矛盾Ⅱ
食堂に戻ると、ちょうどサクラ達が出てくるところだった。
ユーキを見かけるとマリーが手を振って、大声で呼ぶ声が届く。
「おーい、大丈夫だったか?」
「ロジャーさんを悪者のように扱うのはやめてください。何かあるわけないじゃないですか」
少しジト目で反論するが、どうやらサクラの味方はいないようだ。
あのフェイも苦笑いして、触れないようにしている。
「それで今日はどうするんだ」
「どうするも何も、今日は休校だよ。流石に三日連続で人が襲われたら、王様も学園長も黙っちゃいないだろうさ。グールの次は殺人鬼ってことで他国からはツッコミ受けまくりなネタ盛りだくさん。宰相辺りは胃薬抱えてるんじゃない?」
「王都中に指名手配だって。顔もわからないのにどうやって見つけるんだろうね」
アイリスが手渡してきた手配書をみると顔などの絵はなく、身長や服の特徴などが簡単に記されていた。
「身長百九十センチ前後、細身で腕が長い。武器は使わないが石畳を穿つほどの威力があるため注意されたし。有力情報には最大で金貨三枚。この者を捕縛または殺害した者には最大で金貨三十枚を――――三十枚!?」
「国の騎士が被害にあってれば、まぁ威信にかけても騎士だけでなんとかしたいところではあるけどね。うちの王様、そこの所に拘りあんまりないから」
「マリー、言い方には気を付けた方がいいと思います。……言っていることは間違っていませんけど」
フェイがたしなめるが、否定はしない。ここの王様はどうやら見栄えとか体面よりも実用性だとか質を重視する性格らしい。かつて王都にユーキを連れてきた冒険者の一団もいい意味で言っていた気がする。
その時、どこかの執務室でくしゃみをした王族がいたとかいないとか。
苦笑いしながらフェイは困ったように、曇った空を窓越しに眺めながら呟いた。
「さて、どうしようか。メイドさんから聞いた話だと、街の様子はそんなに普段と変わらないってことだったけど……」
「まぁ、本当に昼間の内は襲われたなんて話はないし、何も起こらないといいけどね……」
「夕方は昼間にカウントする?」
「ん゛んんん……」
アイリスの疑問を聞いてふと疑問が浮かぶ。
なぜ夜に行動するのだろうか。当然、事件の内容によっていくつかに分かれるが、一番の利点は『目撃者が少ない』或いは『逃走しやすい』という点だろう。
しかし、今回の犯人には当てはまらない気がする。
第一の犯行はガラスを割っての侵入及び窃盗。
第二、三の犯行は騎士団の分隊に殴り込み。負傷者多数。
第四の犯行は――――
「あの男、結局何をしたかったんだ?」
第一の犯行は考えても仕方ない。犯人を捕まえない限り、動機を解明することなど不可能だ。その上で一つ付け加えるならば、伯爵家と分かった上で強行侵入したということは、よほど自分の腕に自信があるらしい。
そして、第二、第三の犯行は追手から逃げるという点においては確かに有り得るが
ましてや現在の状態のように冒険者まで動き出せば身動きが取れなくなるのは明らかだった。その点から考えると、第一の犯行と第二、第三の犯行に綻びが見えてきそうな気がする。
第四の犯行に至っては、オルゴールを返して一騎打ちした挙句、お互いに負傷。相手の生死は不明だが、死んでいるとは思えない。
それぞれの犯行が繋がりそうで繋がらない、解けそうで解けない。そんな気持ちの悪い感覚に襲われる。
「何で顔も知られてないのに逃げないのかな」
「え?」
「だって、顔が知られてないならマントとか脱いで普通に出ていけばいいのに」
サクラの言う通りである。オルゴールも最悪、道端のどこかに置いていけば、誰かが見つけただろう。あの男の行動には謎が多すぎる。推理小説でもあれば、新たな発見や証拠が出てくるところだが、世界はそこまで世界は優しくない。謎は謎のまま、今もどこかで闇に葬られているのだ。
「もし、生きていたら――――十中八九、生きていると思うけど――――今頃は城壁の外だろうな」
「いや、腕が切られているんだ。検問に引っかかる可能性もあるし、傷が治せていないってことも万が一にあるかもしれない」
フェイの返答にウンディーネは、声を出さずに唸った。
あの男が口止めをした目的は「犯人は腕がない」または「腕を負傷している」と思わせることを私に邪魔されたくなかったからだ、彼女は考えた。
ではそれを早く伝えればいいじゃないか、ということなのだができない理由がある。
「(
昨日のユーキが倒れた後に、彼女は男からの『静かにする』というジェスチャーに対して、「頷いている」。つまりウンディーネは現在、話す・伝えるという動作をとることができない。
そういう意味でとらえるならば、残念ながら侵入者の男は既に王都を出ている可能性が高い。これ以上、誰かが傷つくことはない。
「(精霊種に強制をかけるとはいい度胸ね。次に会ったら覚えておきなさい)」
ではウンディーネがずっと話せないままなのかというと、魔道具もピンからキリまであり万能ではない。今回の場合は、相手が精霊種で
逆に言えば、ジェスチャーだけで(びびっていたとはいえ)精霊相手に一日沈黙を強制させるとなるとそこそこ値の張る魔法具であることも確かである。
尤も、本気になった精霊種を相手にする場合はそれ以上の出費が予想されるが。
そんな危険な爆弾がユーキの胸ポケットに封印されているとは知らず、各々が今回の事件について語っている中、アイリスがふと思い出したように呟いた。
「そういえば、新聞の片隅にゴルドー男爵のことが書かれてた」
「「「ゴルドー!?」」」
ユーキ、サクラ、マリーの三人には嫌な思い出である。その横でフェイも頷いていた。
「あぁ、それなら僕も読んだよ。『ゴルドー・パーカー・ド・ピレネー男爵、先日の屍人事件の前兆か。数日前に弟とその娘が失踪!』――――なんていうのが隅っこに載ってたね」
それを聞いた瞬間、勇輝は火傷をしたような痛みが腕に走った気がした。
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