第114話 閑話─ポンコツの代償




 ビクトリア王太后の住む離宮への旅路を終え、ルシオ達は半月振りに帰城した。


 モーリスの処遇はランドリアに任せて、ルシオは溜まった公務をしなければならなかった。


 ソアラはきっちりと裏帳簿の翻訳を済ませて、カールに渡していた。



 この朗報は国王サイラスを喜ばせた。

 モーリスの横領を暴いたソアラには、褒美を取らせるとまで言って。


 財務部の女官としての仕事をしたまでですと辞退をして、ソアラはあくまでも一公務員を貫いた。


 ソアラらしいと。

 ルシオはそんな所も愛しいと思うのだった。



 報告を済ませた後は、ソアラは自宅から財務部に元気に通っている。

 毎朝のウォーキングもしていると言っていた。


 ルシオは、昼食は出来る限りはソアラと一緒に取るようにしていた。

 時間にきっちりしているソアラに合わせるのが大変なのだが。



 元気になった証拠に、ソアラはよく食べていた。

 とても美味しいと笑って。


 あの旅の日々が嘘のように。



 そんなソアラを見ていたら……

 ルシオは自分のポンコツさ加減が嫌になるのだった。


 思えば……

 旅の初日からソアラの様子がおかしかった。

 それはルーナが侍女になる事を知ったからだったのだ。


 慣れない馬車に酔ったのだと言っていたが……

 帰りは馬車に酔うなんて事も無く、バリバリ翻訳の仕事をしていた。



 思い返せば……


「 殿下から見れば……哀れに見えるのかも知れませんが……普通の生活をして普通に生きているわたくしは


 初めてソアラと出会った時に言われたこの言葉は辛辣だった。



 あの時は……

 ソアラの事を、ドレスも買えなくて馬車も無い貧しい伯爵令嬢だと思い、そんな令嬢が自分の婚約者候補になった事で哀れに思ったのだ。


 だから……

 ルシオは沢山のドレスや宝石、馬車までをもプレゼントをした。



 高位貴族である公爵令嬢の2人は、王族と何ら変わらない生活をしていた。


 邸には沢山の侍女やメイドや警備の者がいて、アメリアやリリアベルの生活環境は自分と対して変わらないものだった。



 彼女達は豪華なドレスや宝石を身に付け、社交界の中心にいた。


 常に馬車で移動をして、買い物は自分の邸まで店の者たちが訪れる。

 彼女達はきっと自分でお金を払った事も無い筈だ。


 ましてや、王室御用達でドレスを値切るなんて事は、アメリアやリリアベルだけで無く、貴族令嬢ならば誰もがそんな事をしない。



 そんな風に……

 ソアラは、アメリアやリリアベルとは根本的に違ったのである。


 だからこそルシオはソアラの事を知りたかった。

 知らなければならないと思ったのである。



 ルーナの行き過ぎた所為には自分にも責任があると思っていて。


 ポンコツな出会いも勘違いの要因だったが……

 何度も彼女と会った事も、彼女を誤解させた所為だったと今更ながら後悔をする。



 王太子である自分が、特定の令嬢と程に会う事はずっと避けていた事だった。

 ルーナがソアラの友達だと言う事で油断をしていた。


 まさかルーナが自分の事を狙っているとは思わなかった。


 彼女はソアラの友達だから……

 だから彼女も、ソアラの為に動いてくれているものだと思っていたのだから。


 早急にルーナを自分達から遠ざける事は必須。

 下手をすればとんでも無い噂が流れるかも知れない。



 今まで2人の婚約者候補がいたが、ルシオはノースキャンダルの王子だった。

 女性関係には取り分け気を付けて来た。


 正式に婚約者が決まった今になって、婚約者の友達との三角関係などと言う噂などは、あってはならない事なのである。


 ソアラをそんなスキャンダルの中心にはしたくはない。


 ましてやソアラは……

 体調が悪くなる程にルーナの存在に苦しんでいるのだ。



 ルシオは不敬罪で処分する事も考えた。

 ルーナの所為は脅迫に近い行為だと、フレディも言っていた。


 だけどそれをすれば……

 ソアラが辛い思いをする事になる。



 なので……

 ビクトリアから、ルーナを自分の侍女にしたいと言われた事は渡りに船だと歓喜した。


 ブライアンと結婚をさせて、離宮に来させれば良いと。

 なので……

 ルーナにもブライアンにもかなり美味しい条件を提示した。



 重要な点は……

 ルーナはソアラの幼い頃からの友達であると言う事。


 男爵令嬢とは違うのだ。

 アメリアが彼女にやったように、ただ遠くに追いやるだけではダメなのだと。


 ルーナがソアラの側にいる事が毒だとしても……

 彼女はソアラのたった1人の友達で。

 永く時間を共にして来た間柄なのである。



「 ルーナの事は嫌いでは無いの!だけど側にはいて欲しく無い…… 」

 そう言って、ソアラはディランに自分の気持ちを吐露していた。


 そこには他人には分からない複雑な感情があるのだろう。

 だからソアラは、どうしてもルーナを拒絶出来ないのだ。



 ルーナには納得をして離宮に行って欲しい。

 ソアラの為に……


 そう願わずにはいられなかった。



 まさか……

 こんなに早く、ブライアンと結婚してルーナが離宮に行く事になるとは思ってはいなかった。


 ルシオだけで無く、ソアラにあれ程までに執着しているルーナを、遺恨無しに遠くへやる事は難しいだろうと思っていて。



 その陰には……

 侍女ドロシーの野望があった事は、勿論ルシオは知らない。








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