開戦Ⅵ
箒に乗ったユーキとビクトリアは城壁の遥か上空を飛びながら、帝国軍の攻撃部隊の捜索を始めた。
「どうかしら。敵の位置はわかりそう?」
「はい。何かを定期的に飛ばして攻撃をしているおかげで、それがどこから来ているのかが辿りやすいですね。それにそんなことをしなくても、ここにいますって、言うのが丸見えです」
ユーキの魔眼は札の持つ魔力を鮮明に捉えていた。
赤色と緑色の光を放つ小さな物質が何度も城壁に向かっていき、強烈な爆発を起こしているのが見て取れる。
それが来る道筋を辿っていくと、何度か緑色の光が炸裂し、その度に光が曲がっている様子が見れた。
「なるほど、魔法によって魔法を放つ道具を誘導する、か。詠唱魔法が主流の私たちとは考え方が根本的に異なるのね」
「でも、こんな大量に放っていればいずれ道具が尽きるのでは?」
「甘いわ。仮にも国に侵略する輩が補給のことを考えないわけがない。むしろ、この街を陥落させても余りが出る程度には量産しているでしょうね。もっとも、その手段はあまり考えたくないかしら」
蓮華帝国は国内において民を虐げ、帝位を狙う者同士では血で血を洗う宮廷闘争があるという。ハッキリ言って、その人と資源はどこから出ているのかはあまり考えたくない。
「さて、大分街から離れたけど、もう少し高度を下げた方が見やすいかしら?」
「いえ、あまり下げると見つかってしまいます。それに、大体の場所は既に目星がついています」
「へー、本当に便利ね。あなたの魔眼。この一件が片付いたら調べさせてもらえない?」
「お断りします」
「あら、残念」
ユーキは、攻撃の発動体が札とはわかっていないが、それを追わずとも敵の位置を既に見つけていた。
その位置はあろうことか、城門の真正面一キロ先。堂々と彼らは陣を敷いていた。
「私には見えない、ということは幻覚魔法の一種ね。一定範囲内を元々の地形と誤認させる厄介なタイプだけど、そこまで効力は強くない。太陽みたいに一定量の光が当たると無効化できてしまうタイプ。逆に言うと松明程度の灯りなら誤魔化してくれる夜襲専用魔法といった所かしら。ちょっと、解析してみたいけど、今回は諦めるしかない、か」
そう言うと箒と同じくらいの大きさの杖を天に掲げる。
バジリスクを倒した時は何もなしに浮遊していたが、今回はユーキがいるので箒へ跨ったまま攻撃できるようにして来たのだ。
「えーと、こうして、こうすると――――」
「あの、ビクトリアさん。一体何をしているんですか?」
「私の魔法って攻撃するときに魔法陣が発光して居場所がばれるから、ちょっとあの幻覚魔法を真似して、見えなくしてみようとしているのよ」
天才少女であるアイリスもいきなり魔法をアレンジしたり、難しい技術を扱っていたりする。
しかし、本物の天才は見ただけの異国の魔法を自身の知識とアイデアだけで再現できるというのだから驚きである。
「水魔法でちょっと散らして、発動時間を短くすれば――――こんなものよ!」
ほんの一瞬、ユーキの頭上で赤い光が灯った。
「あなた、結界のギリギリ外側をガンドで撃って。そこを目印にして、辺り一帯を薙ぎ払うから」
「わ、わかりました」
ユーキは魔力をほんの少し込めると、言われた通り、結界の手前へとガンドを放つ。地面へと着弾した其れは爆竹が弾けたように、草や石、土を弾き飛ばした。
もしかしたら、一番前にいる兵は何かに気付いたかもしれないが、まさかそれが上空からの目印投下だとは思うまい。
暗闇の中、ビクトリアはその光景を目に魔力を集中させることで視力を強化して捉えていた。
「よし、確認できた。それじゃ、あなたは目を瞑っていなさい。可能ならば耳も塞いでおくといいわ。あまり、良い物ではないから」
「――――え?」
ビクトリアはそれ以上ユーキに話し掛けることなく、聞き取ることのできない小さな声で呪文を詠唱した。
「『――――焼き尽くせ。我が領域に踏み入れた者に災いあれ!』」
最後の一言だけがユーキの耳に鮮明に届いた。瞬間、目の前に地獄が顕現した。
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