第121話 そのスキルは世界を魅了する
『 ソアラ・フローレン伯爵令嬢は6つの言語を話せる才女 』
『 未来の王太子妃はその頭脳でまたもや我が国を救う』
『 ソアラ嬢を寵愛するのは王太子殿下だけでは無く、王妃陛下も王太后陛下も寵愛している 』
ソアラの名声は、遠く南の地方にあるサウス公爵領地にいるアメリアにも届いていた。
屋敷の者達は何も語らないが……
新聞は連日ソアラの活躍の記事で埋め尽くされていた。
王太子妃になるなら社会の事を知らなければと、毎日新聞を読むうちに習慣化していたと言う。
勿論、侍女達のように見出しだけでは無く隅々まで。
未来の王太子妃に相応しくなる為に勉強も頑張った。
毎回の試験では、ルシオが学年1位でアメリアは3位と言う成績だった。
ルシオもそうなのだが……
人の上に立つ者に相応しくあるべきとして、それはそれは努力をしていたのである。
因みに2位はカールだ。
しかしだ。
学園での成績だけではソアラの事は図る事は出来ない。
学園を卒業したソアラは経理部の女官となって、バリバリと経理部のスキルを身に付けていった。
6っつの言語も喋れる事も、辞書を片手に翻訳のアルバイトをしていた賜物だ。
アメリアは学園を卒業してからは、特に何もしてはいなかった。
ただただルシオから選ばれる事だけを考えて、社交界の活動に力を入れていた。
お茶会を程に開き、人脈を広げる事のみに精を出していた。
国民達が熱狂するソアラの名声も……
「 ランドリアの糞野郎が情報操作しているに違いない」
……と、憎々しげに言う父親の言葉を信じた。
「 あの女狐のエリザベスが選んだ令嬢だから、自分の保身の為に彼女を持ち上げる事に必死なのよ 」
かつてエリザベスとライバルだった母親は、常に王妃を批判する。
アメリアがクリスマスパーティーの時に見たソアラは、シンシア王女に虐められていた弱い弱い伯爵令嬢だった。
突如場違いな立場に選ばれて気の毒だと思った。
だけど……
何の苦労も無しにルシオの婚約者になった事を思うと、どうしてもやりきれない思いが拭えなかった。
自分には、常にリリアベルと言うライバルがいて、ルシオを二分しなければならなかったのだ。
ただ一人の
わたくしを選ばなかった事を後悔させたい。
だから……
ソアラが経理部の女官だと聞けば、自分も領地経営を学び、彼女が6つの言語を話せると聞けば、他国への留学を決めて外国語の勉強もし始めた。
しかしだ。
目の当たりにしたソアラの才女振りには脱帽した。
彼女に、よくもまあ「 努力をしなさい」など言えたものだと。
あの時、ソアラに向かって高飛車に言った自分が恥ずかしくなった。
ここまでのスキルを身につけるなんて。
それはもう……
彼女の努力の賜物なのである。
国民が熱狂するのも当然だわ。
わたくしとはレベルが違う。
アメリアもまた……
ルシオとソアラとの未来に、ワクワクするのを感じていた。
そして……
ルシオの隣にいるリリアベルも、ソアラのスキルに感動していた。
リリアベルにはアメリアとは違った感情がある。
あの暴漢に襲われた時に……
ソアラは自分を盾にして助けてくれたと言う恩義があった。
あの時彼女が助けてくれなかったら……
今、こんな風に婚カツも出来なかっただろうと。
そもそも自分が王太子妃には選ばれ無い事は分かっていた。
ルシオと同い年のアメリアと比べたら、リリアベルはあまりにも不利な立場だったのだ。
彼女が、シンシア王女に気に入られるようにと頑張ったのも、アメリアと同じ土俵にさえ立てていない状況では、周りを攻めるしか無かったからで。
それでも……
不利な立場のリリアベルを気遣ってくれる優しいルシオの事が好きだったのだが。
ただ……
選ばれなかった時の皆の反応が怖かったのは事実。
新聞にはどんな事を書かれるのだろうか?
