第8話

翌日。 


「しかし桜井さんは本当に私には気はないんだろうか?完全になかったら私に身を委ねないだろう。でも、どこか上の空ですり抜けていく感じだ。あんなにも激しい夜だったのに。」


そう思い耽る早川。確かに早川の身になるとそうである。愛した女が喉元まで来ているのにそれを飲み込めない。鵜飼いの鵜の状態である。味を知っているのに。残酷だ。


何故、桜井がそのような行動に出たかが問題である。それは一言で言えば寂しさだろう。複雑な感情が絡んでいるとはいえ、寂しさに勝る衝動はないだろう。それを早川にぶつけてしまったのだ。元々はそんなにかどわかすような行為はするつもりはなかったであろう。だが、早川の想いを無下に断ることも簡単じゃなかったのだと思う。そんなに白黒をはっきりと決められたのなら、世の中の人間はみんなスーパーヒーローになってるだろう。


そんな事情があろうがなかろうが不憫なのは早川である。誠実で実直な性格の早川である。諦めるにも諦めきれない。


「あぁ、クソ!どうにもこうにも答えが出ない!外でも走ってくるか...。」


そう言って早川はランニングを始めた。


ランニングコースはこの前と一緒になった。桜井の実家と山本のコーポを通るコースだった。


「(また俺はこんなコースを選んでいる。女々しいな。だが気になるものは仕方ない。)」


そう思いながら桜井の実家に行っては


「(桜井さんは出てるのか。ということは...。)」


と思ってコインパーキングに向かった。


「(あ!やっぱりここに停めてある!そういうことは男の部屋か。今度は男が出てくるまで待つか。)」


そう思い、コーポ付近の公園でしばらく待機していた。


しかし一向に二人が出てくる様子がなかった。


「(あああああああ!物凄く気になるけど、これ以上この公園にいると不審者と思われてしまう。そろそろ引き上げるか。)」


しかたなく引き上げる早川であったが、早川にとっては悶々とする嫌な一日だった。

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