火力戦Ⅴ

 度重なる轟音が背後から聞こえる中、ユーキたちは秘密裏に城外へと抜け出した。


「川を渡らなくても、こちら側にくる方法があるんですね」

「えぇ、もちろん、許可無き者が入った瞬間、溺死するトラップがありますけどね」


 川の下を通る長いトンネルを潜り抜け、地上へと顔を出したユーキたちは、素早く近くの木立へと走り込む。戦場からは遠いが、若干の丘陵地となっているため、全体が見渡すことができた。


「彼らの攻城兵器は、結界破りの兵器でもあります。帝国軍は巨大な鉄の塊を周りに取り付けた乗り物で攻撃を防ぎながら接近。近づいた側から杭のようなものに魔法で強化をかけ、さらにそれを魔法で放つ戦法を取るようです。本来は城壁に取り付いてから行うのですが、結界を破るのにも使われるため、川の側まで近づかれた時点で危険です」

「わかりました。俺はそれをここから狙い撃てばいいんですね」

「そうです。私が戦況を見て、破壊するべき目標を指示しますので、それに従ってください」


 アンディの言葉にユーキは頷いて、地面に伏せてガンドの準備をする。

 ここからは長期戦になる可能性もある。立ったままや座った状態からの攻撃は、体力の消耗だけでなく、精度の低下にもつながる。じめっとした感覚が肌を伝わるが、気にせずに構えた。


「フェイ。こちらに向かってくる敵がいないかどうか。後、他の後続部隊が急に動き出すようなら教えてくれ」

「了解しました」


 敵に見つからないように、二人とも伏せるばかりか、土で汚したマントを鎧の上に被った。


「お、俺の分は?」

「君の場合、全体が黒いので、相手からは陰にしか見ません。この距離ですし、気にしないでください」

「わ、わかりました」


 ユーキは不安になりながらも目の前の戦場を見渡す。

 アンディの言った通り、いくつかの盾を構えた部隊の中に戦車、と呼べなくもない動く屋台のような物体が見えた。


「――――撃って、構いませんか?」

「どれを狙います?」

「とりあえず、一番手前の兵器を」

「わかりました。やってください。外した後でも、撃つタイミングはそちらにお任せします」


 その言葉を聞いてユーキは、大きく息を吸って――――止めた。

 よくゲームでは狙撃をするときにぶれることを防ぐために呼吸を止めるモーションがある。それを真似てゆっくりと目標を狙う。

 当たるまでの時間は予想で数秒。目標構造物の前側よりわずかに前を狙う。


「(…――――そこ!)」


 ガンドが放たれると魔眼に青い軌跡が遠退いていくのが移る。

 一秒、二秒、三秒。たったそれだけの時間が、一分のようにも感じられた。


 ――――ズガンッ!! 


 ガンドは目標に命中し、およそ全長六メートルほどある構造体の前から三分の一程度の場所に命中。吹き飛ばした衝撃で、反対側にいた兵が数十名吹き飛んだ。


「良いですね。その奥。今狙った部隊の反対側にもう一つです」

「……」


 無言で次に狙いを定める。

 ガンドを構え、魔眼で狙うと当たる様がはっきりとイメージできる。

 今までに魔眼で見ていた光景の中に、相手が動くよりも先に纏っている光が動く場所へと移動していたことがあった。それが今ではガンドに限ってだが、レーザーポインターで示されているかのように弾道が、浮かんでくるのだ。

 もちろん、かなり集中していないと、すぐにぶれて消えてしまう。ユーキは息を吸い込んで、その軌跡の行く先を見つめた。


 ――――ズガンッ!


 もう一車両が半ばから吹き飛び、その残骸に押しつぶされたり、体を吹き飛ばされたりする兵が続々と現れる。


「その調子です。次は――――」


 ――――ズガンッ!! ズガンッ!! 


 アンディはユーキに指示を出そうとして、目を疑った。

 指示を出そうとした矢先に、既に次の目標。いや、さらにその次の目標が吹き飛んでいた。


「つ、次は――――」


 アンディは急いで、次の目標を告げようとするが、その時には既にユーキが二つ吹き飛ばした後だった。


「六車両を破壊。装填まで十秒。次の目標を教えてください。できれば複数、その方が早い」

「そ、そうですね。次は、一つ後ろの方から出てきている同じタイプの構造物を破壊してください。今の内に破壊しておけば、周りの護衛の兵がパニックになり、勝手に自滅してくれる可能性が高いです」

「……他に危険そうな攻城兵器はありますか?」

「それは――――」


 説明をしながら、アンディはユーキのガンドの精度に畏敬の念を覚えたに違いない。普通の魔法でも一発で動く目標をこれだけの距離から当てるのは難しい。それを一発必中、一撃必殺。それも六連続で。ハッキリ言って、バケモノとしか言いようがない。

 そんな中で、フェイとウンディーネはユーキの雰囲気が、ただ変わっただけでないことを感じていた。


「(フェイさん。あなたはどう思います)」

「(僕が初めてあった頃の彼とは似ても似つかない。いくら戦場に出たからといって、こんな簡単に彼の人格は変わるものじゃない。でも洗脳や強制操作の魔法を使われているようには見えない)」

「(とりあえずは様子を見ましょう。でも、明らかに危なそうなときは私が止めます)」

「(わかった。そうならないことを祈っているよ)」


 自分の背後で、そのような会話がされているとも知らず。ユーキは狙いを誤ることなく、確実に攻城兵器を撃ち抜いていった。

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