第115話 閑話─侍女長の権限
「 バーバラ! 喜べ! 前から探していたソアラの侍女を、ルーナ嬢がする事になった 」
「 まあ! そうですのね。ルーナ嬢ならソアラ様がお喜びになりますわね 」
「 ああ……喜ぶだろうな。それから……この事はソアラに秘密にしてくれ 」
ルーナ嬢がソアラを驚かせたいそうだと言って、ルシオは嬉しそうな顔をした。
ルシオの乳母であり、今は王太子宮の侍女長バーバラは当初は思っていた。
殿下は本当はこの令嬢と結婚したかったので無いのかと。
シンシア王女が一緒だとはいえ、ルーナと程に会っていたのだから。
ルシオがルーナの前で跪き、手の甲にキスをして、彼女が新しい婚約者候補になった事を喜んだと言う話は有名な話だ。
勿論、バーバラも知っている。
その後に王太子宮にソアラを連れて来て、勘違いを平謝りをしている所も見ていて。
しかしだ。
その不安を他所に、ルシオのソアラへの寵愛ぶりは、王宮内だけでは無く今や国民も知る事になっている程で。
これから王太子宮に住む2人が不仲で無くて良かったと、バーバラも王太子宮の皆も喜んでいる所である。
実は……
王命が下された王太子殿下の婚約者を見た時には、バーバラだけで無く王太子宮のスタッフの皆が落胆した。
アメリア公爵令嬢とリリアベル公爵令嬢との落差に。
彼等はずっとこの2人の内のどちらかが、この王太子宮に来ると思っていたのだから。
決して不細工では無いが……
華やかさも振る舞いもさる事ながら、やはり何処かオドオドしていて貧相なのである。
やはり自分達が仕える主は、王太子妃として相応しい女性であって欲しいと思うのは当然な事なので。
だけど……
彼女はそんな柔な令嬢では無かった。
ドルーア王国を欺こうと企む輩達の不正を暴き、完全に論破した。
それはもう大変な騒ぎだった。
国民がソアラを救世主だと崇めたのである。
この国の救世主となったソアラは、王宮に仕える者達の誇りになり、王太子妃としての地位を確立したのである。
そんな頃にルーナがやった来たのである。
侍女見習いとして。
ルーナとしては……
王太子妃として相応しいのは自分だと皆に思わせる為に、ルシオに近付いたのだが。
皆が思った。
「 これで無くて良かった 」
彼女がもう一人の経理部の女官だと知ると……
自分達の仕える主が、こんなキャピキャピした令嬢だなんて嫌過ぎると皆が思ったと言う。
ソアラが国王陛下から王太子殿下の婚約者に選ばれたのは、経理部の女官だからと思っている輩は、ソアラやルーナだけでは無かった。
2人の女官のうちの1人には婚約者がいる事から、ソアラに白羽の矢が立ったのだと。
今ではそれが正しかったのだと、誰もが思う事となっているが。
因みに……
王太子宮のスタッフはずっとアメリアとリリアベルの凄い美女を見て来た事から、ルーナを見ても差程美しいとは思わないのだ。
可愛らしい令嬢だとは思うがそれだけで。
それよりも……
お妃教育が始まって、その姿勢や歩き方、美しい振る舞いや所為が身に付いて来たソアラの美しさに、皆は感嘆の声をあげている所である。
***
バーバラは王太子宮に、程にルーナが出入りする事をよしとは思ってはいなかった。
ルーナはソアラの友達であり婚約者もいる事から、彼女の侍女としての修行を認めたが。
見方を変えれば……
王太子の要望で、侍女養成学校に通わせてまで王太子宮に入れたい理由。
それは……
彼女を愛人にする為かと。
将来は側妃にするつもりなのかと。
そんな風に勘繰る人が出て来てもおかしくない状況だったのだ。
そんな輩がいなかった事が幸いしたが。
それはきっとルシオが誠実な王子だと言う事を、皆が知っているからだろうとバーバラは安堵していた。
しかしだ。
いくらルシオがソアラにぞっこんでも、ルーナのルシオに対する所為は見過ごせないものがあった。
ルシオに腕を絡ませたりと何かと距離の近い所為は、ルシオを狙っているとしか思えないのである。
彼女はフレンドリーだから誰にでもこうだと言われても、流石に王太子にこの所為はあり得ないと。
ルーナに注意をしようにも……
やはり彼女はソアラの幼馴染みの友達だと言う事で、バーバラは迂闊な事は言えなかったのである。
ここに……
誰もが越えられないソアラの友達と言う壁があった。
それには王太子であるルシオさえ、言いなりにする威力があったのだ。
ルーナはそれを巧みに利用して、ルシオに近付いていたと言う訳だ。
勿論、ルーナにはその自覚はあまり無い。
周りがソアラの友達だからと考慮するだけで。
彼女の頭の中には……
王太子に相応しいのはわたくしがあるだけでなのである。
ルーナは何処までも自己中の塊のような女で。
フレディとシリウスが、ルーナを毒だと言う理由はそう言う所にあるのだった。
そんな頃に離宮への旅が決まった。
実は……
バーバラは離宮への旅には同行しない予定だった。
持病の腰痛があるからで。
しかし……
ルーナがソアラの話し相手として同行する事になったと聞き、急遽同行する事に決めたのだった。
旅先ではどうしても警備が緩くなる。
騎士達は外部からの危険に全集中する事から、内部までには監視の目は行き届かない。
間違いがあっては大変だと。
こうして旅の間中、ルーナはバーバラに監視される事になったのだった。
それでもルーナは、瞬間移動をするかのようにルシオの周りをチョロチョロしていたが。
そして……
監視すればする程にルーナが鼻に付くようになった。
それは他の侍女達も同じだったようで。
王太子宮からはバーバラの他に後2名侍女が同行していて。
彼女達もイライラしているようだった。
これは……
王太子宮の侍女は彼女は難しいのでは?と思い始めた頃。
ソアラが嘔吐したのだ。
その時にソアラの側にいたのにも関わらず、ルーナが何の対処もしなかった事が決定的となった。
後からではあるが。
御者がカンカンになって、バーバラに言いつけて来た。
彼女はソアラに「汚い」と言ったと。
バーバラはルーナに侍女失格の烙印を押した。
いくら気配りが出来ても……
いくら行動が速くても……
肝心な時に何も出来ない女は、王太子宮にはいらない。
ましてや仕えるべき主に汚いなどと。
バーバラは……
そんな事を言われていたソアラを思うと、涙が出そうになった。
その場にいたら張り倒してやったのにと。
そんな事から……
離宮へ行こうが行くまいが、ルーナがソアラの侍女になる事は無かったのである。
それはルシオが否を唱えてもだ。
王太子宮の侍女の雇用の最終的権限は、王太子宮の侍女長バーバラにあるのだから。
王子の乳母兼侍女長はやはり強い。
ドロシーが野望を持つ事も頷けるのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます