第47話 どくしょ ③
『上位ゲーム』
この世の肉体は、もはや不要になった。
昔は肉体があって、それぞれの身体というものがあったらしい。だけどもうそれも必要はない。
特定の身体など必要ない。
自由にカッコいい顔、筋肉質な腕や足、そしてそれぞれ、バランスが良い身体のパーツ、あとは内臓、血液、脂、などなどを設定して……よし、完成だ。
さて、今回はサッカーだから機動力とか重要だからこんなもんで良いだろ。
「よぉ、アルファM」
「あ、シータK」
俺たちを示す名前は記号となった。
アルファやアルファベット、数字、ほかにも色々な記号で名付けられることになった。
もう字を書いたり、打ったりするとか、コスパの悪いことなんか出来ない。だからこれで十分。
「またお前も随分イカついパーツにしたな」
「いや、お前の方こそなんだよその足と腕は。下半身に対して上半身貧弱過ぎるだろ」
「いいんだよ、これで。大体、足だけだろ? 使うのなんて」
「いや、フィジカルも大事だろ」
「いいだろ。別に骨折するわけじゃないし、痛みだって感じないんだぜ?」
そう、身体がいらなくなったから、同時に肉体が折れた時の痛みとかも味わうことが無い。ところで、昔は血液っていう赤い液体が身体中を回っていたらしいけど、それってマジなん?
だとしたら、どこから手に入れたんだよそういう液体。何で身体の中を駆け巡ってんだよ。意味わからねえよ。
え? 俺たちはどうやって生まれたのかって? そりゃあ、肉体に入った状態でいくつか化学物質を買うんだよ。水とか窒素とか、あと酸素とか? まあその辺のことは分からないけど、後はその中に商品として『ヒトの元』ていうのがあるんだ。種子みたいに小さくて薄いガラス玉みたいなんだけどな。
それをその中に入れてやれば、後は自然とヒトが出来上がっていく。俺はよく分かんねえけど、何か近年はその作業すら省くことができるようになるらしい。
いいねぇ、そしたらもっと生むのが楽になるじゃねえか。
え? らんし? せいし? 何だそりゃ。
何かの呪文か?
まあ、いいや、とりあえずサッカー開始だ。
「ふぅ、終わった」
「なあ、あいつさぁ。クソじゃねえか?」
俺はシータKの差している指先の向こう側を見る。そこにいたのはジェーエン1だ。
ジェーエン1は、野球とかはパーツの選び方が上手いけれど、サッカーのパーツの選び方、そして動き方とかはドがつくほど下手くそであった。
「全く、あいつには本当散々な目に遭ったよな」
シータKの言葉に俺は頷く。
昔はサッカーよりも野球の方がブームだった。昔ながら残っているスポーツの中では。
俺たちは野球がそこまで上手いわけじゃなかった身体、ジェーエン1とかからは、かなりなじられ、いじめられた。
「なあ」
ポン、とシータKは俺の肩に手を置いた。
その顔を見ると、彼は咀嚼しているように口をむにゃむにゃしながらニヤニヤしてジェーエン1を見ている。
なんとなく、彼が何を言いたいのか分かったから俺もニヤリと笑う。
頷いたのは、同時だった。そして、駆け出すのも同時。だけど、手を上げたのはどっちか分からない。
「……いや、いじめの場面長すぎないか?」
設定が斬新だと思い、興味は少しそそられた。だけど、これを元にしてやることがいじめって……しかも、とても見るに耐えなかったから飛ばしたが、どんだけ殴るの? いや蹴っているのか?
その後の描写は5ページ以上にわたって、ボカボコガギガギ、などという打撲音だけが書かれている。しかも5ページ目の最後に『終』と書かれているのでなんだこりゃ、だ。
これではまるでギャグ漫画。
最後に『終』て書いてあるし、これも終わったのだろう。
この物語で何がしたいのかさっぱり分からない。あいつ才能無いだろ。
まあいいや、これで最後か。
あいつ本当に遅えな。そういえば、あいつはよく小学校の頃は一緒に帰っていたなぁ。
毎回、居残りさせられて泣いてたっけ。
俺はそれを密かに動画に撮って、友人と見ていて、ある日、手違いでそれSNSに載っけちゃったっけな。
あの後、どうなったか分からないけど。
まあ、思い出はそれくらいにして、内容を見てみよう。
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