護衛Ⅳ
並び終えるとユーキたちの後ろから白いドレスを着た女性が歩いてきた。国王よりわずかに薄い水色の長髪が左右へと揺れ動く。百六十センチ弱くらいの小柄な体だが、豊満なバストとすらっとした腕がアンバランスで、何人かの騎士はそちらへ目が釘付けになっていた。
しかし、初めて見るユーキとしては、それ以上に目を引くものが見えた。両手で抱えている大きな木の杖だ。杖は身の丈と同じかそれ以上の大きさだということが遠くからでも視認できる。
「でっか……」
「おい、静かにしろ。第一皇女のアメリア様だぞ」
隣にいたフェイがユーキの脇腹をつつく。フェイの目はどちらかといえば、軽蔑の眼差しだった。他の騎士と同様に思われていたのは心外だが、反論をできる状況にないのでため息をつくだけに済ませる。
いつもなら揶揄ってくるマリーすら、この場では何も話さずに直立していた。気を引き締めてユーキも前を向くと、皇女が話し始めた。
「今回の任務は我が国にとっても重要なものとなります。騎士団のみなさん、あなた方はこの国の顔のようなものです。どんなときも我が国の代表として相応しい行動をお願いいたします」
アメリアの言葉に、鼻の下が伸びていた騎士たちの表情が引き締まった。謁見の間ほどではないが、場の空気が張り詰めるのがわかる。
「(なるほど、これがカリスマって奴か。王族っていうのも凄いもんだ)」
「そして、魔法学園の生徒のみなさん。今回の任務には最優秀成績を修めている生徒会長と彼が選抜した生徒が参加すると聞いています」
言葉を区切ると王女はオーウェンたちの方へと向き直り、一人ずつ顔を見ていく。一瞬、その顔が止まり優しく微笑んだように見えた。それはユーキ――――よりも後ろにいるマリーとアイリスのように思えた。
「此度の任務は危険が伴うことも予想されます。あなた方は何があっても生きて帰ってくること。これは王命に等しいと心得なさい」
「魔法学園生徒を代表し、王女殿下の御慈悲に感謝申し上げます」
「よろしい。それでは、『門』を開きます。みなさんに大いなる源の御加護がありますように」
王女が背を向けて城門へと杖を掲げる。先程まで外が見えていた城門の空間へ白い靄がかかってゆく。
それを確認したアメリアが脇へと退くと、騎士団の隊長が号令をかけて進み始めた。馬車を囲むように陣形を組む騎士団へと進むオーウェンとエリーの後に続いて、ユーキたちも着いていく。
城門を潜ると白い靄は冷たい霧のように感じ、肌が若干湿るのを感じた。そのまま前の人影に離されないように進もうとするとサクラが腕を掴んできた。
「ちょ、ちょっと待って」
「そういえば暗いところも苦手だったけど、こういうのも厳しい?」
「周りが見えないところって何が出てくるかわからないから……」
「わかった、俺の腕につかまってて構わないからさ。しっかり前の人を見てついてこう」
「……ありがとう」
時間にして約一分程だろうか、白い靄が薄くなり濃紺から白み始めた空が真っ先に視界に入った。
朝日が背後で顔を出し始め、小鳥が小さく囀り飛び回っていた。
騎士団と共に城門をくぐったのは、ついさっきだというにも関わらず、そこには王都ではなく農村の景色が広がっていた。
「ここは……確か……」
ユーキには見覚えがあった。ゴブリンに追われて辿り着き、冒険者たちと防衛戦線を張った『トチ村』だった。
やはり、農村の朝は早いのか。木の杭でできた簡素な囲いの中では畑を耕したり、雑草を毟ったりしている姿が見られた。騎士団が鎧の音を響かせて近づくと、何人かの農夫がそれに気付いて、村の方へと走っていく。
一団が畑の間を抜けて村の入り口にたどり着くと、村長のニールがユーキを泊めてくれたゴルンと共に立っていた。
「騎士団の皆様。話は早馬で伺っております。どうぞ、こちらへお越しください」
「話が早くて助かる。何か不自然なことなどは――――」
騎士団の隊長が村長といくつか確認をすると、十名ほど騎士を引き連れて中へ入っていく。
未だになぜ王都からトチ村へと移動しているのか混乱しているとエリーが近づいてきた。
「転移魔法は初めてですか?」
「あ、はい。靄を抜けたら、いつの間にか違うところへいたので……」
「さきほどの魔法が我が国の王族が持つ固有魔法の一つです。いろいろと制限はありますが、国内なら多くの人間を移動できる魔法です」
「騎士団を派遣する場合では、これほど有用な魔法はないだろうね」
肩越しにオーウェンが補足する。その間も、周りへの警戒を怠っていないのか、視線は様々なところへ送られている。
「私たちの護衛場所の説明をしておきますね。先頭の馬車から護衛対象、護衛対象の荷物、騎士団の荷物となります。私たちは護衛対象の馬車の左右へ分かれて、騎士団の方と共に護衛します」
「え、そんなに重要な場所で大丈夫ですか?」
サクラが驚いてエリーへと問いかける。それに今度は首を鳴らしながらアランが口を挟む。
「今回の任務ってーのは、いわゆるダミー。囮だ。だったら別に俺らがどこにいようと構わないんだろうぜ」
「付け加えるなら、中で暇をしているお嬢様の話し相手とかもしてもらえると助かる、と父上には言われたよ」
オーウェンは苦笑しながら肩を竦めた。
集まって話をしていると隊長が三人の女性を連れてきた。その内、二人はメイド服を着ていてお付きの者だというのは一目でわかる。
その二人に挟まれているのは白い衣を纏って、第一皇女のように大きな杖を持っていた。もっとも、一番の違いは、その杖の先に天球儀がついていることだろう。
フードで隠した顔を伺うことはできなかったが、その隙間から白銀の髪が揺らめいていた。
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