道場訓 七十九 黒道着の空手家
俺の視界に飛び込んできた女は、どう見ても普通の女ではなかった。
それだけではない。
170センチを超える、女にしては高い身長と長い手足。
光沢のある黒髪は背中まで伸びていて、着ていた和服も
顔立ちも間違いなく美形の中でも最上級に入るだろう。
しかし――。
どこの誰かは知らないが、あまり好きな顔じゃないな。
美形か不細工かは関係ない。
俺には黒髪の女の、人を見下すことに慣れた
自分が叶えたい欲望なら必ず叶う、というような感じが強く伝わってくる。
などと考えていると、黒髪の女はハッと気づくような顔をした。
「あら、そう言えば自己紹介がまだだったわね」
豪勢な椅子に座っていた黒髪の女は、
「私の名前はマコト・ハザマ。覚えておいて損はないわよ」
マコト・ハザマ?
コジローから事前に聞いていた情報の中には、
確か〈
だとすると、このマコトと名乗った黒髪の女はカイエンの身内なのだろうか。
俺が顔色を変えずに思考を
「その前に聞いておきたい。アンタは何者で、どうして俺たちをこんな場所に呼び寄せた?」
俺の質問に対してマコトは小首を
「私が誰なのか名前を聞いても分からないの?」
「闇試合の
これもコジローから聞いていたことなのだが、カイエン・ハザマは70歳を過ぎているにもかかわらず、頭も肉体も
「残念、私はカイエン・ハザマの娘よ……とはいえ、別に若作りしているわけではないわ。これでも今年で22になるんだから」
これには俺も目を丸くさせた。
そうなると、マコト・ハザマと名乗った女はカイエンが50歳を過ぎて出来た子供なのか。
「まあ、私の年齢はともかく……これで私が何者なのか理解したわね」
「ああ。だが、肝心なもう1つのことが分からないな」
俺はマコトに鋭い視線を突きつける。
「〈
マコトは「確かに」と
「だけど、あなたの1回戦の闘いぶりを見てどうしても会いたくなったの。なので光栄に思いなさい。私が直々に会いに来るなんて
そんなことを言われても、俺にとっては何の
正直なところ、思わず「だから何だ?」と言いそうになった。
だが、俺は相手の反感を買うようなことは言わなかった。
その代わり、顔を振り向かせて後ろにいたエミリアに声をかける。
「エミリア、行くぞ。こんなところにいても時間の無駄だ」
俺の言葉に「え?」と
「ちょっと待ちなさい! まだ、私の話は終わってないわよ!」
「聞かなくても分かる。どうせ
俺は過去にもマコトのような人間に会ったことがある。
マコトは金と
そして、そういった人間の口から出る言葉は
だったら、さっさとこんな場所から立ち去るに限る。
「ふ~ん、わざわざ
マコトの意味深な言葉を皮切りに、大勢の人間が一斉に動く気配があった。
この部屋にいる護衛の人間たちもそうだが、部屋の外でも10人以上が動く気配が感じられたのだ。
「やっぱり、アンタは典型的な上流階級の人間だな。これ見よがしに権力を見せつければ、大抵の人間は自分の言うことを聞くと思ってるんだろ?」
「あら、あなたは違うとでも言いたげね」
「全然、違うさ」
俺は即答した瞬間、目の前のテーブルに向かって
バアンッ!
けたたましい音とともに、料理が並べられたテーブルが真っ二つに割れる。
このとき、マコトの表情がかすかに揺らめいた。
もちろん護衛の人間たちはマコト以上に驚きを
護衛の人間たちも〈
そして室内に殺気が充満したとき、マコトはキッと俺を
「あくまでも私の話を聞くつもりはないということね……それに、どんなことをされようと自分なら力でそれを
「そう受け取ってもらえたなら助かる。まさか、ここまでやっても俺の気持ちが分からない奴の相手なんて本当にご
ただし、それでもマコトが数に物を言わせるつもりなら話は別だ。
そのときは俺も無抵抗を
やがて、マコトは大きなため息を吐いて「よく分かったわ」と言った。
俺は頭上に疑問符を浮かべながら
一体、何が分かったのだろうか。
そう思った直後、
「手に入れる前にも少々
と、マコトは広げていた扇子を勢いよく閉じた。
「来なさい、カムイ!」
マコトが怒りを
「お嬢はん、何ぞワイのこと呼びはりましたか?」
現れたのは、マコトと同じぐらいの年齢と
背丈は190センチは軽く超えている。
そして白と見間違うほどの銀髪に、日焼けしたような
しかし、俺が気になったのは男の髪色や肌色ではない。
こいつも俺たちと同じ
カムイと呼ばれた男は、漆黒の
ヤマト国でも
では、黒道着を着ていたカムイという男もそうなのだろうか。
答えは
この男は間違いなく強い。
素の状態で俺の肌が軽く
俺はそんなカムイと視線を
カムイは「ニッ」と白い歯を
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