第11話
「(今日も桜井さん職場に来てない。大丈夫だろうか...。)」
そう心配する早川だった。確かにもう2週間は職場に来ていない。マメにLINEをするが短文で適当な返事が来るだけであった。何度かランニングで桜井の家に行ったが、車も桜井の家にあった。インターホンを鳴らそうとも思ったが、そこまでするのはちょっと浅はかかなと思い躊躇っていた。そんな桜井の家にいる桜井がなんとなくシュレーディンガーの猫っぽく感じた。
「(よし!今度の休みにケーキを買って訪ねてみよう!)」
そう思って休みの日を待った。
そして休みの日。早川は桜井の家へ出向いた。インターホンを鳴らし、少し待つと、
「はーい。」
と男の声で返ってきた。
「ん?」
と思いながら早川は待っていると出てきたのは山本だった。
「あ、お前は山本大悟!どうしてお前がここに!」
「それはこれを見てください。」
と山本は腰のロープを見せた。するとロープを辿っていくと桜井の腰にもロープがフックがかかってあった。
「どういうことだ?事情を話せ。」
と早川は言った。
「これはですね、日奈、桜井さんが私が逃げないようにとロープで1.5m以内にいるようにしているそうです...。」
と山本が答えた。
「クッ!お前は桜井さんを独占したつもりだろうな!」
と皮肉を言ったが、
「これは北野武監督のDollsと一緒ですよ。ずっと紐で繋がれてて無言のままついてくるというやつです。割とやっかいですよ。」
と山本が返すと
「俺にはそれでも羨ましい。ないものねだりかも知れないが、愛する女性がどのような形でも側にいてくれるなら...。」
と早川が言うと
「フフ。それは私も同意ですね。」
と山本が答えた。
「間違えるなよ!俺はただ一歩引いてお前を見ているだけだからな。何かあったらまた刑務所にぶち込んでやるからな!あとこのケーキとシャンパンはお前らで食え。」
「ありがとうございます。」
そう言って早川は去って行った。
「くそ。完全にあの二人からleft behindだな。はぁ。俺が空回りしているだけなのか。それでも悔しいなぁ。この世が私を女々しいと責め立てても私はあの人への愛を忘れることはできない。」
どこまでも実直な早川であった。
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