友達からは憐れみの目で見られるのだろうか。
次の結婚は、同情されてのものになるのだろうかと。
『 王太子妃は二つの公爵家の令嬢から選ぶ 』
永くこの悪しき慣習に振り回されていたのは、生まれた時から第一王子の婚約者候補だった令嬢達なのだ。
そして哀れなのは……
何時の時代も、選ばれなかった方の公爵令嬢だ。
ただ親世代の三角関係は、別次元の話になっていたが。
この婚姻騒動では自分も選ばれなかったが、アメリアも選ばれなかった事は嬉しかった。
家族もそれを分かっているみたいで。
「 サウス家に負けた訳じゃないんだから 」と言いながら、多くの貴族家から届く釣書をせっせと吟味している最中である。
リリアベルとソアラは同学年だ。
勿論、リリアベルの学園での成績も上位だった。
ただ……
学年での1位がソアラだったが。
ソアラの事は知らなかったが、掲示板に張られた成績表に、ソアラ・フローレンと言う名が何時も学年のトップにある事は知っていた。
わたくしも彼女のように他国の言葉を話せるようになりたい。
ソアラの凄さを目の当たりにしたリリアベルは、婚カツだけをしている自分からの脱却を決意した。
2人はそれぞれの想いを抱きながら……
ソアラの元に駆けて行くルシオの背中を見つめていた。
そしてその後には……
自分達には決して見せる事の無かったルシオの所為があった。
自分の夫になる筈だった
****
先程の威風堂々とした所為は何処にいったのか。
ソアラはルシオの腕の中で固まっていた。
「 ソアラ! 君は最高だ! 」と言われて抱き締められたままで。
「 ルシオ様……皆の前です 」
ソアラは泣きそうな顔でルシオをの腕の中でルシオを仰ぎ見た。
「 !? 」
初めて自分からルシオと呼んだソアラに、ルシオは更に蕩けそうな顔をして彼女を抱き締めた。
何時もは中々名前を呼んでくれないのに……
ここで名前を呼ぶとは卑怯だぞと思いながら。
またもやソアラの意表にノックアウトされたルシオだった。
この日ルシオは、ソアラとはイチャイチャしないつもりだった。
かつての婚約者候補であったアメリアとリリアベルの前でそれをするのは、流石に忍びないと思って。
なので敢えてソアラの側には行かなかったのだ。
それでもずっとソアラの姿は追っていて。
舞踏会では、会場の隅でイアンと踊るソアラを見やっていた。
何やらギコギコと踊る姉弟の姿が楽しくて。
皆に気付かれない無いようにクックと笑ったりして。
そんな風に、遠くから見つめるだけで我慢をしていたと言うのに。
カールから、ソアラの元に行けと背中を押されたら……
もう何も考えられなくなって、ただただソアラの元へ駆け出していたのだ。
アメリアとリリアベルへの配慮なんか全て忘れて、気が付いたらソアラを抱き締めていた。
僕の婚約者はこんなにも愛しい。
もうそれ以外は頭に無かった。
「 ほら!見ろよ。王太子殿下の蕩けそうな顔を 」
「 王太子殿下は婚約者を愛してしまったんだわ 」
「 我が国の未来は明るい 」
皆は……
王太子と未来の王太子妃を温かい眼差しで見つめるのだった。
多くの貴族は、今やこんな風に二人を祝福しているが。
やはり……
辛い結果になり、必死で前を向こうと頑張っている自分の娘の前で、婚約者とイチャイチャするルシオを、公爵家の人々が何とも思わない訳がない。
拗れた公爵家との関係を、少しでも改善しようとしていたルシオの思惑は外れた。
ソアラの存在は……
何時も王太子ルシオをポンコツにさせるのだった。
***
フレディとシリウスも、驚きを隠せない程に動揺していた。
「 凄いな…… 」
「 ………… 」
二人は、他国を旅する事から何ヵ国の言葉は話せるが。
3ヶ国の言語が入り乱れた中で、通訳をしながら相手を納得させるような言葉は中々出て来ない。
ソアラのスキルはプロの通訳をも白旗を揚げる程だった。
「 ソアラちゃんは、経理部の女官より外交官になるべきだったかもね 」
「 外交官にならなくても、彼女なら王太子妃として世界で活躍出来ますよ 」
永らく停滞していたドルーア王国の外交はお粗末なものだった。
フレディの国のマクセント王国との鉱山の発掘の共同事業で、すでに海の向こうのガルト王国が動き出している。
その他の国からもかなりの注目を集めている。
「 私は……そなたの国から王太子妃となる者を連れて帰る事になってるんだがな 」
フレディはそう言って、またもや意味深に笑いルシオのいる所へ歩いて行った。
「 殿下?……まさかソアラ嬢を? ……待って下さい! 殿下! 」
シリウスはフレディの後を追った。
シンシア王女殿下の婚姻を断って、ソアラ嬢に求婚するなんてあり得ない。
ソアラ嬢は、王女殿下の兄であるルシオ王太子殿下の婚約者なのに。
フレディは王太子に相応しい立派な人間だ。
何事にも囚われない自由な考え方をするフレディをシリウスは好きだった。
どうか……
我が国の王太子殿下と敵対しないで貰いたい。
シリウスは祈るような気持ちでフレディの後を追った。
フレディがルシオの側にやって来た。
「 私に令嬢と踊るチャンスを下さいませんか? 」
フレディはそう言ってルシオに頭を下げた。
ソアラと踊りたい?
それは……
ディランとして?
それとも王太子として?
フレディ殿はソアラを欲しいと言っていた。
今宵のソアラを見れば……
その想いが強くなるのは当然だ。
しかしだ。
シンシアとの婚姻話をあんなにあっさりと断られても、父上が何も言わなかったのは、両国での鉱山採掘事業があるからで。
フレディ殿は、我が国との関係が悪化しても、ソアラを欲しいと言うつもりなのか?
ルシオが思いあぐねていると……
「 ルシオ殿の大切な
「 なっ!? 何を…… 」
フレディはルシオだけに聞こえるようにそう言った。
普段は優し気なルシオの顔付きが変わり、綺麗なサファイアブルーの瞳に怒りが滲んだ。
しかし……
そんなルシオを見てフレディはクスリと笑うと、ルシオの横をスタスタと通り過ぎた。
フレディが令嬢達の前で立ち止まり、手を差し出した相手は……
アメリアだった。
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