第14話

それから早川は名古屋県警を訪れた。


「早速この毛髪とそのハンカチのDNAを調べてください。」


と山本が名古屋県警の鑑識に毛髪を渡した。


「分かりました。」


と鑑識が受け取り、数時間が経った。


「一致しました。山本大悟のものと間違いないでしょう。」


と鑑識から知らせがあった。


「よし。それじゃあ、名古屋からの足取りを追うぞ。まずは防犯カメラからだ。」


と早川は防犯カメラをしらみつぶしに見たがそれと当たる人間が見当たらない。まったく足取りがつかめない。


「早川さん、これは単純なトラップなんじゃないんですか?普通なら防犯カメラに写りますよ。ここ名古屋じゃ倉敷と比べ物にならないぐらいに防犯カメラが多いんですから。」


「そ、そんなはずは...。あいつは変装しているに違いない。ジャケットも捨てているし。」


しばらく名古屋を拠点に操作をしていた早川だったが、結局名古屋では足取りを掴めなかった。しかたなく岡山に変えることにした。


新幹線で暇つぶしに雑誌を買おうと思って手に取ったのが美術雑誌だった。それをペラペラとビール片手にめくっていると、顔出しNGの作家がいた。なんとなく「そんな人もいるんだな。」と思っていたら、アートの鏡面仕上げした作品の一部に顔が写り込んでいた。はっきりと見えなかったが、早川にはピンときた。


「山本大悟め!こんなところにいやがったのか!」


そう思うと一目散に小豆島へと行くのであった。


小豆島へ着き、そのアーティストの元へ行くと、やはり山本がいた


「ごるぁ!山本!」


と早川は山本をぶん殴った。辺りの作品が飛び散った。


「なんだよあんた!あっ!早川!」


と山本も身構えて


「てめぇが桜井さんを殺したんだろ!」


と胸ぐらを掴みながら早川が突っかかる


「俺はやってない!彼女は自殺だ!」


と反論をする山本


「じゃあ何で逃げた!」


とその問に山本はへなへなと崩れ落ち


「俺は本当に彼女を救えなかった。彼女に一番近かったのに。彼女の痛みを分かって、分かち合ってあげられなかった。そして彼女と一緒に死ぬという選択もできなかった。ただただ弱くて臆病な人間だった。だから私は逃げた。卑怯者だ。気が済むまで殴ってくれ。」


山本は真の髄から魂を持って行かれるように気が抜けた。


「俺だって愛した女性だ...。それが自殺だなんて...。信じられるかよ!お前が殺したんだろ?なぁ?そうだろ?そう言ってくれ!じゃないと俺は誰を恨めばいいんだよ!」


その時、まだ咲いてもいない桜吹雪がひゅーっと吹き抜け桜井の言葉が聴こえた


『お二人とも、もういいのですよ。私は二人にも愛されてとても幸せ者です。二人の要望に応えることはできませんでしたが、私を浮かべるためにお香を二人で備えてくれませんか?よろしくお願いします。』


そう言って桜吹雪はやんだ。


「桜井さん...。桜井さんの言う通りだ。山本、墓参りに行こう。」


「私もそう思ってたところですよ。」


そう言って二人は岡山へと帰っていった。


桜井のお墓参りを二人はした。桜井の声はもう聞こえなかっただが、二人の心中は変わっていた。


早川が


「俺達は同じ女を愛した似た者同士かもしれないな。ただ、境遇が違っただけで。」


山本が


「そうかもしれません。同じ女性を愛した、ただそれだけなんです。さて、飲みにでも行きませんか?」


「いいね!やっとあんたを信用できるよ。」


「私もです。」


2人が交わした盃には桜の花びらがひらりと落ちて来たそうな。

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Contrast White 秦野 駿一 @kwktshun

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