道場訓 七十八 華やかで煌びやかな地下の世界
「この国の地下にこんな場所があったなんて……」
あまりの驚きに目を丸くさせたのはエミリアだった。
だが、それは俺も同じだ。
1回戦でオンマという対戦者を倒したあと、俺とエミリアはリングの上にいた
2回戦は引き続き先ほどのリングの上で闘うらしいのだが、その前に
そのために俺たちは闘技場から地下街へと移動させられたのだ。
「まるで伝説の
かつてヤマト国の隣国にあった、
そこは夜でも日中のように明るかったことから、夜が訪れない街――
そして、この場所を言い表すのにこれほど適した言葉はなかった。
本来ならば薄暗い地下の世界にもかかわらず、俺たちの眼前に広がっているのは高価な照明の魔道具がふんだんに使われた昼間のように明るい地下街の光景だ。
しかも並んでいるのはヤマト国の木造建築と、リザイアル王国の石造建築が不自然に
まるで街を拡大させるために、適当に改築を繰り返したような不自然さがある。
それでも街中を歩いている人々は気にも
多種多様な人種が大通りに
この地下街の光景は通行人たちにとって当たり前なのだろう。
けれども俺たちにはまったく馴染みのない光景だ。
特に王族であったエミリアはかなりのショックを受けていた。
「父上たちは自分たちの国の地下にこのような場所が存在しているのを知っていたのでしょうか?」
「……多分な」
確信があったわけではなかった。
ただ、商業街にも
それに
凄まじく金が掛かっている。
おそらく、王家の他にも貴族や豪商たちが出資しているのは間違いない。
そうでなければ、これだけの
では、誰がこの
「ヤマトタウン最大の
裏の闘技場の
それこそ〈
こんな地下世界が存在しているのが何よりの証拠だ。
いくら〈
などと考えていたとき、俺たちをこの場所に案内してきた男が「行きましょう」と声をかけてきた。
「あの方がお待ちです」
男の言葉にエミリアが反応する。
「あのう……
「あの方とはあの方のことです。私はあくまでもあの方に命じられて、あなた方をあの方の元へと案内するよう命じられただけです」
まるで人形だな、と俺は思った。
それほど目の前にいる案内役の男は、あの方という人間の命令のために動いている感じが強い。
これでは前もって必要な情報は得られないだろう。
だとしたら、やることは1つだ。
「分かった。俺に会いたいという奴のところに案内してくれ」
俺がそう言うと、エミリアが「ケンシン師匠、大丈夫なんでしょうか?」と
エミリアの言いたいことは分かる。
どこの誰かも分からない人間に会うよりも、今は2回戦の対戦相手の情報を得ることのほうが先決ではないかと言いたいのだろう。
確かに一理ある。
しかし、それは俺からしたら表の
けれどもこのような何が起こるか分からない場所で闘う場合、もっとも必要なことは自分たちの目的を妨害してくるすべての
俺たちが
たが、こうして
もしも〈
それだけではない。
下手をすると優勝をさらわれた腹いせに、キキョウを人質にして俺たちを亡き者にしようとすることも十分に考えられた。
もちろん、俺はそれでもキキョウを助けるつもりだが問題なのはその後だ。
この
そうなると、〈
たとえ俺の【神の武道場】の中に入ったとしてもそれは同じだ。
俺の【神の武道場】は入った場所を
最悪な場合は一時的な避難所にはなるだろうが、それでも今はほぼ
つまり、【神の武道場】の中に入るのは得策ではないのだ。
などと考えれば考えるほどキリがなかった。
まあ、2回戦の段階でそこまで考える必要はないんだろうがな……。
それでも今のうちから対策を立てておいてもいいだろう。
俺の経験上、こういった場所では必ず予測不能な事態が起こる。
今もそうだった。
さすがにどこにいるのか分からないキキョウを闇雲に探すよりも、少しでも事情通な人間を探し出して有力な情報を得ることが
それが今かもしれない。
しかし、同時に思う。
あの方とは一体、誰のことなのだろうか。
答えは分からない。
それゆえに会ってみる価値はあった。
他に誰も情報提供者がいない以上、俺たちに少しでも関心がある人間には会ってみるに限る。
こうして
ならば危険を
ただし、そのある方という人物が俺たちに危害を加えようとするなら話は別だ。
そのときは俺も
まあ、それはさておき。
「どのみち、2回戦までは時間がある。それに今は対戦相手よりも色々な情報が欲しいからな」
俺がエミリアを説得すると、案内役の男が無言で歩き出した。
ついて来いと
そんな案内役の男の背中を追って俺たちも歩き始めた。
やがて俺たちは一軒の高級そうな飲食店へと案内される。
どう見ても周囲の店とは大きさも清潔感も高級さも
王侯貴族や豪商などの富裕層のみが入れる、高級飲食店という印象がある。
そして店に入ると印象通りの光景が広がっていた。
高級な料理が並んでいるテーブルについているのは、身なりからして一目で貴族や豪商と分かる富裕層の連中だ。
「どうぞ、こちらへ」
やがて俺たちは店の奥にあった個室へと案内された。
その部屋の中央には豪勢な料理が並んだテーブルがあり、上座の席には護衛と思しき屈強な男たちに守られた1人の若い女が座っていた。
俺たちより少し年上に見える黒髪の女だ。
スタイルの良い体型の上から朱色を
「ようこそ、ケンシン・オオガミ。来てくれて嬉しいわ」
黒髪の女は、背筋が凍るような
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます