道場訓 四十七 勇者の誤った行動 ⑫
俺たちはカガミを正式なサポーターとして雇い入れると、すぐに装備とアイテムを整えてオンタナの森へと向かった。
オンタナの森はアリアナ大森林よりも広大ではないものの、
なので俺たちは魔物の襲撃に
先頭は勇者である俺、続いて魔法使いのアリーゼ、その次にサポーターのカガミで
「クソッ、それにしても暑いな……ダンジョンの中とは違って
俺が
「ほんとよね。おまけに虫も多いし、まったく嫌になっちゃう」
するとアリーゼは前もって用意していた虫よけの薬を肌に
俺たちもそうだった。
森の中が虫だらけなのは周知の事実であったため、俺たちは職人街で大量の虫よけの薬を買っておいたのだ。
そして俺たちが虫よけの薬を
「それって他の薬よりも匂いが強いモノじゃないッスか?」
俺はカガミが何に
「だから何だよ? 匂いが強いってことは効き目が強いってことだろうが。それにこの薬は他の薬よりも安かったからな」
「でも、そんな匂いが強い薬を使ったら魔物に気づかれるッスよ」
「別にいいだろう。向こうが気づくときは俺たちも気づくだろうし、どうせ目当てのジャイアント・エイプがいる森の奥以外では低ランクの魔物しかいないんだ。先に見つかったところでどうにでもなる」
「で、でも……」
まだ何か言いたげなカガミだったが、「ねえねえ、そんなことよりもさ」とアリーゼの気だるげな声がカガミの言葉を
「いつもより
「うむ、アリーゼの言う通りだ。それにこれだけ
カチョウがそう言うと、先頭を歩いていたカガミがピタリと足を止めた。
「そうッスね。思ったよりも
カガミは背中に
「おい、もう
俺はそう言いながらもカガミから水筒と
正直なところ、先ほどから
だが女であるアリーゼが言うのならならまだしも、男であり勇者の俺から
「キースさん、こういう
「おいおい、そんな大げさな」
「大げさじゃないッスよ。それに水筒の水も一気に飲むんじゃなくて、少しずつゆっくりと飲んでくださいね。いきなり大量の水を飲むと、身体に吸収されず汗としてまた出てくるッスから」
「え? そ、そうなの?」
カガミの指摘に驚きの声を上げたのはアリーゼだ。
「本当ッス。なので身体の汗もこまめに
「そんなに気にする必要はねえだろ? たかが汗じゃねえか」
俺の言葉にカガミは首を左右に振った。
「先ほども言いましたが、
「そ、そうなのか?」
「はいッス。そして
「なるほど、そこで話は戻って
カチョウの言葉にカガミは「その通りッス」と大きく
「しかし、お主はまだ若いのによくそんなことを知っているな」
と、カチョウが感心したように言ったときだ。
「いや~、実はこれも以前にケンシンさんから教わったことなんッス。あの人は本当に凄いッスね。サポーターとしてもそうッスが、戦闘家として敵を倒すだけじゃなくてプロの
カガミは鼻先を人差し指で
そんなカガミの告白を聞いた俺は、口に
「どうしたんッスか、キースさん!」
俺はゴホゴホと
「け、ケンシンが完璧超人だと? 馬鹿なことを言うな。あいつはサポーターの仕事も満足に出来なかった無能野郎だ」
「え? それってどういう――」
貴重な水を
リーダーであり俺が出発すると、アリーゼとカチョウも続く。
「待ってくださいッス」とカガミも頭上に疑問符を浮かべながらついて来る。
俺はちらりと顔だけを振り向かせてカガミを見た。
やっぱり、こいつも
チッ、と俺はカガミに聞こえない程度に舌打ちする。
何がケンシンは完璧超人だよ……ふざけんなってんだ。
俺は内心でカガミに毒づいた。
どいつもこいつもケンシンケンシンと、なぜあんな野郎を英雄みたいに扱う。
〈魔の
あんな闘えもしないエセ
そのとき、俺の脳裏に
Bランクのダンジョン内で出会った、
中央街の宿屋に現れた、
職人街の冒険者ギルドで
そして、俺の前で
ケンシンケンシンケンシンケンシンケンシンケンシンケンシンケンシン。
どいつもこいつもケンシンケンシンケンシンケンシンケンシンケンシン。
ケンシンケンシンケンシンケンシンケンシンケンシンケンシンケンシン。
この
もしも次に誰かががケンシンを
そんな俺が奥歯をぎりりと
「あのう……キースさん」
後ろからカガミがそっと俺に声をかけてきた。
「あん? 何だよ?」
俺は顔だけを振り向かせ、じろりとカガミを
「え~と、あんまり森の中を一直線に進まないほうがいいッスよ。それに地面にある足跡も注意深く見つけながらのほうが絶対にいいッス」
は? いきなり何を言うんだ、こいつは?
しかも俺がイラついている奴と同じようなことを言いやがる。
「お前、ケンシンみたいなことを言うんじゃねえよ。いいからお前は黙って俺についてくればいいんだ」
そうさ、サポーター
「え? いや……でも……」
俺はそれだけ言うと顔を正面に戻した。
その直後である。
ガサガサッ。
俺は不自然な
他の連中も俺と同じく歩みを止める。
全員の緊張感が高まった中、不自然に揺れた
「へっ、何かと思えば
1本の毛も生えていないハゲ頭に
特徴的な緑色の肌に
しかも相手は道にでも迷っていたのか1体だけだったのだ。
ビビらせやがって、すぐにぶっ殺してやる。
俺は職人街で購入した新品の長剣を
「カチョウ、アリーゼ……お前らは手を出すなよ。あんなゴブリン1体ぐらい俺だけで片づけてやる」
そう言うと俺は、長剣を構えながら地面を蹴った。
ケンシンに対する
だからこそ気づかなかった。
俺がゴブリンを斬り殺すことに意識が集中していたとき、後方にいたカガミが「そいつは
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