第12話

桜井の家を訪ねてから、その後仕事に就く早川であった。


「あぁ、あれからずっと桜井さんは仕事を休んでるな。どうしたんだろう。やっぱりあの事故の一件からかな。交通課の警察官としてはショックだろうな。目の前で...。」


とそんなことを考えている時に上司の河本が


「お前桜井のことで悩んでるのか?図星だろ?お前ら仲が良かったもんな。」


と言われ


「まあ、確かに仲は良かったんですが...。」


と語尾を濁らせて答えた。


「(しかしなんで傷害の前科がある山本に桜井さんと接点があったのだろう?)」


と疑問に思って、交通課の中塚に聞いてみた。


「ああ、山本のことですか?あれは山本が公園で鳩にエサをあげてた時に桜井さんが注意したときに出会ったんですよ。」


と中塚が答えた。


「なるほど...。そういう接点があったのか...。公園に行ってみるか。」


何気なく公園に赴いた。


公園に着くと先日の事故の跡がわずかに残っていた。


「あぁ、あの時は酷かったな。俺が見てもそうだったからな。特に幼い男の子の命は残念すぎる...。」


と辺り一面を見てから


「よし。次は山本が住んでた家に行ってみよう。」


と思い、山本が住んでいたコーポに行ってみた。


「なるほど。ここからだと署からそう遠くもないな。だから桜井さんもここに通ってたわけか。」


色々と想像をしながらその辺を巡っていた。


「二人を繋ぐ力と私に足りないものは何なのだ?」


と早川は考えていたが、早川には十分足りているのである。逆に欠けていないからである。だから「良い人」で終わるのだ。


「今度の休みに桜井さんのところに行ってみるか。まあ、山本もいるだろうけど。」


そう思いながら桜井の家に様子を見に行く事にする早川だった。


休みの日。


早川は桜井の家を訪ねた。インターホンを鳴らすとやはり山本が出てきた。


「おい、桜井さんはいるんだろ?」


と山本に聞くと


「いますけど誰にも会いたくないそうです。」


と返され、


「お前、この前繋いでたロープはどうした?」


「ああ、今はあれをつけていられるほど元気もないんです。」


「本当か?それならなおさら心配だ。中に入らせてはもらえないか?」


「それが一番嫌がるんです。」


と山本に言われて


「そうか...。でもそれはお前が勝手に言ってることじゃないのか?」


と早川も食い下がり


「じゃあ、電話をかけて確かめたらいいじゃないですか。」


「あ、ああ。わかった。」


そう言われて早川は桜井に電話をかけた。そうすると桜井は応答した。


「もしもし、早川さん?」


「あ!桜井さん!俺です!早川です!」


「ごめんなさい。もう今誰にも会いたくないの。分かってくれないかしら。」


「そうですか...。桜井さんがそう言うのなら...。」


と言って電話を終えた。


そして早川は山本に


「これを渡しといてくれ。栄養食だ。」


といい袋一杯分の飲み食いするものを山本は渡された。


「どうもすみません。ありがとうございます。」


と山本が礼を言うと早川が


「お前にあげたわけじゃないから礼はいらん。」


と言って帰って行った。


「はぁ。桜井さんはどうしてしまったのだろうか?もう私の手のひらにも残らない指の間から抜けていく水と同じだ。すくってもすくっても逃げて行く。そんな人になったのか...。自分じゃどうもできない情けなさ。無力さ。そんな感情を持ったところで空虚になるだけだ。考えないのが一番良いのかも。だが俺は仏じゃない。そんなに簡単に切り替えれない。クソ!」


八方塞がりというよりも、八方に向かって何を投げても何も手ごたえがないという感じ、暖簾に腕押しという感じであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る