掘り出し物Ⅰ
壁の一部が吹き飛んだ家の一室でユーキとフェイは、再び城壁の石の行方を捜していた。
先程、伯爵邸であった事件を包み隠さずに話すと意外にもフェイは理解を示してくれた。
「なるほどね。それでここに来た時、気まずそうな顔をしていたわけだ」
「悪かったな。覗き魔で」
「事故だったんだろ? 流石にそれは僕も怒る気になれない、というか君は、その程度で――――というと三人に怒られるかもしれないけど――――僕が怒るとでも?」
床にめり込んだ石を剣を使って、てこの原理で掘り起こしながらユーキは頷いた。
「どう考えてもフェイは俺をボコボコにすると思ったね」
「以前に似たようなことがあったからね。僕も反省して、人の話を聞いた上で判断しようと思っただけだよ。どうしても君が叱ってほしいなら、朝の鍛錬ができるようになった時にしてあげることにするよ」
「げぇっ!?」
藪蛇をつついてしまったことに今更ながら後悔するが、黙っていて後から何か言われる方が精神的にきついのだ。そういう意味ではユーキは悪いことはできるだけ先に言うようにする癖がある。
「ま、嘘をついてもいずれバレるからな……」
「何か言ったか?」
「いーや、別に。さっさと片付けないと家の主が困るだろうって思ってだけだよ」
頭の片隅に残っていた、親に言われた言葉が思わず口から出てしまう。
ただ悪気はないという真実があっても、覗いていないという疑惑は晴れない。正直に言えば、少し見てしまったのは事実ではあるのだから、ユーキも罪悪感があるのは間違いないのだ。
掘り返した石を何とか保持して、家の外へと持ち運ぶ。
相変わらずクレアは破損個所と石の状態を書き上げているが、実際はユーキたちが苦労している間に必要な資材とそれに伴う資金の概算を行っている。計算ができて物価を暗記できていると考えるとなかなかに恐ろしい。
貴族の集う魔法学園で生徒会長をやっていただけはある、などと口に出そうものならクレアは機嫌を悪くするだろう。
朝の事件があってから、いつも以上に人への言動に気を使うユーキ。その姿に違和感を感じるクレアであったが、仕事に支障が出ているわけでもないので首を傾げながらも報告書をかき続ける。
「坊主すごいな。お前さんが来てから、作業がかなり早く進むぞ」
「あ、ありがとうございます」
玄関ですれ違った老騎士が既に重さを失った石を抱えながら声をかけてきた。
どうにもクレアの所に来る騎士は年配の人が多いらしい。下手をすればフェイだけが重い石を運びかねなかった状況に、ユーキはほんのりと騎士団のブラックさが出ているように見えた。
その疑問もまた正直にフェイに尋ねると心底呆れた声で睨まれた。
「いや、見つける速度が速いからそうなってるだけで、本来はこんなに早く見つからないからな」
「いやいやいや、だって、飛んできてる石くらいなら跡見ればわかるだろ」
「そういうセリフは魔眼を解除してから言うんだな」
言われた通りにしてみるとフェイの正しさが証明された。
辺り一帯に散らばった壁だった物を始め、吹き飛んだ家具や皿など様々な物が散乱している上に、どれも似たような色ばかり。遠目で見たら材質が石なのか木なのかさえわからなくなりそうだ。
当然、散らばったものが折り重なっているところもあるので、その下にはさらに別の似たようなものが次から次へと出てくる。
「わかったか? だからわざわざ探す人と分ける様なやり方もするのさ。見つけるのがそもそも大変だからな。わかったら、さっさと終わらせるぞ」
改めて部屋の惨状を認識したユーキは、げんなりしながらも魔眼を再び開く。魔法のかけられた石を探すべく、様々な色に光る瓦礫をどけていく作業が再開された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます