道場訓 六十 ヤマトタウンの武士団ギルド
「ここがヤマトタウンか……そう言えば1度も来たことがなかったな」
ケンシン・オオガミこと俺は、ヤマトタウンの街中を歩きながら
「ケンシン師匠がですか? 意外です。同じヤマト人が作った街なので、よく来ているものとばかり思っていました」
隣で歩いていたエミリアが不思議そうな顔を向けてくる。
まあ、普通ならそう思うだろうな。
遠い異国で暮らしている者同士、日常生活を
石造りの建造物や
そして街中ですれ違う通行人たちも、
しかし、それでも俺の姿は異様だったのだろう。
いや、俺ではなく俺たちか。
「ケンシン
俺とエミリアが歩きながら周囲の様子を
「確かにな。いくら
現在、俺たちはヤマトタウンの大通りを歩きながら、目的地である
その中で俺たちは往来を行き交う人の注目の的だった。
無理もない。
男女が3人も連れ立って
しかもエミリアとキキョウの腰に巻かれているのは
そんな2人の黒帯には金の
これは
〈
使用者の強さによって周囲にいる敵を
だが、この
俺はエミリアとキキョウを交互に見る。
最初こそ少し照れ臭そうだったエミリアとキキョウも、本来の度胸の良さもあってか少しの時間であっという間に
今では二人とも堂々と胸を張って歩いている。
ただ、その中にリゼッタの姿はなかった。
「でも、ケンシン師匠。リゼッタさんは大丈夫なんでしょうか?」
「さあな。大丈夫か大丈夫でないかと聞かれても俺には分からん……しかし、まさかあいつがクレスト教の
これにはさすがの俺も驚きを隠せなかった。
俺が最初に会った頃から6年は
そんなリゼッタがこのリザイアル王国に来たのも聖女としての仕事をするためだったらしいが、とある場所で俺の存在を知ったときから俺に会いたくて
その後、一緒にこの国へ来ていたお供の連中に一目でもいいから俺に会いたいと納得してもらい、期間限定で俺を探すため街へと出てきたらしい。
このとき、俺はピンときた。
おそらくこれはリゼッタが
クレスト教の
ましてや一国を相手にする仕事で来たとなれば、お供の連中が1人の男に会うために自由行動を許すなど信じられなかった。
そう思った俺はリゼッタに湯上りのあと「本当のところはどうなのか」と問いかけた。
するとリゼッタは
どうやらリゼッタはお供の連中に
だとすると、今頃はお供の連中は大慌てになっているだろう。
それこそお供の連中は王宮にも頼み込んで、中央街を中心に大規模な
だからこそ、俺はお供の連中を安心させるために1度戻れと指示を出した。
リゼッタも子供ではない。
素直に俺の指示を受け入れ、リゼッタは中央街へと戻っていった。
「ケンシンさま、安心してくんなはれ。今度はケンシンさまとちゃんと
けれども、俺に弟子入りした以上はただで返すわけにはいかなかった。
ここにいるエミリアとキキョウもそうだが、リゼッタにも【神の武道場】に入れるための
そのため、3人は俺抜きでも【神の武道場】へ入れるようになっている。
そして、こうしておけば遠く離れていてもリゼッタとは【神の武道場】で出会える機会が増えるのだ。
などと俺がリゼッタのことを考えていたときだった。
「ケンシン
キキョウが立ち止まり、こちらに身体ごと振り向いた。
俺たちも立ち止まり、目の前にそびえ立つ建物を見上げる。
へえ……ここが
予想していたよりも立派な
高い
それこそ数百人ぐらいは余裕で入るに違いない。
「ここがヤマトタウンの冒険者ギルドと呼ばれている
「まあ、この国の人間から見ればヤマトの建造物は特殊すぎるから余計にそう思うんだろうな。俺が最初にこの大陸へ来たときも、ヤマト国とは違う建造物に今のお前とまったく同じ印象を
そんな風に俺とエミリアが話をしていたときだ。
「誰だ、お主らは!」
「怪しい奴らめ!」
そして、すぐに二人のサムライがやってくる。
頭には立派な
「正直に答えよ、この
サムライの一人が険しい表情で
どうやら
この二人のサムライたちからも、ピリピリと刺すような
おそらく、不意の襲撃に備えて
俺が二人のサムライを様子見していると、「お待ちください」とキキョウが二人のサムライに声をかけた。
「
サムライたちは互いの顔を見合わせると、そのうちの一人がキキョウを見て「お手前の名は?」と
「キキョウです。キキョウ・フウゲツと申します」
ヤマトタウンはキキョウとカチョウが生まれた街であり、確かカチョウは一時的に
そんなカチョウは勇者パーティーの切り込み隊長として名声が上がり、このヤマトタウンにおいてはキースよりも英雄扱いされているらしい。
ならばキキョウ自身も気が大きくなるのも仕方なかった。
英雄であるカチョウの妹と言うことなら、
「キキョウ・フウゲツ……あッ!」
やがてサムライの一人が大きく声を上げた。
「お主、カチョウ・フウゲツの妹か?」
サムライの問いに、キキョウは堂々と胸を張って「はい」と答える。
その直後だった。
「この
ドンッ!
キキョウを中心に異様な音が周囲に響いた――。
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