護衛Ⅲ

「……で、何でみんないるんだ?」


 ユーキの視線の先には、いつものメンバーであるサクラ、マリー、アイリス。生徒会のオーウェンとエリー。更に意外なことに、不良リーダーのアランまでいた。

 ユーキはあいさつを交わしながらオーウェンに近づくと小声で問いかけた。


「貴族の息が、って言ってたのはどうしたんだ? どう考えても伯爵の娘とそのお仲間がいるじゃないか」

「あ、ローレンス伯爵は派閥争いとかに興味ないからね。こっちとしては、いつも助かってるよ。今回動いてくれる騎士団もローレンス伯爵が出してくれたんだ」


 そう言ってオーウェンは周りへ声をかけると、王城の方へと足を進めだした。ユーキが唖然としたまま立っていると後ろから背を押される。


「ユーキさん、早くいかないと置いてかれるよ」

「あたしらがいたのが意外だって顔だな」

「そ、そりゃあ、まあね」


 まさに考えていたことをマリーに当てられたからか、心臓が一瞬跳ねあがった。

 その横でアイリスが眠そうに目を擦りながらついてきていた。


「この前の試験の時に一緒に魔法を使った。そしたら、スカウトされた」


 アイリスの言葉を引き継いだマリー曰く、ユーキの試験の次の日に伯爵経由で依頼の話が来たそうだ。伯爵自身はついていかないものの、国内で騎士団もついていくということで許可も出たらしい。

 おまけに今回の依頼では、次の学年の実習単位が貰える、というのも彼女たちの中ではかなりおいしい話だったらしい。

 まだ、陽も出ていないので声を潜めながら進んでいくと集団の影が見えてきた。その中にはフェイの姿も見える。


「騎士団一班五名。その班が八つの一小隊編成か。そのうちの半数がローレンス伯の所とは、けっこう多く集まってくれたな」

「私たちの食料を積んだ馬車一台。帰りは二台に増えて三台ですが、十分に周りを囲める規模ですね」

「あぁ、ダミーとはいえ万が一があったら困る」


 オーウェンとエリーが話している後ろでアランが眠そうにあくびをしていた。このメンバーの中で唯一といっていいほど違和感があり、何よりやる気がなさそうだった。


「なぁ、何でアラン……先輩がここにいるんだ?」

「単位だよ、単位」

「あ、聞こえてた」


 ユーキの言葉に数メートル離れた場所から答えるアラン。面倒くさそうに頭をかきながらユーキへと近づくといきなり拳骨を頭に振らせた。


「いっつ!?」

「敬意のない敬称なんていらねえ。一度は殴り合ったんだから、くだらん言葉遣いなんて捨てておけ」

「だ、大丈夫?」


 そういうと、またオーウェンの後ろへと戻っていく。

 加減をしていたのか、そこまで痛みは続かなかったが、思わずしゃがみ込む程度には激痛だった。上からサクラがわたわたしている気配が伝わってくるが、こればかりは魔法ではどうにもならないだろう。

 涙目になりかけながら、ユーキはゆっくり立ち上がるとアランへの違和感を感じた。


「何か。アラン先輩おかしくなかった?」

「え? そもそもここにいること自体がおかしいだろ。いや、単位が足りないんだからおかしくないか」


 マリーの言葉に頭をひねりながらユーキは考える。雰囲気とか言動とかではなく、もっと根本的な何かを落としているようで気持ちが悪かった。喉に何かつっかえているような気分が嫌で、必死に考えていると遠くから声がかかる。


「ユーキ。君たちも早く来るんだ」

「あ、はい」


 思考を中断されて、先ほどの疑問に後ろ髪をひかれながらもユーキは走り出した。

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