襲撃Ⅲ
一部の女騎士からのワイアットへの視線が厳しくなったことを除いて、今までと変わらない護衛が始まった。ワイアットは両腕の辛さから解放されるも、休む間もなく馬車の積み荷の一部を背負わされる。啜り泣きながら歩く声が後ろから時折、響いてきた。
「はっ、陛下に仕える騎士様がこんなんじゃ、この先大丈夫かねぇ」
ワイアットの補充としてアランがユーキたちの所へと合流したが、悲鳴を聞いて鼻で笑う。トチ村を出発した頃は、だいぶ疲れていたアランだが、顔色もよく元気そうであった。
逆にユーキは昨日の件であまり寝れておらず、目の下にクマがある。ワイアットの悲鳴が聞こえてくると、胃のあたりが重くなってくる気がした。傍から見るとアランが横にいるせいか、いつもの数倍、その背が小さく見えた。
ちらちらと後ろを向いてワイアットを見るユーキを、後ろを歩いていた女騎士は苦笑して声をかける。
「いいの、いいの。むしろ、君も災難だったね。ま、あれはあいつの自業自得だから諦めなさい。いつもの実習なら私たちも声をかけたんだけど、今回はそれを言う間もなかったからね」
「その……すいません」
顔が熱くなるユーキの背中を近くにいたマリーが思いっきり叩く。意外に強く叩かれて、よろめくユーキをマリーは笑い飛ばしながら肩を組んできた。
「よかったじゃん。お咎めなしで。最初に二人で帰ってきたときには、ユーキもやはり男の性には逆らえない狼だったかと、あたしも驚かされたよ。もしかして、あたしたちのも見たかった?」
「パパが言ってた。男はケダモノだから気をつけろって。ユーキもケダモノ?」
「二人ともユーキさんが困ってるでしょ。それ以上! その話は! しない!」
サクラも話を蒸し返されて恥ずかしいのか。顔を真っ赤にしてマリーとユーキの間に割り込んだ。アイリスだけは、キョトンとした顔でユーキの袖を引っ張っている。
「そうだなぁ。ここいらでやめておくか。サクラがリンゴになっちまうからな」
「もうっ。マリーったら」
「しかし、あれだよな。いくら騎士と言っても魔法だって使えるんだから、身体強化しちまえばいいのに」
後ろをチラリと見ながらワイアットを見る。顔中汗まみれで、ちょうど他の騎士に荷物を馬車へと戻されているところだった。
当然、騎士たちは盾と槍。そして、槍が折れたときのために剣の三つをセットで常備している。また、それだけでなく魔法の発動媒体もどこかに装備しているらしい。遠距離には魔法で、中距離は槍で、近距離は盾と剣、あるいは拳で。あらゆる状況に全員がそれぞれ対応できるように訓練され、集団としても動けるようになっている。
つまり、身体強化の魔法さえ使えるならば、多少の荷物なら苦にならないのだ。そう判断したマリーをアランはため息と共に一蹴する。
「あのな。魔力だって無限じゃねえんだ。体力がなくて身体強化使った場合と、体力が残っていて強化しない場合。どっちが強いと思う?」
「そりゃあ。魔法があった方が強いだろうけど、動けなかったら意味ないじゃん」
「動けなくてもいいんだよ。攻撃は他の奴がやる。守りに専念して盾持って壁役してりゃいいのよ。それが騎士団の強みって奴だ」
「へぇー。流石、先輩だけあってわかりやすいじゃん」
アランの解説に誰もが思わず耳を傾けていた。ユーキもアランの方へと向いて話を聞いていたが、話の内容よりもアランから感じるものに引っ掛かりを覚えていた。
「何か……いや……」
「ユーキ。どうかした?」
袖を引っ張られて、潜ろうとしていた思考の海から引きずり出される。自分を見上げるアイリスを見返して答えようとするが、その答えが見つからない。毎回、アランを見るたびに感じる違和感。何か気付けるかと思い振り向くと、すぐ後ろにアランが迫っていた。
「何だ。俺の顔に何かついてるか?」
「いや……何も」
「ジロジロと見やがって……見せもんじゃねえからな」
その威圧的な雰囲気の様相に思わずユーキの
「(あれ……?)」
「こーら。今は喧嘩してる最中じゃないの。進んだ進んだ」
「ちっ。りょーかいっす」
そのまま、追い越して離れていくアランにユーキは首を傾げたくなった。今までで一番強い違和感を感じたのだが、わからないまま自分も足を前へと進める。
あと少しで掴めそうな違和感と同じように、街道の地面は太陽に焼かれ、ゆらゆらと揺れていた。
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