綺麗なカットをされていて、凹凸がほとんどないようだ。


「ガラス……にしては綺麗だね。何で、こんなところにあったんだろう?」

「元々あったようには見えないから、城壁の石がどこか壊した時に刺さったと考える方が自然なんだけど」


 簡単に抜けたこともあって、周りにあったであろう装飾品などを探す。

 しかし、散らばっているのは布や瓦礫であって、シャンデリアのような高価な物もなければ、割れた窓ガラスも質が悪く濁った破片しか見当たらなかった。


「確かに綺麗ですね。形も大きいし、魔力が溜まりやすい場所においておけば、精霊石になるかもしれませんね」

「え、精霊石って、そういうものなんですか?」


 それはユーキも同意だった。

 てっきり、精霊が作り出すものだと思っていたが、どうやら元々ある物体に精霊が住み着くらしい。


「フランさんのルビーと一緒ですよ。魔力が溜まった結果、それはただのルビーではなくドラゴンの力を宿したルビーになったわけです。私も、元からこの精霊石にいたわけではなく、一番身近にあった魔力が宿りやすい石を咄嗟に精霊石として利用しているだけですから」


 ミニサイズで出現したウンディーネはユーキの掌の上で、その石を観察しながら手を置く。


「うーん。でも乗り換えるほどではないですね。私は今までの精霊石が馴染んでいるので、そのまま使わせていただきます。あ、一度精霊石として使用したものは、それなりに価値のあるモノになるので、仮に私が乗り換えても、捨てない方がいいですよ?」

「まぁ、とりあえず、ここの家の柱に刺さってたものだから、家主の断りもなく貰っちゃうのは泥棒だよ。まずはクレアさんに渡して、ここの人の許可が出たら貰うのもありかもしれないね」

「精霊石にできるかもしれない石って価値を知っていたら、私なら絶対に渡しません」


 フランの商人魂に火が付いたのか、穴が開くほど精霊石候補の石を見つめ、頭の中にインプットしていく。次に見たときに、自らの手で精霊石を作って売りさばける可能性があるならば、どの商人もそうしただろう。

 ユーキは苦笑いをしながら渡そうとするが、何故かフランはそれを拒否する。


「私が持ったら、多分、そのまま手放せなくなってしまう病にかかるので、ユーキさんが持っていてください!」


 ユーキがクレアの下に辿り着き、サクラを連れてフェイの下へと辿り着くのは十分後のことである。

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