第48話 どくしょ ④










『動画』


 その日、僕はどうしても学校に行きたくなかった。理由は思い出したくもない。


 クスクスクス……クスクスクス……。


 耳障りな笑い声が聞こえてくる。僕と同じランドセルを背負った子どもたちだ。

 

 学年が下、上、そういうの関わらずとにかく小学生が僕を笑っている気がする。

 

 ギャハハハハハハハ!!!!


「ひっ!?」


 突然、自転車に乗っている制服の男性たちが何人か、通り過ぎていった。男性たちって思ったけど、よくよく考えたら、あと何年かしたら僕も同じような服を着る中学生になるんだ。そんなに恐ることではない。


 でも、少し怖いな。あんなに笑っていたけど、もしかして僕のことで笑っているんじゃないよね。


 今日はやっぱり怖くて、瀬奈君とも一緒に行かなかった。なんて反応するか分からなかったからだ。


 そんな暗い気持ちを胸に秘めたまま、学校に着き、クラスに入った。

 

 学校に着いた時に、本当は気づいていた。

 僕をチラチラ見るような視線に。


 そしてクラスに入った時、それがますます強まった。もう、その中にいる全員が僕を見ているような気がした。


 そして、瀬奈背君やその周りの男子が、ニヤニヤしながらこっちを見ている。暗い気持ちが重くなり、腹に鈍い痛みを感じた。


「さと!! 感謝しろよお前!! 俺のおかげでおいしくなったんだからなぁ!!」


 ギャハハハハハハハ


 瀬奈背君の言葉に、周りの男子たちが騒ぐように笑った。それを他の人たちはクスクス笑ったり、ドン引きした目でこっちを見ている。


 目の前が真っ暗になるってこういうことを言うんだ。


 景色がどんどん色あせて、灰色になり、何も見えなくなる。目の前は真っ白なのに、頭の中は真っ暗だった。あまりにもショックだとこういう風になるんだな、なんて呑気なことも考えてしまった。これは、もしかしたら現実逃避なのかもしれない。


 昨日、テレビを見ていると、目を丸くする映像が飛び込んできた。それはとある学校の教室、その場面はどこか見覚えがあると思ったら、一人の僕に似ている子が机に突っ伏している。


 なんだこれは、と思った時だ。


 サイレンのようにその子は泣き出した。

 あまりにもうるさくて本当にサイレンみたいだった。それによるものなのか、上の電気が何個か落ちて、教室が真っ暗になる。そらによって更に僕が泣く。


 どこかに行ってた先生が帰ってきて、僕の仕業だと思って叱りつける。


 僕は泣きながら違う、と言うけど先生は信じない。そのやりとりが面白いのか、他のスタジオ奴らは笑っている。そんな映像だった。


 幸い、両親がそこにいないのは良かった。


 見てたら、もうすごい剣幕で怒ると思ったからだ。なんとなく、撮影してのは瀬奈背君だとは思っていた。


 だけど、こうして目の前で嗤われるのは、やっぱりショックだ。もしかしたら大した意味が無いかもしれないけど、それでもショックだった。まさか、こんなに嗤うな私。


「あぁ、そうそう、さと。お前の両親とかにはちゃんと許可とったらしいからな。テレビ番組の人が言ってたぜ」


 そんな話知らない。多分嘘だ。だけど、嘘じゃなかったら母親、父親、または両方が僕を騙していることになる。

 

 そんなのもう疲れるだけだと思ったから、項垂れて席に座った。彼らの笑い声が耳にこびりついて離れない。


 多分、心を殺したのってこの時だと思う。


 










 …………続きはどこだ、なぜ続きがない。

 あるはずだ、この続きが絶対にあるはずだ。この小説たちの正体が分かった。

  

 そして、俺は今あいつを待っているんじゃない。ここでこの原稿用紙を見させることがあいつの目的だったんだ。


 そうだと確信持っていえる。


 だって……そうじゃなきゃ、どうして登場人物に俺の名前が載ってあるんだ。しかも、ほとんど事実に近い。


 そうだ、俺はあいつの動画を投稿したことがある。だけどそれはあんな泣いているような動画じゃない。


 あいつが、一人居残りさせられて、教室中を暴れてダンスして泣いているのを撮ったんだ。あいつの動きは酷かった。そこらかしこの机の上に乗って何か言っている。


 これは後々に判明したことだが、あいつは少しそういう症状を持つ者であった。

 

 それを知らずに俺はあんな動画を番組に送ってしまった。もしかしたらテレビ局の人は本人に許可をとっているものだと思ったのか、こんなに面白い映像を流してたまるもんかと思ったのか、番組で俺の動画を流した。



 奇行少年として。


 

 その呼び名が原因だったのかも知れない。

 あいつは次の日から『奇行少年』と言われ続けた。俺もその内の一人だ。てっきり喜んでいると思ったんだ。それこそ、おいしくしてやったというやつだ。


 だけど、あいつは本当は嫌だったんだ。


 そんなこと全く分からなかった。こんなに嫌だったなんて。


 そして今回は『終』という文字が無い。

 つまり続いているんだこの話は。


 一つ目の話が男に殺される。

 二つ目の話は殴る蹴るをひたすらしてころす。

 そして、三つ目はどうやっけ殺すのか全く判明していない。


 何だ、あいつはどうやって俺を殺すつもりなんだ。早くしないと殺されてしまう。

 あいつに殺されて……なんだ、この焦げ臭いは?


 そう思った時だ。


 偶然なのか、上から紙が顔に落ちてきた。

 はがして見るとそこには……


『焼け死んださと君の顔はどんな顔をしているか分からなかった 終』


 頭が真っ白になりそうだった。


 瞬間、部屋の中から発火音が聞こえてきた。そんな気がする。

 



 

 

 

 

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