道場訓 八 継承スキル【神の武道場】
「ケンシン師匠!」
意識を取り戻したエミリアは、肌が焼きつくほどの熱い視線を送ってくる。
「いや、頼むから師匠は止めてくれ」
やはり見ず知らずの少女から師匠と呼ばれるのは具合が悪い。
まあ、それはさておき。
俺はポリポリとこめかみを
どうやら体内の毒は完全に消えているようだ。
血色も見るからに良くなっており、心配していた呼吸にも異常は見当たらない。
となると、エミリアは俺の
その証拠の一つが俺の継承スキル――【神の武道場】にすんなりと受け入れられたことだ。
俺の【神の武道場】は一般的に知られているスキルとはまったく異なる。
常人には信じられないことだろうが、この【神の武道場】というスキルは自分の意志を持っていた。
それこそ、資格のない者はたとえ神であろうとも絶対に入れない。
逆を言えば、資格のある者ならば魔王ですら入れる。
もちろん、現在の道場長である俺の入場許可が下りればの話だが。
どちらにせよ、まずはエミリアが無事だったことに俺は
あとはしばらく休んでいれば体力も回復してくるだろう。
などと俺がエミリアを見つめながら思ったときだ。
「あのう、ケンシン師匠……それで、ここは一体どこなのでしょう?」
エミリアは不安げな表情で周囲を見渡した。
まあ普通はそうなるよな。
俺は
「落ち着いて聞いてくれ。見ての通り、ここはさっきまで俺たちがいた商業街の路地裏じゃない。ここは俺の継承スキルである【神の武道場】の中なんだ。そして本来だったら正式な弟子以外の人間を入れることはあまりないんだが、毒に侵されていた君を助けるためにはここに連れて来るしかなかった。つまりはそういうことなんだが……理解してくれたか?」
数秒後、エミリアは頭上に疑問符を浮かべながら小首を
「え? スキルの中? か、【神の武道場】? え? え?」
ああ……やっぱりな。
エミリアが激しく混乱するのも当然だった。
一般的に知られているスキルというのは、術者の性格や
これらはほんの一部だが、そのスキルにはどれも共通点があった。
スキルというのは、あくまでも人間の身体を
けれども俺の【神の武道場】のように、
先代の道場長であった祖父の話によれば、このようなスキルを
しかも世界中で
むしろ
それこそ知っているのは【
他にも知っているとすると、特殊な魔法やスキルに詳しい一部の貴族や王族だけかもしれない。
そう俺が考えていると、エミリアは何かに気づいたように声を上げた。
「ケンシン師匠……ここがスキルの中ということは、もしかしてケンシン師匠のスキルというのは
エミリアの言葉を聞いて俺は驚いた。
「ちょっと待て、エミリア。どうしてCランクの冒険者である君が
だが、自分のことをCランクの冒険者と名乗ったエミリアが
まさか、こう見えてエミリアは
いや、と俺は心中で頭を左右に振った。
どう見てもエミリアは
それに本物の
だとすると余計に分からない。
なぜエミリアは一部の選ばれた人間しか知らない、
俺は真剣な顔でエミリアを見つめた。
念のため確認してみるか。
「すまん、エミリア……少し
俺は悪いと思いながらも、エミリアの
俺の両目に
直後、エミリアの顔の横に文字が浮かんできた。
俺にしか見えないエミリアの真の個人情報だ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
名前:クラリア・リザイアル
年齢:16歳
職業:リザイアル王国 第二王女
称号:Cランク冒険者
特技:
備考:
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
エミリアの個人情報を確認した俺は、その内容に
「エミリア……君はリザイアル王家の人間なのか?」
俺の質問にエミリアは大きく目を見張った。
「ど、どうしてそれを?」
俺はエミリアに謝罪しつつ、相手の個人情報を読み取れる〈
「聞いたことがあります。この世には相手の情報を正確に読み取れる能力があると……そんな能力まで兼ね備えているなんて、まさかケンシン師匠は噂に聞く王宮に認められた勇者さまなのですか?」
どうやらエミリアは勇者についての予備知識に薄いらしい。
「俺は勇者じゃない。ただ、勇者とまったく無関係だったかと言われれば違うな。出会ったときも言ったが、俺は追放された
「む、無能? ケンシン師匠がですか?」
ああ、と俺は小さく
「俺はあいつらをどうにか一人前の冒険者にしたくて裏方に
俺は久しぶりに【神の武道場】に他人を入れたこともあって、自分が思っているよりも普段以上に口が軽くなっていたようだ。
ふと気がつけば、俺は赤の他人であるエミリアに事情を話していた。
キースたちとの出会いから、
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