道場訓 八十 空手の流派
「……で? ワイをわざわざ呼びつけたっちゅうことは、何か深刻なトラブルでも起きたんでっか?」
カムイはへらへらと笑いながら言葉を続ける。
「ただ、お嬢はん。もしもそうでなくワイに会いたいだけで呼んだっちゅうのなら、申し訳ないんですがもう戻ってもええですか? 今、ちょうどワイ好みの女性を
このとき、俺はようやく気がついた。
珍しい銀髪と黒の
まさか、この男はリゼッタと同じくアルビオン公国の生まれなのか。
などと俺が考えていると、顔を真っ赤にしたマコトは「このお馬鹿!」と怒声を上げた。
「あなたのことが必要になったから呼んだに決まっているでしょう! それにシード選手だから1回戦を闘わなかったとはいえ、
「せやけど、ビビッと来るもんがあったんやさかい仕方ないでっしゃろ。それに、ワイはいつ死んでもおかしくない闘技者や。だったら、本能の
1回戦に闘技者。
その言葉だけでピンときた。
こいつも俺と同じく
「
と、マコトが大きなため息を吐いたときだ。
「ん!」
カムイは目を見開くと、こちらに勢いよく顔を向けてきた。
しかし、その視線が向けられたのは俺ではない。
俺の後方にいたエミリアに向けられたのだ。
そして――。
「これは運命やで!」
カムイは満面の笑みを浮かべ、身体で喜びを表すように両手を大きく広げる。
「なんちゅう
直後、カムイはエミリアの元へ歩み寄っていく。
「金髪のお嬢さん。お名前を聞かせて
「え? え? え?」
まったく予想していない展開に、エミリアは明らかに
だが、それは俺も同じだった。
表情と態度にこそ出さなかったものの、このカムイという銀髪の男のことが
それゆえに俺はすぐに動いた。
エミリアを守るようにカムイの前に
「何や、大将。人の
俺と
「残念だが邪魔させて
「ほう、その子はエミリアちゃん言うんか。ええ名前や。ますます気に入ったで」
カムイは俺からエミリアへと視線を移す。
「せやけど、弟子っちゅうのはあれか?
俺は真顔で答える。
「お前の目には俺たちが魔法使いにでも見えるのか? それとも、そんな
そうや、とカムイは即答した。
「何を隠そう、ワイは
そう言うなり、カムイは握り込んだ右拳を脇へと引いた。
「――って、何でやねん!」
次の瞬間、カムイは鋭い踏み込みから
ゴオッ!
俺は
同時に俺はタイミングを
もちろん、それだけでは終わらない。
俺は
狙いはカムイの顔面だ。
ドンッ!
半円を描いて飛んだ俺の蹴りが、カムイの側頭部で爆発音を発した。
直後、蹴り足を引いた俺は少しだけ
「……ええな。
カムイは自分の側頭部を守るように、左手の肘から先を
常人ならまともに食らっていただろう、俺の
けれども、俺の蹴りは防御した腕ごと破壊する
現に周囲の人間たちは、爆発音だと勘違いしただろう俺の蹴りの衝撃音を聞いたはずだ。
しかし、カムイは顔色一つ変えずにケロリとしている。
それだけではない。
俺の蹴りを防御した左腕にも異常が見当たらなかった。
打撲や骨折どころか、まったくの無傷である。
こいつ……。
「手加減したとはいえ、ワイのツッコミ――もとい
やはり、凄まじく強いな。
それはたった数秒
しかし、これほどの
もしかすると、元は表の世界でも有名な人間だったのだろうか。
ふとそんな疑問が
そしてカムイの顔の横に個人情報が浮かんできた瞬間――。
パリンッ!
という音でも鳴ったかのように、カムイの個人情報が粉々に砕け散ったのだ。
「――――ッ!」
俺はあまりの出来事に
そんな俺を見つめながらカムイはニヤリと笑う。
「あかんで、大将。人の
カムイは落ち着いた声で言葉を続ける。
「俺の
「お前……
俺は念のためカムイに
「知っとるも何も、ワイの流派は
このとき、俺は生前に祖父から聞いていたことを思い出した。
「まさか、お前の流派は……」
カムイは少しだけ
「ワイの
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